人は三つの顔を持っている〜「スリー・ビルボード」

 近年のオリンピックの主役は、日本の場合、やっぱり女性よね。ここのところ毎回、女性アスリートの方が男性アスリートより多くメダルを獲っているし。今回の平昌オリンピックでも、なぜかバッシングされる“ジャンプ”の彼女も(無事メダルが獲れて少しはバッシングも収まるかしら)、最強スピードスケート陣も(安心して見ていられたわよね)、ホンワカムードと裏腹に手に汗握る試合運びで目が離せなかったカーリング女子たちにしても、女性陣の活躍がホント、目立っていたよね。フィギュアスケートの主役こそ、二人の“王子様”(ユヅ&ショーマ)ではあったけれど、ワタシ的には宮原サトコちゃんの、どこか垢抜けないキャラと、それとは正反対の繊細かつ優雅な演技が大好きで、密かに応援してたのだ。彼女、惜しくもメダルには届かなかったけれど、まだまだ伸びしろはあると思うし、何しろ大舞台でパーソナルベストを出せる肝っ玉があるわけだから、これからに期待よね。
 あ、そうそう、とは言っても今回のイチバンの収穫は、男子カーリングでしたわ。日本カーリングチームの“ムキムキ君たち”も勿論、目の保養になったけれど(笑)、ワタシとしてはなんと言ってもアメリカのおっさんチーム、中でも“マリオ”さんが大ヒット。別の意味で、目が離せませんでしたわ(笑)。
 
 さて、前置きが長くなりました、本題に入ります。今回はジャパンオリンピックチーム同様、女性が主人公の映画をピックアップ。アカデミー賞作品賞にもノミネートされている「スリー・ビルボード」。

 この映画、主題としては「娘を惨殺された母親が犯人捜しをする」ということで、本来はサスペンスとしてジャンル分けされてもおかしくないテーマなのだけれど、実はそう一筋縄ではいかないよ、といわんばかりの斬新な切り口で話が進んで行くわけで、とても面白かったですわ。脚本の勝利、ね。
 冒頭は確かにいかにもサスペンス風にストーリーが進んでいくわけだけど、話が進むにつれてドンデン返しがあちこちに仕掛けられていて「え?そうだったの?」となっていく。でもその“ドンデン返し”の中身がカギで、そこがこの映画の面白さでもあるわけ。ミステリー定番の、いわゆる「こいつが犯人だったのか!」というような一面的なものではなくて、この映画の場合、登場人物のキャラに仕込まれた多重構造が、次の展開を敢えて読めなくするというカオス、そこが「え?そうだったの?」となるのね。
 実際のところ、実社会でも常々、色の濃さ・薄さはあるにしろ、そういうことが起こり続けているわけでね。
 例えば、ガサツでキレ易くて大嫌いな上司が、実は自分を陰ですごく頼りに思って評価してくれていたり。物凄く盛り上がった楽しいデートの翌日、相手から突然、一方的なお別れメールが届いたり。はたまた、コワイと思っていた居酒屋の強面の大将が、実はおしゃべりなオネエキャラだったり(苦笑)。
 え?そうだったの?と。
 それはサスペンスであり、悲劇であり、喜劇であり、心温まるエピソードであり。観方によって七変化するストーリーが、あちこちに転がっているわけで。つまり、人間そのものが自分でも次の感情が予測できないカオスの塊であって、だから人間関係も、展開が読めないカオス状態にいつもあるわけでね。
 映画『スリー・ビルボード』の主人公の場合、娘想いで優しく悲しみに打ちひしがれた母親と思いきや、実は母親としては「かなり難あり」な人物であることが途中で明らかになったり、その主人公が看板(ビルボード)の傍で思いがけず出会った小鹿に優しく話しかける姿にホンワカさせられたかと思えば、次の場面では思わず失笑してしまうようなゲスな憎まれ口を警察官に向かって吐いてみたり。人物を実に多面的に捉えていて、そこがストーリーに深みとリアリティを与えているのね。
 ワタシがいちばんウルウルきたシーンは、病院内での「オレンジジュース」のエピソード。まだ公開中の映画なので詳しくは語れないのが残念なのだけれど、フツーのサスペンスの展開だったらそのオレンジジュースを相手にぶちまけても良いようなところ、登場人物は、そうはしない。だから、え?となって、ウルっとするのね。エンディングも、観終わってすぐは「え?」という印象ながら、あとからジワジワくる感じがまさにこの世の「カオス」であって、やはり良いエンディングだったな〜と思わせてくれる。
 物語の発端は、ミズーリ州の片田舎のほとんどクルマも通らない道端の3枚の立て看板に貼られたメッセージ広告。(本題は「Three Billboards Outside Ebbing, Missouri」。)そのビルボードが3枚あることが、人間の多面性、物語の多面性を象徴しているのかな、なんてことを思ったのだ。
 主演のフランシス・マクドーマンドさん、設定はかなりエキセントリックな役柄ながら、まさに「いるいる、こんなオバサン」と感じさせる喜怒哀楽すべてにリアリティのある演技が見事です。