KSのこと


 ケヴィン・スペイシー。好きな俳優でした。
 代表作は「アメリカン・ビューティー」ですが、ワタシがイチバン好きだったのは、「L.A.コンフィデンシャル」で彼が見せた、ヒーロー面した悪徳警官。背広をダンディーに着こなし、エレガントに微笑みながら、その裏では手練手管で悪を尽くすその腹黒さに、ゾクゾクさせられたものでした。L.a. Confidential / [Blu-ray] [Import]
 そんな彼、私生活では結婚の“ケ”の字もなく、以前からゲイであると噂されていました。ワタシとしては好きな俳優さんのひとりですから、それはそれでステキなことでは?なんて思っていたのですが。。。
 今回、ハリウッドのセクハラスキャンダルの嵐が吹き荒れる中、彼・KSが男性へのセクハラの当事者として登場してしまった(そしてどさくさ紛れにカミングアウトしてしまった)ことは、ファンとしてはとても残念なことです。
 
 かつて、巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督が寵愛した俳優、ヘルムート・バーガーは、まさにヴィスコンティの恋人であることを公然の事実として認められながらも、それをスキャンダラスに取り上げられることはなく、ヴィスコンティ映画でそのミステリアスな魅力を振りまき、観客を魅了し続けました。ルートヴィヒ ? 神々の黄昏 完全復元版 [DVD]
 同様に、ヴィスコンティ映画に多数出演したダーク・ボカードも、ゲイであることを噂されながらも生涯それを認めることなく、スクリーンでも私生活でもミステリアスな陰影を残したまま、この世を去りました。
 希望としては、彼・KSもそんな感じで、ミステリアスな魅力を保ったままキャリア後半を重ねて欲しかったし、そうなるものと思っていました。
 しかし報道そのままの、若い男性に誰彼構わず手を出していた(下品な表現ですが)とすれば、ミステリアスも何もありません。おそらく何かが彼の「万能感」を間違った方向に導いてしまったのでしょう。相手の心を傷つける行為は誰にも、まして力のある者であるなら尚更、許されるはずもありません。
 その意味では、今回の批判はやっと、同性間のこうした不正行為が、アナザー・ワールドあるいはアンダーグラウンドでの出来事として終わらせるものではなく、より普遍的なものとして俎上に上がった、いかにも「21世紀的なスキャンダル」と言えるのかもしれません いずれにせよ、ある意味では人間の性(さが)でもあるこうしたスキャンダラスな話は、かつてのエンタテインメント界には数多隠れていたに違いなく、すべて赤裸々に暴露されてしまう21世紀という時代をワタシたちは迎えているわけで(おそらく泣き寝入りしていた数多の人々を思えばそれは好ましいことなのです)、それはつまり、ヴィスコンティ時代の、良くも悪くも、ミステリアスなものはミステリアスなまま呑み込んでしまうという、そんな時代はとっくに終わっていたということなのですね。
〜11/6追記
 続報が次々と。KS、完全アウトですね。同情する余地は、無くなりました。。。当初はワタシ、不本意な形でカミングアウトに至ったと表層的に捉えていたので、彼に同情的な気持ちでこの記事を上げたのですけれど(反省です)、確かによくよく考えれば、謝罪文と絡めて、言い訳にも贖罪にもならないにも関わらずカミングアウトを発表したことは、やはり致命的でした。大物の俺が意を決してカミングアウトするのだから、世間はそれで当然許してくれるだろうとでも勘違いしていたのでしょうか。そうした「裸の王様」ぶりが、今回のスキャンダルに繋がってしまったのでしょう。