日本列島に拡がる有史以来の〝人口減少〟に如何に立ち向かうべきか、党勢拡大方針の抜本的転換が求められている、人口減少にともなう地方自治体と党地方議員の分析(3)、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その26)、岸田内閣と野党共闘(91)

 社人研の2050年推計人口によれば、21世紀半ばに至るこれからの30年は、国土・地方・都道府県・市区町村のいずれのレベルにおいても有史以来の地殻変動の発現が予測されている。その変化を比喩的に言えば、〝人口減少〟という地殻変動が国土一円に拡がる中で、中央部(関東・首都圏)を残して日本列島の地盤沈下が急激に進み、その他の地域は浮島状態になる――というものである。南太平洋諸島のように、地球温暖化による海面上昇で島嶼そのものが消えるといった事態ではないが、有史以来の〝人口減少〟という地殻変動によって地域社会の存続(持続的発展)が脅かされ、首都圏やその他の大都市圏を除いて日本列島の急速な地盤沈下(衰退現象)が進んでいくということである。

 

 将来人口推計は、数ある将来予測のなかでも最も確度の高い予測だとされている。南海トラフ巨大地震は、今後30年間に数十パーセントの確率で起こると予測されているが、それは突発的に起こるものであって、何時どこで起こるかを正確に予測することは難しい。これに対して将来人口推計は、現在すでに進行している〝少子高齢化〟という「現実=人口動態」を将来に向かってそのまま投影したものであり、いわば「確実な未来」「必然的な未来」をあらわすものと言える。こうした前提のもとに、社人研の人口推計指数(2020年=100)および65歳以上人口比率(%)を用いて、30年後の日本列島の変化を国土・地方・都道府県・市区町村の各レベルで考えてみたい。以下は、その分析結果である。

 (1)21世紀半ばに至るこれからの30年は、国土が「首都圏」「非首都圏」に分断され、地域格差が一層加速する時代になるかもしれない。有史以来の人口減少の中で関東地方だけが現在人口をほぼ維持する一方、それ以外の地方はいずれも2~3割にも達する激しい人口減少に襲われるからであり、加えて世界でも類を見ない「超高齢社会」に直面するからである。国際的には、65歳以上人口が総人口に占める比率7~14%未満を「高齢化社会」、14~21%未満を「高齢社会」、21%以上を「超高齢社会」と言うが、我が国では関東地方でさえが30年後には65歳以上人口比率が30%を超え、それ以外の地方は30%後半から40%前半にも達するからである。

 (2)これを「2020年=100」とする人口指数でみると、2050年人口指数及び65歳以上人口比率は、北海道(73.1、42.6%)、東北地方(68.3、44.0%)、関東地方(93.1、33.7%)、中部地方(80.0、38.3%)、近畿地方(80.2、38.3%)、中国・四国地方(74.6、36.6%)、九州・沖縄地方(73.7、37.4%)となって、「東京一極集中」と言われる人口動態が今後も継続し、関東地方とりわけ首都圏の肥大化が突出して進むことを示している。

 (3)国土レベルの「東京一極集中」と同じく、地方レベルでも「一極集中」の傾向が見て取れる。東北地方では、地方中枢都市・仙台市を擁する宮城(79.5、39.4%)が突出しており、残りの青森(61.0、48.4%)・岩手(64.7、45.9%)・秋田(58.4、49.9%)・山形(66.6、44.3%)・福島(67.0、44.2%)は人口が5~6割台に落ち込み、65歳以上人口比率は40%後半にまで拡がる。北海道の場合は、道庁が位置する札幌市(88.5、39.4%)が突出し、それ以外の函館市(60.4、47.7%)・釧路市(59.7、46.9%)・小樽市(49.9、53.1%)などの地方都市は容赦なく沈んでいく。

 (4)北海道・東北地方ほどではないにせよ、中部地方では名古屋市を擁する愛知(88.5、34.5%)、九州・沖縄地方では福岡市を擁する福岡(87.2,35.1%)への「一極集中」が際立っている(本土と離れており異なった文化を持つ沖縄は〈94.8,33.6%〉と別格)。中国・四国地方では、中心都市の広島市と岡山市の求心力が相対的に小さいからか、広島(79.6,37.4%)、岡山(80.0、37.8%)とその他との格差はそれほど大きくない。また近畿地方では、大阪市・京都市・神戸市で空洞化が進んでいる所為か、大阪(82.2,36.6%)、京都(80.5,38.5%)、兵庫(79.7,39.5%)よりも滋賀(86.5,36.7%)が凌駕している。

