大阪都構想の前哨戦といいながら大阪都構想を真正面から語らない不思議、維新と公明は統一地方選の争点から大阪都構想を意識的に外そうとしている、反維新派はこの手に乗ってはならない、橋下維新の策略と手法を考える(その15)

 2015年統一地方選の4月3日告示日、橋下維新代表の選挙演説を聞いた。大阪でたまたま午前中に会合があり、午後の時間が空いたので街頭演説でも聞いてみようと思って出かけたのだ。場所は此花区のUR高見団地(大阪駅からバスで20分前後の場所)、天候は雨交じりの風が吹く日で100人足らずの聴衆が傘をさして静かに演説を聞いていた。

以前、2月の小春日和の土曜日、京阪電車の寝屋川駅前での橋下氏の街頭演説の印象について書いたことがある。正午から始まった街頭演説には数百人に上る中高年女性の聴衆が集まり、駅前は熱気で溢れていた。それと比較すると、今回の雰囲気は侘しいの一言に尽きる。悪天候の所為もあろうが、演説する側も聞いている側もいっこうに雰囲気が盛り上がらない。それもそうだろう。演説の第一声が「橋下チルドレン」(女性衆院議員)の不祥事の弁明から始まったからだ。

聞けば、3月衆院本会議の前夜、彼女は他党国会議員と居酒屋に飲みに行き、翌日13日の本会議には「体調不良」で欠席、それでいながら14、15両日には京都北部(宮津)へ観光旅行に出かけたというのである。橋下氏が街頭演説で最も力を入れるのが、維新以外の府議・市議が「何の仕事をしないで高給を貰っている」という一節である。「自民・公明・民主・共産は何もしない」と口を極めて罵り、返す刀で維新の改革姿勢を打ち出すのが常套手段になっている。そんなときに、肝心のお膝元で「橋下チルドレン」の不祥事が発覚したのだから、面子が立たないことおびただしい(4日夜、結局議員辞職はさせずに「除籍」という形で決着を図った)。

しかし私が驚いたのは、橋下氏が大阪都構想の話にはほとんど触れず、従来からの「無駄金を減らした」との演説を初めから終わりまで繰り返したことだ。議員定数を削減した、職員給与を大幅に削減した、外郭団体を整理した、自治会・町内会への補助金を減らした、余ったお金で学校給食やパソコン機器を充実した等々の話である。市議選の応援演説だから、それはそれでいいとも言えるのかもしれないが、どうやらそんな簡単な話しでもなさそうなのだ。

帰りに大阪駅で買った各紙(夕刊)は、悉く今回の統一地方選大阪都構想の前哨戦と位置づけ、次のような大見出しを打っていた。
「『都構想』前哨戦スタート」、「大阪府議・市議選告示、住民投票へ攻防」、「維新 vs 反維新 鮮明」、「各党幹部ら舌戦」(読売新聞、2015年4月3日)、
「都構想 民意はどちら」、「維新・野党 住民投票の試金石」、「大阪の命運賭け決戦」、「造反vs後輩 因縁の対決」(産経新聞、4月3日)
「大阪の未来託すのは」、「都構想 舌戦駆け引き」、「維新『改革の旗印』争点に、野党『土俵乗らぬ』警戒も」(日経新聞、4月3日)
大阪都構想 行方占う、府議過半数が焦点」、「大阪のかたち 訴え、都構想住民投票の前哨戦、市民も議論注視」(毎日新聞、4月3日)
大阪都構想 占う、道府県指定市議選告示」、「論戦スタート、各党の第一声」、「視点、住民投票の前哨戦」、「考える 街の未来、都構想 大阪『変わる』『壊れる』」(朝日新聞、4月3日)

