70年首相談話で内閣支持率の低下を食い止めようとした小賢しい策略が世界株価暴悪の嵐の中でご破算になり、安倍内閣は再び「危険水域」に直面している、大阪都構想住民投票後の政治情勢について(16)、橋下維新の策略と手法を考える(その54)

 2015年8月24日、中国・上海株の急落を受けてアジア市場はもとより世界株式市場は全面安となった。8月20〜24日の株価下落率は上海15.4%、日本8.3%、米国7.7%など軒並み10%近くにまで下落し、24日の日経平均株価終値は900円安の1万8500円、8月25日の終値は700円安の1万7800円まで続落した。リーマンショックに匹敵する先行きが見えない情勢の下で、アベノミクス一辺倒の安倍政権はいかなる舵取りをするのだろうか。

 そうでなくても最近の国内景気は思わしくない。8月17日に内閣府が発表した2015年4〜6月期の国内総生産GDP)速報値は3四半期ぶりにマイナスになり(−0.4%)、年率換算では1.6%減となった。賃金が抑えられたうえに円安で輸入物価が上昇し、個人消費が落ち込んだのが主たる原因である。アベノミクスは経済政策としてもはや完全に破綻しており、このうえ株価までが下落してはこれ以上安倍内閣を支える要因は何一つ見つからない。

 「株安・円高 政権に影、支持率低下に拍車も」と題する日経新聞(8月25日)は、「日経平均株価の大幅下落を受け、政府・与党内には24日、政権運営への影響を懸念する声が広がった。安倍晋三首相は就任以来、金融の異次元緩和など『市場重視』の政策で株高・円安を演出し内閣支持率を下支えしてきた。生命線ともいえる市場の逆方向の動きは、支持率低下に拍車をかけかねない」との深刻な懸念を表明している。
 
 7月16日の安保法案衆院強行採決以来、内閣支持率は低下する一方だった。70年首相談話発表直前の8月8、9両日に実施された毎日新聞世論調査では内閣支持率は32%にまで落ち込み、「危険水域」とされる30%割れは目前に迫っていた。このままでは参院審議を乗り切れないと考えたのか、言葉のうえでは村山談話のキーワード「植民地支配」「侵略」「反省」「お詫び」の全てを盛り込んで「安倍カラー」を抑え、誰が主語かわからないような曖昧な首相談話が発表されたのが8月14日のことである。

 8月14日から16日にかけては国会もなく、NHKをはじめマスメディア空間は官邸の意図通り首相談話で独占された。そしてちょうどこのとき(宣伝効果が冷めないうちに)、14日夜から15日にかけて最初の共同通信調査が実施され、次いで読売新聞調査および産経新聞・FNN調査が15、16日に実施された。また少し間をおいて、朝日新聞調査が22、23日に実施された。結果は首相官邸の「狙い通り」というべきか、あるいは「期待はずれ」というべきか、中途半端なものに終わった。以下はその概要である。

(1) 安倍内閣を支持するか、( )内は前回
共同通信:「支持する」43%(38%)、「支持しない」46%(52%)
●読売新聞:「支持する」45%(43%)、「支持しない」45%(49%)
産経新聞:「支持する」43%(39%)、「支持しない」45%(53%)
朝日新聞:「支持する」38%(37%)、「支持しない」41%(46%)

(2) 首相談話を評価するか
共同通信:「評価する」44%、「評価しない」37%
●読売新聞:「評価する」48%、「評価しない」34%
産経新聞:「評価する」60%、「評価しない」32%
朝日新聞:「評価する」40%、「評価しない」31%

 これら4紙の調査結果に共通することは、支持率が増えて不支持率が減ったとはいえ、依然として「支持しない」が「支持する」を上回っていること(読売は同率)、首相談話については「評価する」が「評価しない」を上回っていることの2点である。首相官邸からすれば70年談話が「起死回生」の一打になることを期待したのであろうが、この点では「めでたさも中くらいなり」というところだろう。

 もっとも産経・FNN調査は質問に工夫を凝らして官邸の期待に応えた。首相談話については、各紙が「首相談話を評価するか、評価しないか」を注釈なしで一般的に尋ねているのに対して、産経紙は「安倍首相が発表した『戦後70年談話』は、『反省』『侵略』『植民地支配』『お詫び』という言葉を盛り込み、『歴代内閣の立場は揺るぎない』と表明した。この姿勢について」と特に前置きを強調しての質問になった。その結果、「評価する」が各紙の40%台に比べて60%もの高水準になった。

 注目されるのは、安保法案の賛否に関する質問である。ひとつは、これまで「安全保障関連法案は日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために自衛隊の活動を拡大するものです。こうした法律の整備に賛成ですか、反対ですか」と露骨な誘導質問を続けてきた読売調査が、今回は「現在、参議院で審議されている、集団的自衛権の限定的な行使を含む、安全保障関連法案についてお聞きします。あなたはこの法案に賛成ですか、反対ですか」の一般的な質問に変わったことだ。結果はそれでも「賛成」31%、「反対」55%となり、前回7月の誘導質問のときの「賛成」38%、「反対」51%と余り変わらなかった。

 ところがこれに比べて、産経調査の「日本の安全と平和を維持するために、安保関連法案の成立は必要だと思うか」との質問に関しては、「必要」58%(前回42%)と「必要ない」33%(同50%)が逆転した。産経紙は「民主党など野党による『戦争法案』『徴兵制復活』といったレッテル貼りが一時的に盛り上がったが、浸透せず有権者の多くが冷静に判断するようになったためとみられる」(8月18日)と分析しているが、「今の国会で安保法案を成立させることについて」の質問には、「賛成」34%(前回29%)、「反対」56%(同63%)なのでこの回答だけでは説明できない。

 これまで安倍内閣の高支持率を支えてきたのは、アベノミクスによる株価操作だった。だが最新版の日経ビジネス(電子版2015年8月)は、「安倍内閣は『株価連動型内閣』と長く呼ばれてきたが、実際には株価動向と支持率はこのところ連動しなくなっている。株高が続いても景気回復の実感がさっぱり出てこないことに多くの国民がすでに気付いているということもあるが、より大きな原因は、安全保障関連法案の衆院での強行採決と今国会で成立させることへの強いこだわりという、過半数有権者が望んでいない行動を安倍内閣がとっていることへの批判である」との注目すべき分析をしている。要するに、株価の上昇は庶民の懐を暖めるものでないことがようやく国民の間でわかってきたのである。

 株価が上がっても支持率が上がらないのであれば、株価が下がっても支持率が下がらないと言えるかというと、そうはいかない。今後の内閣支持率の行方は予断を許さないが、疑いもなく深刻な影響を与えると思われのが今回の世界同時株安(暴落)だろう。株価上昇に辛うじて望みをつないできた庶民投資家層が安倍内閣を見限るとき、決定的な転機が訪れることはまず間違いない。それが支持率「30%割れ」であり、「20%割れ」の世界である。

 国内政局やマスメディアの操作は可能であっても、世界同時株安のようなグローバルな経済変動は安倍政権の手の及ぶところではない。むしろ海外からの投機マネーを煽るような経済運営をしてきたのがアベノミクスであり、グローバルな景気変動の波に日本経済を投げ込んできた張本人が安倍政権なのだ。この落し前は安倍首相自らの手でつけてもらわなくては困る。それが安倍退陣であり、自公連立政権の崩壊である。(つづく)