 

 2023年12月31日現在、共産党が議席を持つ市区町村は、全国1728(原発災害地域3市10町村を除く)のうち1266(73.3%)、市区は812のうち751(92.5%)、町村は916のうち515(56.2%)であり、党所属の市区議員は1549人、町村議員は628人である。社人研推計人口によると、30年後に人口が「半数未満=指数50未満」になるのは、党地方議員が議席を持つ751市区のうち36(4.8%)、515町村のうち133(25.8%)となり、「3割未満=指数70未満」は313市区(41.7%)、364町村(70.7%)である。つまり、党地方議員が議席を持つ市区町村で、現在よりも人口が3割程度減少する市区は4割、町村は7割に達し、選挙情勢が一段と厳しくなると考えなければならない。

 

 人口が3割も減れば、議員定数の縮小は避けられない。また新たな市町村合併が起これば、大幅な定数削減が一挙に現実化する。「平成大合併」によって町村数が2558から929(36%)、議員定数が3万8800人から1万800人(28%)、党町村議員が2103人から655人(31%)に激減したことは記憶に新しいが、人口減少がこのまま続けば、町村はもとより市区においても議員定数の大幅な縮小は避けられない。そればかりではなく、道州制の導入によって府県制が廃止されるといった地方自治制度の改変、あるいはそれに近い大再編が起こるかもしれない。

 

 30年後と言えば現役世代よりも次世代の時代であり、この時までに党地方議員の世代交代が進んでいなければ議席を維持することは著しく難しくなる。しかし前回の拙ブログでも述べたように、すでに党都道府県議員113人の平均年齢は60.9歳、市区議員1553人は61.7歳、町村議員631人は68.0歳に達しており、都道府県議員と市区議員はあとせいぜい10年、町村議員は数年足らずで活動が停止する境目にさしかかる。また昨年の統一地方選のように、多くの議員が落選して議席を失うかも可能性も否定できない。ここ数年から10年の間に世代交代の準備が整わなければ、「戦わずして敗れる」といった事態も起こりかねないのである。

 

 第29回党大会は「党勢拡大の新しい目標について」の中で、①第30回党大会(2026年)までに第28回党大会現勢――27万人の党員.100万人の「しんぶん赤旗」読者を必ず回復・突破する。党員と「しんぶん赤旗」読者の第28回党大会時比「3割増」――35万人の党員、130万人の「赤旗」読者の実現を2028年末までに達成する。②第28回党大会で掲げた青年・学生、労働者、30代~50代の党勢の倍化――この世代で10万の党をつくることを党建設の中軸に据え、2028年末までに達成する。1万人の青年・学生党員、数万の民青の建設を2028年末までに実現すると決定した。これは、「党の現状、世代的構成に照らして、青年・学生、労働者、30代~50代のなかでの『党勢倍化』は、党の現在と未来がかかった死活的課題となっており、第二決議の他の目標を実現させるうえでもとりわけ重視すべき目標となっている」からである。

 

 しかしながら、この拡大目標はわかりにくい。赤旗(2024年2月14日)には党員拡大の補足的説明として、「②2028年末までの5年間で3割増、10万人の50代以下の党員、1万人の青年・学生党員、数万の民青同盟を建設する」とあるが、これだけでは党員現勢25万人を35万人に拡大(年平均4千人・月平均333人)することがわかるだけで、「50代以下=真ん中世代」10万人が新規拡大目標なのか、それとも現勢党員「50代以下」8万人(党員25万人の党歴「20年未満」31.7%を概ね「50代以下」と見なすと8万人)を含む数字なのかが判然としない。だが、5年間で「50代以下」10万人を新規拡大することなど到底考えられないので、現勢党員「50代以下」8万人と合わせて10万人となる「2万人」を拡大目標と考えるのが妥当な線のように思える。