これら各紙の論調と私が聞いた橋下氏の演説の内容は余りにも落差が大きい。ひょっとすると、大阪駅前での第一声の内容は此花区の団地とは違っていたのかもしれないと思い、たまたま取材に来ていた旧知のフリージャーナリストに聞いてみた。だが、内容は大阪駅前でもそれほど変わらなかったという。大阪駅と言えば大阪の表玄関だから、そこで都構想の話をしなかったのであれば、選挙争点として都構想を本格的に取り上げる意志がないということだ。なぜか。

そう言えば、演説の場所で運動員が渡していたチラシを改めて見ると、「維新には財政改革の実績があります! 身を切る改革と徹底したムダの削減により、大阪の財政を立て直しました」というのがメインタイトルで、その下に議意定数の削減、借金の削減、5年連続黒字経営、赤字解消が実績として羅列され、「この改革の流れを止めないために大阪都構想が必要なのです!」、「『大阪維新の会』公認候補者に投票いただくことが、実質的に住民投票で賛成することと同じ意味を持ち、都構想の実現につながります」と結ばれている。つまり大阪都構想大阪市の単なる「財政改革の手段」であり、市議選での維新への投票は都構想住民投票への賛成と同じとの位置づけなのである。

このことは、維新が公明との裏協議で統一地方選と都構想住民投票を同時実施することに執拗にこだわったことと軌を一にする。維新は当初から「大阪都構想=大阪のかたち・統治構造の改変」を正面から府民・市民に問うことを恐れ、府議選・市議選と都構想住民投票を抱き合わせて「ドサクサ紛れ」の投票に持ち込み、都構想を一挙に実現しようと企んでいたのである。これが「寝返り」「裏切り」の記憶を少しでも薄めたい公明の思惑で住民投票は1ヶ月余り延期されたものの、その意図は現在に至るも少しも変わっていない。要するに、維新と公明は大阪都構想統一地方選の争点にしたくないのであり、府議選・市議選で維新が勝利を収めれば、公明が住民投票でもその方向で協力することに(幹部間では)話がついているのだろう。

産経新聞はそれと窺わせる記事を次のように書いている(2015年4月3日)。
 「大阪都構想をめぐって候補者の演説が熱を帯びる大阪府議選、市議選。大阪には各党の幹部や国会議員も応援に駆けつけたが、都構想の是非について言及する演説は比較的少なく、全く触れない幹部もいた。」、「梅田で街頭演説に立った大阪維新の会橋下徹代表は、大半を市議会野党各派の批判に割いた。」、「公明の佐藤茂樹府本部代表は(略)大阪都構想への言及はなし。演説終了後の取材にも『都構想に言及する理由がない。選挙の争点ではない』と答えた。」、「共産の辰巳孝太郎参院議員も大阪都構想にはほとんど触れず、消費税増税など国政の課題を中心に演説。『自民、公明、維新への1票は戦争をする1票になる』と他党を批判した。」などなど。

日経新聞も同様の観察をしている(4月3日)。
「選挙戦は反対派の政党同士も議席を奪い合うライバル関係にある。主張の違いをはっきりさせるには『他の政策を打ち出した方が支持を獲得しやすい』とする陣営も多い。『都構想に関する主張に力を入れると、維新の土俵に乗ることになる』ことからも都構想批判を抑える動きもある」と。

私は反対派のこの選挙戦術は「危うい」と思う。維新と公明の手に乗せられて都構想を選挙争点にしなくなれば、結果として彼等の策略にはまって府議選、市議選が事実上の都構想住民投票になってしまい、5月17日の住民投票前に決着がついてしまう恐れがあるかあるからだ。共産陣営などの中には、国政レベルの政策の違いを表に出さなければ自民や民主との差別化がつかないとして消費税問題などを出す向きもあるようだが、勘違いもいいところだろう。大阪都構想への批判を鮮明に打ち出すことで他党派との差別化を図るべきであり、そのことによって投票率を上げ、他党派(とりわけ都構想に批判的な公明支持者)や無党派層から得票する戦術に重点を置くべきなのだ。(つづく)