「2020年東京五輪(オリンピック)疑惑」が広がっている、JОCのコンサル料疑惑は闇に包まれたまま、東京五輪のホストとなる舛添東京都知事の「公私混同」問題も深刻だ、2016年参院選(衆参ダブル選)を迎えて(その26)

少し中断していた「2016年参院選(衆参ダブル選)を迎えて」シリーズを再開したい。不思議なもので別のテーマに途中で関心を移すと、シリーズを再開するにあたってどんなトピックスを取り上げようかと迷ってしまう。夏の参院選を直前にした政局が大詰めを迎えている現在、取り上げなければならないテーマは山ほどあるが、どれもが複雑な問題を抱えていて取りつきにくい。そこでテレビのトークショーの格好の標的となり、茶の間の関心を独占している舛添東京都知事の「公私混同」問題からスタートしよう。

私が舛添都知事の話題に興味を抱くのは、それが単なる地方首長の税金無駄遣いや政治資金の私的流用などの話にとどまらず、安倍政権が総力を挙げて招致した「2020年東京オリンピック」の成否にかかわる大問題に発展しないとも限らないからだ。東京都ではすでに石原知事の時代から「豪華外遊出張」「身内プロダクション援助」「3日登庁」などの税金無駄遣いや公私混同問題が蔓延化しており、都知事モラルハザードは極に達していた。だいたい「週3日」、しかも午後から2、3時間の登庁で公務などこなせるはずもなく、都政は「知事抜き」で運営されているとさえ言われていた。

その張本人である石原元知事が5月19日、日本外国特派員協会で記者会見し、舛添知事が家族との宿泊費などを自身が代表を務めていた政治団体政治資金収支報告書に計上していた問題について「あまりに惨めな話。ただ彼は何回も結婚したり離婚したりしてお金がないので気の毒だ」と皮肉混じりに同情してみせたという(産経新聞、2016年5月20日)のだからたまげる。「天に唾する」というか、「目糞鼻糞を笑う」(この場合は「鼻糞目糞を笑う」と言った方が適切かも)というか、とにかく言いたい放題なのだ。こんな人物が大阪の橋下氏らと「日本維新」を叫んでいたと思うと、いまでもぞっとする。

話を元に戻そう。そもそも東京オリンピックは最初から「けち」の付き通しだった。最初の「けち」は、安倍首相がIОC総会で「フクシマ原発放射能汚染水は完全にコントロールされている」と芝居役者よろしく大見得を切ったことだ。その場では一応招致には成功したものの、その後の汚染水処理が難航に難航を重ねていることは世界中で知らない者はない。放射能汚染水処理の見通しもつかない中でオリンピックを始めるのかどうか、安倍首相はフクシマ原発の現状を隠す「国際的大ウソ」をついた責任を取らなければならない。

次の「けち」は、国民の激しい批判と怒りを買った新国立競技場の建設計画だった。オリンピックの主会場となる新国立競技場建設の当初予算は、招致段階では1300億円だったにもかかわらず、計画公表の段階ではオリンピック組織委員会の森会長と建築家・安藤忠雄氏の「出来レース」によって一挙に3000億円に膨らんだ。森会長は「国威発揚のためにはこれぐらい予算は必要」と強弁したが、国民の怒りは収まらず白紙撤回に追い込まれた。しかし、森会長はこれ如きで引っ込むような人物ではない。「主会場」がダメなら「仮設会場」だというわけで、最近では招致段階では720億円だった仮設会場予算が4倍の3000億円に「見直し」される予定だという(毎日新聞、2016年5月17日)。

どうして当初予算が3〜4倍に膨らむような奇怪な出来事が起こるのか。それはもともと国民に不人気だった東京五輪を何としても実現するためには五輪経費を低く見積もる必要があったからだ。東京五輪の招致に関しては東日本大震災の復興の妨げになるとして根強い反対世論があり、巨額の経費を当初から公表すればとうてい国民の支持は得られず、内閣支持率の低下にも連動する恐れがあった。しかし開催が決定され建設事業が既成事実になると、本当の姿が現れる。それが当初予算の3、4倍という当方もない巨額経費なのだ。

経費膨張の怪は、すでに開催費用全体にも及んでいる。招致段階の7千億円の予算が、最近では「最終的には2兆円を超すことになるかもしれない」(森会長)とか、「3兆円は必要だろう」(舛添都知事)といった発言にまでエスカレートしてきている(朝日新聞社説、「東京五輪費用、的確な全体像の明示を」、2016年5月7日)。五輪費用を大膨張させるうえで舛添知事は欠くことのできないキーパーソンだ。彼の采配が全体の利権配分構造を大きく変えるだけの影響力を持つ以上、舛添知事のうえに何が起こってもおかしくない。あれだけの税金無駄遣いや公私混同を重ねながら政治問題、社会問題にならなかった石原知事に比べて、舛添知事がかくも話題になるのは、その背後に途方もない巨大な利権闘争が横たわっているからだろう。(つづく)