 

 「青年・学生1万人」の方はもっとわかりにくい。「青年・学生」の党員現勢は公表されていないので、1万人が新規拡大目標なのか、現勢党員を含めての拡大目標なのかが皆目わからない。ただ「青年・学生党員の拡大は、民青同盟のリーダーづくりになるとともに、わが党にとって世代的継承のカギを握る課題です。毎月、現在の3倍以上となる100人以上の青年・学生を党に迎えてこそ、5年後の1万人の青年・学生党員建設の道が開かれます」(赤旗4月20日)との文面から推察すると、新規拡大目標は「毎月100人以上×5年間=6000人以上」となり、党員現勢を3千数百人程度と考えると、ほぼ1万人の目標に見合うことになる。したがって、2028年末までの5年間で総数10万人、うち「50代以下」2万人、「青年・学生」6千人が「新規拡大目標」だと考えることができる。言い換えれば、10万人の党員拡大の内訳は7割が「60代以上」ということになる。

 

 ところが、田村委員長は全国都道府県委員長会議において「青年・学生、労働者、真ん中世代で10万人の党員を目指す『5カ年計画』は、党員拡大の6~7割をこの世代で迎えようというものです」(赤旗2月7日)と述べている。この見解を文字通り読めば、「10万人の6~7割=6~7万人」を青年・学生や30代~50代の真ん中世代で拡大することになるが、2028年末までの5年間でこの目標を達成しようとすると、年平均1万2千人~1万4千人、月平均1000人~1200人弱の拡大が必要になり、現在の党活動の水準からしてとても実現できるとは思われない。田村委員長は、この発言の真意について説明する責任がある。

 

 とはいえ、「50代以下」2万人にしても2028年末までに目標を達成するのは相当難しいだろう。これを年平均・月平均で考えると、「50代以下」は年平均4千人・月平均333人、「青年・学生」は年平均1200人・月平均100人となる。だが、第29回党大会以降の5カ月の実績報告を見ると、「50代以下」「青年・学生」の数字が公表されたのは僅か2回にすぎず、しかもその数は著しい低水準にある。

 (1)2月の党勢拡大は、党員拡大では421人が入党、50代までの入党申し込みは100人強にとどまっています(赤旗3月2日)。

 (2)5月の党員拡大の現状はどうか。党員拡大は、入党申し込みは363人、うち青年・学生が14人、真ん中世代が76人となっています(同、5月29日)。

 

 第29回党大会以降の5か月分の党員拡大を集計すると、入党は月平均450人前後、うち「50代以下」は100人余り、その中の「青年・学生」は20~30人程度にしかならない。加えて留意すべきは、入党数は毎月公表されるが、死亡・離党数は公表されないので、正確な「増減数=入党数-死亡数-離党数」がわからないことである。しかし、2020年以降の年平均死亡数は5千人・月平均420人前後で推移しており、ほぼ入党数に匹敵する規模に達している。これに離党数を加えると入党数を上回ることは確実で、「長期にわたる党勢後退」はむしろ加速していると言わなければならない。また「死活的課題」である世代的継承も目標の3分の1にとどまり、成功しているとはとても言えない。

 

 このように第28回党大会と第29党大会の党勢拡大決議が二度にわたって破綻しつつある現在、党中央の取るべき態度は、人口減少や少子高齢化が急激に進む地方や地域の中に深く分け入り、その苦悩や困難をともに分かち合うものでなければならないだろう。また「数の拡大」を至上目的とする党勢拡大方針の破綻に真正面から向き合い、抜本的な方針転換を図るものでなければならないだろう。ところが、志位議長はまるで「糸の切れた凧」のように空中遊泳を繰り返し、社会主義の夢物語を振り撒く「笛吹き男」と化している。そればかりではない。パンフにする程度の内容を5回にもわたって平然と赤旗に掲載し、紙面を事実上私物化する行動に出ている。

 

 悲しむべきは、志位議長の言動を批判する党幹部の姿がどこにも見えないことだ。それどころか、赤旗は志位発言に追随する党幹部の声で充満しており、紙面刷新の気配さえ感じられない。赤旗は減紙が続いて「発行の危機」を迎えているというが、紙面を抜本的に刷新することなくして拡大はあり得ない。志位発言を満載した赤旗は、遠からずして終焉の時を迎えるほかはないのである。(つづく)

