隠居生活供給公社




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2005-03-28 (Mon)

[]Vermilion::text 11F「塔の国のなんとか」 14:35

今日も此処は平穏である。或る人は此処は空気が乾ききっているので好まないと云ったが私はこの環境が好きである。古びた揺り椅子に腰掛け今にも壊れそうな蓄音機から流れる少しおかしな音色の曲を聴くのが私の日常である。大概客人に邪魔をされるが。

目が醒めると少女が揺り椅子に座る私の前に立っていた。歳は十かそのくらいか。見かけないその顔は旅人か?そう問おうとした刹那、少女の口から私の想像し得ない言葉たちが飛び出した。
「なにここー。なんか古めかしいっていうかぼろいし。てか、あんた誰?別にあんたに用事があるわけできたわけじゃないんだけどさー。」
礼儀を知らぬ者め、いつかその身に還るぞ。そう言いたいところを飲み込み改めて少女に問う。
「名乗りたくても私には名は無い。そなた、何処へ行くのだ。」
「どこっていうか、なんか白い喋る小鳥を追っかけてきたらなんか塔に入ってるしー、なんか訳わからないとこばっかり通ってきたのよねー。あんたもなんか訳わからないし。」
この礼儀を知らぬ者の発言を如何にかしてしまいたい、そんな衝動を抑えつつふと気になったキーワードを反芻する。白い小鳥、しかも喋る。普通そんなものが存在するならば嫌でもわかるはずだ。なぜならこの上の階層に行きたいのであればどうしてもこの部屋を通らなくてはならない。私は上へ進むものへの意志を確認する、塔の意思だからだ。
「あんたも知らないんだ。ここに来る間にいろんな人に聞いたけどさー、誰もが知らないとか上に行ったとかしか言わないんだよね。」
少女は天を仰いだ。
「まだ、もっと、上なのかな。」

私はキーワードを繰り返し、少女は可能性を繰り返す。両者向かい合ったまま各々の事を考える。しかし行き先は一つ。
「上に行くしかないかー。」
少女が呟いた瞬間、白い小鳥が私の背後から飛び出す。いつの間に、気配すら感じなかった。私は頭上で弧を描き飛ぶ小鳥を呆然と見つめた。小鳥はにやついて・・・私には少なくともそう見えたのだが・・・少女に向かって喋り始めた。
「モットウエ、モットウエ。トウノウエハドンナカナ。アオイオソラカ、ユメカハタマタ。ホウラツカマエテゴラン。ツカマエラレルモノナラツカマエテゴラン。」
「アー!イター!」
少女ははっと我に返ると小鳥を捕まえようと天に手を伸ばし必死にジャンプする。
「ムーリムリ。」
小鳥はすいーっと上の階へと続く階段に吸い込まれるように滑り込む。
「アー!!・・・っと、追っかけなきゃ!それじゃね!」少女はぺこりと会釈すると階段に向かって駆け出す。
「最後だ、そなたの名前は。」
「有栖、アリスよ。忘れたら怒るからねー!」言葉の最後の端が聞こえたとき既に有栖の姿は階段に吸い込まれるように消えていた。

ふっ、と私は哂う。不思議な事も在るものなのか。しかし私は現状で満足している。私は此処で思いの侭に過ごす。これ以上の不思議は必要無い。

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