「青空の翳り/とにかく淋しいのです」

hiroc-fontana2009-03-29

 1979年4月21日発売、太田裕美さん14作目のシングル。オリコン最高位は56位で、推定売上2.4万枚。筒美京平松本隆とのゴールデン・トリオから完全に離れての最初のシングル(作詞:来生えつこ、作曲:濱田金吾)がこの曲で、曲調のおとなしさからか、発売当時は地味な成績で終わったが、今ではファンの間では隠れた名曲として語り継がれ、「木綿のハンカチーフ」と並ぶ人気曲であったりするのだ。オリジナルアルバムには未収録。
 hiroc-fontanaとしても毎年、春の訪れとともに無性に聴きたくなる1曲がこれ。

 ちょっと恥ずかしいのだけど、このブログを書き始めた最初の日記で、俺はこんなことを書いていたのね。

 例えば、今日のような冬の日の朝、部屋の窓際でひとり、柔らかい朝日を浴びながら雲一つない青空を見ている時。静けさの中で、今日も真っさらな朝を迎えられたという、かすかな幸福感がじんわりと湧いて来たりする。

 自分の人生なんてちっぽけだけど、今朝も独りだけど、今までそれなりに頑張って、今日ここにいるのだなあ、と、金色の日に照らされながら、沁みじみと・・・。

 その寂寥感と幸福感の入り混じった感覚。

 タイトルのLonesome-happy-daysは、そんな意味を込めて付けた。

 今思うと、コレってまさに「青空の翳り」の世界そのものだったような気がする。
 たとえば、恋人と別れて初めて迎える週末がとっても良い天気だったりして、あ〜あ、とか思うこと、あるよね。(俺は、あったの。何回も!)
 もし今日が1ヶ月前だったとしたら、二人で一緒にこの清々しい休日を楽しんでいたのになあ、それなのに今日は、ひとりかあ〜、みたいなね。
 そんな時、青空が青い分だけ、哀しみが心に沁みちゃったりして。。。
 だけどね、この空の清々しさと温かさがあるから、たとえひとりに戻っても、心を一新して明日に向かって歩いていけるかもしれない。そんな気持ちにもなれるのよね。
 この曲では、流麗なピアノのアルペジオに乗せて、別れに揺れ動きながらも凛として明日に向かおうと決心する女性の気持ちを、太田裕美さんは得意のファルセットをほとんど使わずに、地声で力強く歌い切っている。それまでの裕美さんの持ち味でもあった「甘さ」を極力排した、そんな力強く大人っぽい歌声が、この曲のもうひとつの聴きどころでもある。あまりに吹っ切れた清々しい曲調とボーカルゆえ、当時ラジオで競演していた「所さん」に「どこが「翳り」なの?」と突っ込まれたりもしていたが(笑)。
 カップリングの「とにかく淋しいのです」(詞・曲はA面と同じ)も、驚くほどコンセプトは「青空の翳り」と似通っていて、サビでは

支えてよ 呼びかけてよ わたしの青空
 とにかく とにかく 淋しいのです

というフレーズが出てくる。思うに、このシングル盤の当初の企画そのものが「青空の翳り」であって、そのコンセプトに添って出来上がった2曲がコンペによってA/B面に収録されたのではないかと推測するのだ。「とにかく淋しいのです」も「青空の翳り」と同様のピアノ弾き語りのバラードで、むしろ「青空の翳り」よりもメロディーはシンプルかつキャッチーで、孤独感がダイレクトに伝わってくる。もしかすると、こちらをA面にして「青空の翳り」のタイトルを冠してリリースした方がヒットした可能性があるかもしれないな、などと個人的には以前から思っていたりもするのだけども、よくよく聞き比べれば最終的にはやっぱり「サビシー、サビシー」の連呼が少々ウザイ「とにかく淋しいのです」は、B面に回って正解だったのかもしれないな、なんて結論だったりする(笑)。A面に回った「青空の翳り」の方が、空の爽やかさと透き通った哀しみの対比が生きていて、より曲に深みがある気がする。
 オリジナル・アルバムには未収録だったけど、俺としては太田裕美のシングルでは至上最強のカップリングとしてオススメの2曲。30年前の曲だというのに、ちっとも古さを感じさせない、珠玉のバラードだ。機会があれば裕美ファン以外の方にも是非聴いてほしいと思う。