党地方議員の高齢化が加速し、47都道府県のうち過半数が平均年齢65歳を越えている、人口減少にともなう地方自治体と党地方議員の分析(2)、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その25)、岸田内閣と野党共闘(90)

 第3の問題は、党地方議員の高齢化である。全国の地方議員の平均年齢は、都道府県議員56.7歳(全国都道府県議長会、2019年)、市区議員58.8歳(全国市議会議長会、2021年)、町村議員64.4歳(全国町村議会議長会、2023年)である。2023年統一地方選挙によって多少は変化していると思われるが、まだ情報が更新されていないので、一応これを基準にして比較したいと思う。以下は、分析結果である。

 (1)党地方議員の議員数及び平均年齢は、総数2297人・63.4歳、都道府県議員113人・60.9歳、市区議員1553人・61.7歳、町村議員631人・68.0歳であり、全国平均よりそれぞれ都道府県議員は4.2歳、市区議員は2.1歳、町村議員は3.6歳上回っている。このことは、若い後継候補者を見つけるのが容易でなく、また見つかっても当選可能性が低いので、党地方議員の新陳代謝がなかなか進まないことを示している。田村委員長が言うように候補者を立てられず、選挙のたびに議員数が減少していく場合も多い。町村議員の高齢化が加速しているのはこのためである。

 (2)党地方議員の平均年齢を5歳刻みにして都道府県別に分類すると、「50代後半(55~59歳)」4都府県、「60代前半(60~64歳)」18道府県、「60代後半(65~69歳)」23県、「70代前半(70~74歳)」2県となる。総じて議員定数が多い大都市圏では平均年齢が低く、定数が少ない地方圏では平均年齢が高い。47都道府県のうち25(過半数)が「60代後半」に分布しており、これらの県では平均すると党地方議員は全て「前期高齢者」に属することになる。

 (3)都道府県議員は数が少ないので省略するが、市区議員1553人と町村議員631人の平均年齢は、地方圏においても都市集中が進んでいるためか、市区と町村の二極化が著しい。市区議員の場合は「50代後半」11都道府県、「60代前半」16県、「60代後半」18県、「70代前半」2県となり、平均年齢65歳未満が47都道府県のうち27(57%)を占める。これに対して町村議員の場合は「50代後半」ゼロ、「60代前半」8県、「60代後半」17都道府県、「70代前半」18県、「70代後半」2県となり、45都道府県(富山・大分は町村議員ゼロ)のうち平均年齢65歳以上が37(82%)となる。これでは全国ほとんどの町村議員が(超)高齢化していると言っても過言ではない。

 

 地方議員の中でも人口減少の影響を最も強く受けているのが町村議員である。町村はもともと人口規模が小さいうえに人口減少の度合が大きいので、その影響は予想を超えるものがある。社人研『人口の動向、日本と世界(人口統計資料集2023)』(厚生労働統計協会、2023年)によると、「平成大合併」によって2000年から2020年までの20年間に町村数は2558から929、町村人口(郡部人口)は2706万1千人から1038万8千人に激減した。これに伴い議員定数も3万8800人(2003年)から1万800人(2023年)、党所属議員も2103人から655人へ激減している。町村合併と少子高齢化が相俟って町村数と郡部人口、議員定数と党所属議員数が激減し、町村自治体における地方自治はいまや危機に瀕している。今後もし「令和大合併」が実施されるようなことがあれば、町村は更なる減少を免れず、場合によっては自治体そのものが消滅してしまう可能性も否定できない。

 

 このことを予測させるのが、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)から2023年12月に公表された『日本の将来推計人口(令和5年推計)』及び『日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)』である。前者は、2020年国勢調査を基に2070年までの50年間の全国将来人口、後者は2050年までの30年間の全国市区町村別の将来人口をそれぞれ推計したものである。これらはいずれも長期の合計特殊出生率(1人の女性が産む生涯子ども数)を高位(1.64)・中位(1.36)・低位(1.13)の3通りに仮定して推計したものであり、一般に公表されているのは中位推計に基づく数字である。しかし、これまでの人口推移は中位推計よりも下振れで推移しており、今回もその可能性は十分あると予測しておかなければならない。

