今村復興相の辞任と「森友疑惑」の新事実暴露で事態は急変しつつある、安倍首相はこの政権危機を乗り切れるか、国民世論は「脱安倍」へと着実に向かい始めた(23)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その54)

 前回4月22日の拙ブログから僅か1週間も経たないうちに、安倍政権を取り巻く政治情勢が急変している。今村復興相が4月25日、派閥の会合で東日本大震災について、「これはまだ東北で、あっちの方だったからよかった。もっと首都圏に近かったりすると莫大な甚大な被害があったと思う」との暴言を吐き、翌日辞任(罷免ではない)に追い込まれるという事態が発生したからだ。

 この発言を聞いたとき、私は2つの点で激しい怒りを感じた。ひとつは東北を「あっち」と呼んだこと、もうひとつは「東北でよかった」と言ったことだ。国会議員であり大臣である今村氏にとっては、首都圏が「こっち」であり、東北が「あっち」なのであろうが、これではまるで東北を属地属国扱いにする権力者の差別発言そのものではないか。「被災地に寄り添う」などと甘い言葉を言いながら、その実は被災地を足蹴にする権力者意識(本音)が丸見えで、身の毛がよだつほどの嫌悪感を覚えるのは私独りではあるまい。

 今村氏は佐賀県選出の国会議員だ。中央の権力者目線で東北を「あっち」と言うなら、九州も「あっち」ということになる。さしずめ佐賀県などは「あっちのあっち」になるのではないか。地方選挙区で選出されながら、いったん国会議員になると「中央目線」になり、さらに世襲議員になると輪をかけた「中央目線」になる。安倍首相や麻生元首相をはじめ自民党首脳部の多くがその典型であり、今村氏も遅ればせながらその隊列に加わった(つもりでいた)のだろう。

 もう一方の「東北でよかった」発言は、もう散々批判されているので繰り返さないが、これは首都圏がどれほど東北から恩恵を受けているかを何一つ知らない者のたわ言としか思えない。福島原発が首都圏から遠く離れた場所で建設されていながら、東京に大半の電力を供給してきたことは小学生でも知っていることだ。首都圏でなかったからよかった、東京でなかったからよかったと言うのであれば、首都圏や東京さえ安全であれば日本は大丈夫だということになる。東北の人は怒って当然だが、私は首都圏以外の地域が全て侮辱されたと思っている。九州の人も怒らないといけないし、佐賀の人はもっともっと怒らなければいけないのである。

 今村復興相の辞任は、中川経産政務官の辞任・離党とは少し性格が違うように思える。中川氏のような場合は、本人自身が軽蔑の対象にしかならないが(こんな破廉恥な人物を政務官に任命した安倍首相の政治責任を追及するまで世論が高まっていない)、今村氏の場合は東北(延いてはすべての地方)を侮辱した点でまるで質が違う。国民の多くは、今村発言の中に流れる(福島原発の避難者切り捨てに象徴されるような)安倍政権の被災地・被災者切り捨て政策の体質を否応なく感じ取っているのであって、「馬鹿にするな!」と心から怒っているのである。

 一方、安倍政権が財務省とグルになって封じ込めてきた「森友疑惑」に関する新事実が、この間次から次へと暴露されてきていることも興味深い。圧巻は、籠池理事長夫妻が財務省田村国有財産管理室長に面会した時の音声録音テープが出てきたことだ。しかも、この録音テープは籠池理事長自身が録音したものであることを認めているのだから、これ以上の明白な証拠資料はない。そして、田村室長が森友学園への国有地貸し付けを「特例」と発言し、籠池理事長の方は昭恵首相夫人の名前を上げて「更なる特例」(特別扱い)を迫っているのだから、もはや昭恵夫人の関与は明白だろう(各紙、2017年4月26、27日)。

 それにしても安倍首相夫妻は自業自得とはいえ、とんでもない人物に引っかかったものだ。首相夫人付き職員のメールが爆露されたのを皮切りに、今度は財務省内での内密の交渉が籠池氏自身の手によって秘密裏に録音され公開されるというのだから、これは前代未聞の出来事だと言わなければならない。昭恵夫人や御付きの職員そして財務省本省の室長までが籠池氏に手玉に取られている有様は、「天性の詐欺師」と言われていた人物がいまや「稀代の詐欺師」にまで上り詰めたことをあらわすと同時に、この程度の人物に騙される一国の首相夫妻や財務官僚の劣化状態をも如実に映し出している。

 安倍内閣閣僚や政務官の失言・暴言、謝罪と発言撤回、そして辞任と離党が相次ぐ有様は、いまや安倍政権が首相夫妻自身の権威失墜と並行して政権危機の入り口に差しかかったことを物語っている。また自民党の側では、二階幹事長がこれらの辞任・離党議員を臆面なく庇うなど、反省もなければ刷新の動きもない。このことは、党幹事長自らが彼らと「同じ穴の狢」であることを告白しているようなものであって、自民党体質の薄汚さを際立たせているとしか言いようがない。

 事態にたまりかねたのか、日経新聞は4月27日、「待っているのは懲罰投票だ」とする激烈な社説を掲げた。資質も見識もない議員を閣僚にした安倍首相の任命責任は謝罪の言葉だけでは終わらないこと、劣化した自民党を覚醒させるには「落選」という懲罰投票以外に術はないことなど、実質的には次の総選挙で自民党を政権の座から引きずり下ろすことを呼びかけるような激烈な警告だ。それはまた、いまの自民党と安倍政権では日本の経済社会体制を統治できないとの財界からの警告でもある。「奢る自民は久しからず」と祇園精舎の鐘が打ち鳴らされているのである。(つづく)