アベノミクス・エンジンをフル回転させても「空吹かし」に終わるだろう、エンジン性能そのものが「誇大広告=偽装データ」で粉飾されているからだ、加えて舛添東京都知事がこのまま居座れば、参院選に「花」を添えることは間違いない、2016年参院選を迎えて(その30)

 2016年6月1日の夕方、安倍首相は首相官邸で記者会見を行い、消費税率10%への引き上げを2019年10月まで2年半再延期すると表明した。安倍首相は、これまで「リーマンショックや大震災のような事態が起きない限り、消費税の再増税を延期しない」と繰り返し言明してきた。しかし、伊勢志摩サミットを舞台にして「リーマンショックに近い世界経済危機」を演出しようとした企みが脆くも破綻した結果、消費再増税を延期する理由がなくなり、〝新たな判断″を示さざるを得なくなったのだ。

 それでは〝新たな判断″とはなにか。それは「リーマンショック抜き」の新たな世界経済危機を強調するというものだ。「アメリカ発の世界経済危機」すなわちリーマンショックの再来を消費再増税延期の口実にするシナリオは崩れたが、今度は「新興国や途上国が落ち込み、世界経済は大きなリスクに直面している」と言い直して、「新興国発の世界経済危機」を新たな口実に仕立て上げたのである。そして伊勢志摩サミットの「あらゆる政策を総動員する」との合意と強引に結び付け、とにもかくにも消費再増税を延期する方針を打ち出したのだ。

 要するに、安倍首相にとっては夏の参院選を目前にして、「アベノミクス」の失敗を絶対に認めるわけにはいかないということなのである。安保法制、原発再稼働、TPPなど国民大多数が反対する政策を強行してきた安倍政権にとって、「アベノミクス」は唯一残された命綱だと言ってもよい。この命綱を断ち切れば、安倍政権は真っ逆さまに転落するかもしれない。だから、どんな理屈であっても「アベノミクスは成功している」と言い続けなければならないのである。

 安倍首相が言うように「アベノミクスがうまくいっている」のであれば、景気が良くなるので消費再増税をしても大丈夫ということになるが、国内経済の実態は実質賃金の低迷(低下)と社会保障不安が原因で消費がいっこうに回復しない。先行き不安な社会情勢が消費者の財布を固くしているうえに、これ以上の消費再増税が加われば景気が悪化することは必至と見なされているのである。消費再増税を延期(中止)しなければならない真の理由がここにある。

 だが、安倍首相はこんなことを言うわけにはいかない。個人消費のさらなる落ち込みを招く消費再増税に踏み切れば、「アベノミクス」の破綻は誰に眼にも明らかになってもはや取り繕う余地がなくなる。だから「アベノミクス」は成功しているが、新興国発の世界経済危機が迫っているので、これを回避するために消費再増税を延期すると言わざるを得ないのである。

それからもうひとつ、安倍首相が〝新たな判断″と云わなければならない理由が他にもある。2014年11月、安倍首相が消費税率10%への引き上げを1年半延期するとして衆院解散に踏み切った時、選挙公約は「消費再増税を再び延期することはない。はっきりと断言する」というものだった。その後、リーマンショックや大震災などを持ち出して、消費再増税を延期する場合に「公約違反」にならないよう予防線を張ってきたが、その予防線が悉く突破されてしまったので、〝新たな判断″を示す以外に「逃げ口上」が無くなったのである。

だが、こんな「逃げ口上」が通ることになれば、近代政治に不可欠な「公約順守」「公約実行」という政治原則が根元から吹っ飛んでしまう。選挙の時には美辞麗句の公約を振りまき、それが実行できなくても〝新たな判断″を示せばよいということになると、選挙制度そのものが崩壊することにもなりかねない。安倍首相は安保法制を強行採決して立憲主義を破壊して憚らないばかりか、〝新たな判断″で「公約破棄」までも正当化しようとしているのであって、これ以上の暴政はないと言わなければならないだろう。

6月1、2日の両日、共同通信の「参院選第1回トレンド調査」が実施された。18歳以上の全国の有権者を対象にした同一質問による連続3回の電話世論調査である。「選挙戦の一定期間に、有権者の選挙への関心度や支持政党がどう変わるかなど、参院選に対する意識の変化を探るのが目的」というから、第1回から第3回までの回答の推移を見なければ有権者の意識動向は掴めないが、それでも第1回調査では興味ある結果が出ている。

6月3日付の京都新聞は1面トップで、この結果を「増税延期 評価二分、アベノミクス否定58%、比例投票先 自民28%、民進10%」と報じた。安倍首相が消費再増税延期を表明したことについては、「政権の経済政策の失敗でないと思う」48%、「失敗だと思う」43%と意見が分かれ、安倍政権の経済政策「アベノミクス」については、「見直すべきだ」「完全に方向転換すべきだ」との否定的回答が合わせて58%、「さらに拡充すべきだ」「現状を維持すべきだ」の肯定的回答は合わせて35%にとどまったのである。また内閣支持率は、前回5月28、29日の調査から僅か数日の間に55%から49%へ低下した。

この結果が、第2回、第3回と調査の回を重ねるにしたがって今後如何なるトレンドを描くか、予断を許さない。しかし安倍首相が公約する「アベノミクス・エンジンのフル回転」による景気浮揚は、またもや〝新たな判断″を呼ぶことになるであろうし、第一初めから「空吹かし」状態になって推力が生まれないかもしれない。エンジン性能の偽装は、日本の自動車業界はもとよりいまや政界にも広く浸透していることは周知の事実だからである。

同時に、舛添都知事の政治資金疑惑、公私混同問題に対する自公与党会派の動きについても要注意だ。舛添氏が形式的な「第三者報告」を週明けに都議会に提出して、それが与党の手で「シャンシャン」と受け入れられることになれば、舛添氏がそのまま都知事の椅子に居座ることにもなりかねない。だが、自公与党は都民の怒りはもとより、日本国民全体の怒りを見誤ってはならないだろう。参院選が目前に迫っている今、「都知事の仇は参院選でとる」状況が生まれないとも限らないからである。

京都3区の衆院補選においても、自民党京都府連は「ゲス不倫」の宮崎氏をなおも庇うつもりだったが、自民党本部からの「これでは参院選を戦えない」との強い意向によって補選立候補断念に追い込まれた。自民党東京都連京都府連の二の舞をするか、それとも舛添氏を担いだ政治責任を取って、今回は都知事選候補の擁立を取り止めるか、いまその帰趨が厳しく問われている。(つづく)