 

 なお、全国推計には「長期参考推計(2071~2120年)」が附されており、2070年の合計特殊出生率を1.00から2.20まで0.20刻みに7通り仮定して、2070年と2120年の将来人口を推計している。合計特殊出生率が2070年以降も(現在のような)1.20の低水準で続く場合は8235万人(2070年)と3998万人(2120年)になり、人口置き換え水準に近い2.00に回復している場合は1億750万人(2070)年と1億610万人(2120年)になるとしている。出生率の回復がどれほど重大な課題であるかを長期参考推計は文字通り指し示している。以下、地域別将来推計人口を用いて自治体と党地方議員の行方を考えてみよう。

 

 社人研の地域別将来推計人口は、将来人口を都道府県別・市区町村別に求めることを目的としたものであり、2020年国勢調査を基に2050年までの5年ごと30年間について男女・5歳階級別人口を推計している。この人口推計は5年ごとの人口と指数で表されているが、本稿では2050年の推計人口指数(2020年=100)を用いて分析する。これは、全国1741自治体(23特別区、792市、926町村)の30年後の推計人口を指数化したものであり、「指数50」は2020年人口の5割(半数減)、「指数70」は7割(3割減)になることを意味する。

 

 なお、社人研推計は市区町村の中に20政令指定都市の175区を含めているが、本稿では東京23区(特別区)だけを区として扱い、政令指定都市の175区は含めていない。また福島原発災害を受けた3市10町村の個々の推計値はないので(「浜通り地域」として一括表示されている)、本稿では上記の3市10町村を除いた1728自治体(23特別区、789市、916町村)を将来人口を分析する場合の基本数とする。加えて、これに共産党が現在議席を有する自治体数を内数として併記し、人口減少が自治体および党所属議員の消長にどのような影響を与えるかを考えることにした。以下は、分析結果である。

 (1)社人研の2050年推計人口によると、30年後に人口が「半数未満=指数50未満」になるのは1728市区町村のうち336(19.4%)、789市のうち51(6.5%)、916町村のうち285(31.1%)である。町村はもともと人口規模が小さいので、これが「半数未満」になると、人口戦略会議ならずとも「消滅可能性」が大きくなる。30年後には、町村の3分の1が消えて無くなるかもしれない。

 (2)市の場合は「半数未満」が少ないように見えるが、「3割減=指数70未満」までを含めると365(46.3%)に跳ね上がる。市のおよそ半数近くが30年後には激しい人口減少に直面することになり、なかでも人口規模の小さい市は町村と同じ運命をたどる可能性がある。

 (3)人口が「半数未満」になる市町村を地方別にみると、北海道179市町村のうち67(10市・57町村、37.4%)、東北214市町村のうち81(7市・74町村、37.9%)、関東316市町村のうち19(2市・17町村、6.0%)、中部316市町村のうち42(5市・37町村、13.3%)、近畿227市町村のうち46(6市・40町村、20.3%)、中国・四国202市町村のうち49(11市・38町村、24.3%)、九州・沖縄274市町村のうち32(10市・22町村、11.7%)となる。つまり、北海道・東北は4割近く、近畿・中国四国は2割余が「半数未満」になる。

 (4)その結果、埼玉・千葉・東京・神奈川の「首都圏人口」は3691万4千人(2020年)から3524万8千人(2050年)へほとんど減少せず、全国人口に占める割合は29.7%から33.7%へ上昇して「東京一極集中」がますます加速することになる。その一方、北海道・東北は413万人、中部は422万5千人、近畿は446万3千人、中国・四国は278万2千人、九州・沖縄は272万2千人が各々減少し、国土一円は激しい人口減少に襲われることになる。

 

 これらの事態はまさに〝国難〟そのものであり、〝国家の危機〟ともいえる事態にほかならない。次回は、このような情勢の下で共産党が議席を持つ市区町村が直面する事態を、社人研の2050年推計人口を基に分析してみたい。(つづく)

