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Westminster日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2012-02-12 イギリスの国会議員候補は(ほぼ)仕事を辞めない

(このエントリは「保守党の公認候補選定はまず能力評価でスクリーニングする」の後編です)

公認候補選定プロセスの後半(党支部主導のプロセス

前半のプロセスを経て、晴れてApproved List of Candidatesに登録された候補者は、今度は実際の選挙区保守党支部から公認をもらわなければいけません。通常、総選挙が予想される半年ほど前に公認候補の決定が各支部において行われます。そのタイミングがくると、登録候補者たちは党本部の候補者部Candidates’ Departmentを通じて、どの選挙区の公認を得たいかを応募します。この応募を受けて、各支部での候補者選定活動が行われます。各支部での候補者選定プロセスは、支部によって異なる所がありますが、以下は一般的なケースについて記します。

各支部での選定活動は通常3ラウンド制になっています。最初はSelection Committeeにおいて、候補者の書類審査を行います。この段階で、候補者が30人から10人くらいまで絞られます。Selection Committeeの議長はその支部の会長が務め、残りの委員はその地域の地方議員など様々です。次の第2ラウンドでは、残る10人の候補者を集めて、プレゼンテーションとQ&Aが行われます。そこで、候補者が4人程度までさらに絞られます。第3ラウンドでは、その支部の一般党員全体まで投票権が広げられ、残る4人のプレゼンテーションとQ&Aに基づいて、投票が行われて、最終的に1人の公認候補が確定します。

この第3ラウンドは、支部によって方法が異なる所が多く、場合によっては一般党員ではなく支部の幹部のみで投票が行われる場合があります。また、前回の総選挙の際には、保守党にとっても、労働党にとっても、セーフシートではない2つの選挙区において、予備選挙のようなことが第3ラウンドで行われました。すなわち、一般党員だけではなく、選挙区有権者全員に投票用紙を郵送して、その投票に基づいて、保守党候補者を決定しました。

City Seat Initiative (CSI) という新たな取り組みがあり、この場合も、各支部における候補者選定のプロセスがやや異なります。この取組はManchesterなどの4つの都市で始まったものですが、通常の公認候補決定の時期よりずっと早い、総選挙の約18ヶ月前から、特定の都市において登録候補者保守党のブランド向上のためのキャンペーンをします。Manchesterの例で言えば、5つの選挙区に対して、15人の登録候補者がこのキャンペーンをしていました。このキャンペーンを通じて、キャンペーンの経験を得ること、そして、政党支部の幹部や党員との交流を深めて、よりよい候補者選定を行えるようにすることが目的です。そして、選挙の約6ヶ月前になると、このCSIに参加している登録候補者の中から、最終的な候補者が各選挙区に選ばれます。

現職議員の再立候補

ある選挙区の現職議員が、再度、下院議員として立候補する意志を固めると、その政党支部の幹事会に諮られます。ここで、公認が承認されればそこで公認が決定します。一方で、ここでは承認されない場合、議員は再公認の是非を一般党員による投票に委ねることができます。ここでも、承認がなされない場合、その選挙区はオープン選挙区となり、現職議員がいない選挙区や、現職議員リタイアする選挙区と同様に、上記のプロセスを経て候補者を選定します。

よく、イギリス国会議員は、最初は厳しい選挙区からスタートして、偉くなるとセーフシートを割り当てられると言われますが、それはあまり事実の裏付けがないようです。選挙の経験がない候補者が、最初は労働党のセーフシートで選挙の経験を積み、その後、違う選挙区から立候補することは多々ありますが、いったん議員になると、どれだけその選挙区が厳しくても、基本的には同じ選挙区から立候補することになります。ただし、イギリスでは、定期的に選挙区の区割りの見直しが行われるため、この区割りの結果によっては、全く異なる選挙区から現職議員が立候補することも考えられます。

A-List

さて、ここまでの説明で、公認候補選定の後半のプロセスが完全に政党支部主導によるものだと分かるかと思います。一方で、2005年にキャメロン氏が党首になってから、性別や人種の観点からより多様性に富んだ保守党候補者をそろえる、という目的のもとで導入された、党本部としての優先候補者リストです。Wikipediaの説明はこちらをご覧ください。Conservative Homeという、党本部とは独立のブログに掲載されている、2006年時点での推定リストも、wikipediaに引用されています。性別としては50:50、人種も何らかの基準でバランスをとったリストになっていることと思います。あくまでも最終決定権は政党支部にあるので、党本部側はこのリストを持って、相談ベースで政党支部と話をしていたようです。

候補者の負担

普通に働いている人が、国会議員になろうと思うのは、大きな大きな決断です。特に日本の場合は選挙活動資金や、落選の場合の仕事などが問題になります。イギリスではどうなのでしょうか。

まず、資金に関しては、「能力やプレゼンテーション以外に、候補者の持っている資産が、公認選定に影響をあたえることはあるか」と聞いてみましたが、その答えはNoでした。選挙資金はもちろん必要になるし、候補者自身も資金提供者を紹介することはしますが、基本的な資金集めは政党支部の責任になっているようです。それでも、候補者が普段は働きながら週末に選挙活動をしたり、移動などのお金はかかるのですが、google検索でひっかかる数字は約4万ポンドでだいたい500万円弱です。決して安い金額ではありませんが、日本で言われている数字とは、桁が違うようです。

また、落選した場合の仕事ですが、通常は勤務している会社に普通に戻れるそうです。選挙活動そのものが、選挙前は週末のみ、選挙期間は1ヶ月程度、ということなので選挙期間に有給休暇をとって済ませる人が多いようです。したがって、落選しても、普通にまた仕事に戻ることができる。稼いだ資産も職もなげうって、決死の覚悟下院議員を目指す日本とは、かなり様相が異なるようです。

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さて、長々と保守党での下院議員候補者選定プロセスを解説してきました。日本とはかなり違うことは明らかです。ただ、日本よりも「良い」と思える仕組みだとしても、それをそのまま輸入して機能するわけではありません。大事なことは、こういった仕組みが機能する、一段高次の要因を理解することです。本日のエントリでは、ひとまず、その要因を探る前提として、現状の違いをファクトとして残すことを主眼におきました。