地方議会議席数・議席占有率と国政選挙(2022年参院選)得票数・得票率との関係、人口減少にともなう地方自治体と党地方議員の分析(1)、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その24)、岸田内閣と野党共闘(89)

 本稿で用いる主なデータは、共産党のホームページに掲載されている地方議会別党所属議員の人数と基本属性(性、年齢)及び総務省「令和4年参議院通常選挙、都道府県別党派別得票数(比例代表)」の2つである。前者は、党地方議員の地方議会に占める比重すなわち議席占有率を分析するための第1次資料であり、後者は、2022年参院選挙における共産党の比例代表得票数・得票率を都道府県別にみるための公式資料である。

 

 共産党のホームページには、都道府県議会・市区議会・町村議会ごとに党議員の氏名、顔写真、生年月日などが掲載されている。だが、その中には顔写真がなく、生年月日が記入されていないものもあり、氏名だけでは男女の区別さえつかない場合がある。神奈川県委員会の場合などは68人のうち実に28人(41%)、滋賀県委員会の場合は43人のうち16人(37%)が年齢不詳であり、第1次資料としては著しく精度に欠ける。これらのデータには多くの難点があり、不正確さを免れないが、それでも党地方議員の今後を考える上で必要な資料なので、データベースを作成することにした。なお、年齢は2024年末を基準とし、平均年齢は年齢不詳議員を除いて算出している。

 

 田村委員長は、5月9日に行われた「地方議員オンライン交流会」において「地方議員のみなさんへのよびかけ」(赤旗5月10日)を発表し、党地方議員の議席占有率がこの間、後退し続けていることに警告を発した。

――わが党の議員団の活躍は、議席占有率で最高時の8.43%から減ったとはいえ、2024年4月末時点でも7.19%と議員数4400人だった「平成大合併」前の時期とほぼ同じ割合を維持していることによるものです。同時にこうした「かけがえのない」党地方議員団の陣地が、この間の統一地方選挙、引き続く中間地方選挙を通じて後退傾向を脱していない現状があります。党大会では、4年前の第28回党大会時(2662人)から331人の議席後退になり、その後も5月1日現在で20人後退しました。候補者がたてられず、あるいは自力の後退で党の議席が後退あるいは空白になってしまう。こんな悔しいことはありません。

 

 地方議会における議席占有率は、今後の党地方議員の行方を考えるうえでの最重要資料である。だが、その全体動向(後退傾向)を伝えるだけでは問題の所在がわからない。田村委員長の「地方議員のみなさんへのよびかけ」は、議席占有率の低下に警鐘を鳴らしているものの、その原因や背景については何一つ語っていない。ただ減った議席は取り返さなければならない、その最大の力は「つよく大きな党」をつくることにある、だから頑張らなければならない――と強調するばかりである。

 

 このような論調は、これまで党中央が地方議会の議席占有率の動向を主として国政選挙の得票数・得票率との関連から見てきたことと深く関係している。地方自治は「民主主義の学校」とも言われるように、地域住民が地方政治に関わる上で欠くことのできない社会基盤であり、住民自治の発現の場でもある以上、党地方議員の存在を重視しなければならないのは当然だろう。だが、現実はそればかりでなく(それ以上に)、党地方議員が国政選挙に果たす役割が重視されてきたのである。

 

 共産党が国会で一定議席を占め、国政に影響を与えるためには国政選挙の勝利が不可欠である。そのためには、選挙での支持獲得や投票動員を第一線で担う党地方議員の活動が何よりも重視される。そしてそのことが、国政選挙のために地方選挙を前哨戦としてたたかい、党勢拡大を地方選挙を通して実現しようとする活動スタイルを広げてきた。だが、地域住民や有権者からすれば、党勢拡大を主とし、住民要求を二の次にするような選挙戦術は余り歓迎されない。統一地方選挙や中間選挙における党の後退は、地方選挙を本来的な形で戦わなかった選挙戦術に起因するものと言わなければならないだろう。

 

 全国の地方議員定数3万1582人に対する現在の共産党の議席数・議席占有率は2297人・7.2%、2022年参院選比例代表得票数・得票率は361万8千票・6.8%であり、議席占有率と得票率はほぼ均衡している。議席数は、北海道・東北地方400人(全国2297人の17.4%)、関東地方611人(26.6%)、中部地方388人(16.9%)、近畿地方426人(18.5%)、中国・四国地方239人(10.5%)、九州・沖縄地方233人(10.2%)と比較的分散している。一方、得票数は、関東地方145万4千票(総得票数361万8千票の40.2%)、近畿地方69万2千票(19.1%)と両地方で総得票数の6割を占め、人口規模と密度の高い大都市圏が小規模低密度の地方圏よりも得票数が大きいことが見て取れる。

 

 そこで横軸に議席占有率、縦軸に2022年参院選比例得票率を取り、都道府県別にプロットすると、低占有率・低得票率の地方圏から高占有率・高得票率の大都市圏へ右肩上がりで分布が広がる。しかし、議席占有率が高くなると得票率が横這いになる傾向が見られるのは何故か(グラフは目下作成中。後日掲載)。

 (1)全国47都道府県のうち「占有率>得票率」(議席占有率より得票率が低い)は29都府県(62%)、「占有率=得票率」は2県(4%)、「占有率<得票率」(議席占有率より得票率が高い)は16道県(34%)である。全体として、議席占有率に見合う得票率を得られなかったケースが6割強を占める。

 (2)「占有率>得票率」の中でもその差が大きいのは、神奈川12.9%・7.2%、東京12.0%・9.4%、京都17.2%・12.0%、滋賀10.6%・7.2%、大阪10.6%・7.1%であり、関東・近畿の大都市圏に集中している。これは議席占有率が高い大都市圏では、その時々の政治情勢によって支持票が浮動化しやすく、2022年参院選ではそれが典型的にあらわれたからである。

 (3)「占有率<得票率」の場合はその差が小さく、それも沖縄6.2%・9.4%、高知11.5%・14.0%、北海道6.8%・8.2%など地方圏に分散している。地方圏は大都市圏とは逆に支持票が固定化していて振れが少なく、変動幅が小さい。

 (4)占有率と得票率の差がプラス・マイナス1ポイント未満に収まるケースを「占有率≒得票率」と見なすと、「占有率>得票率」は16都府県(34%)、「占有率≒得票率」は25県(53%)、「占有率<得票率」は6道県(13%)となる。この状況は、低占有率の地方圏では得票率の増減幅が少ない「膠着状態」が広がり、占有率の高い大都市圏では得票率が伸び悩む「政党離れ現象」に直面していることを窺わせる。総じて、議席占有率と得票率がともに躍進した高度成長期とは異なり、低投票率が常態化している現在は、「政治不信」「政党不信」が蔓延し、無党派層が4割を超える事態が続いているからである。

 

 党地方議員の議席占有率をめぐる第2の問題は、都道府県占有率の著しい低さである。議席数・議席占有率は全国定数2604人のうち113人・4.3%、党地方議員全体の議席占有率7.2%よりはるかに低い。地方自治体における都道府県の卓越した影響力から考えると、都道府県占有率は知事選を初めとする地方選挙全体に多大な影響を与えるものと考えなければならない。大阪維新の会の知事誕生がその後の大阪の政治構造を劇的に変え、府議会定数の大幅削減によって共産党が僅か1議席に落ち込んだことは記憶に新しい。以下はその分析である。

 (1)都道府県占有率が党地方議員全体の議席占有率7.2%を超えるのは、高知16.2%(議席6人、以下同じ)、東京15.0%(19人)、京都15.0%(9人)、沖縄14.6%(7人)、長野8.8%(5人)、宮城8.5%(5人)の6都府県である。これら6都府県は革新系知事を生み出してきたことでも知られる。

 (2)「議席ゼロ」は新潟・福井・静岡・福岡・熊本の5県、「議席1人」は秋田・茨城・栃木・富山・石川・岐阜・愛知・三重・大阪・奈良・和歌山・鳥取・徳島・香川・愛媛・佐賀・長崎・宮崎・鹿児島の19府県、合わせて24府県(全国の過半数)が「議席ゼロ」あるいは「1人」となる。とりわけ大都市圏にありながら「議席ゼロ」の福岡、「議席1人」の愛知・大阪の不振が目を引く。これらの府県では共産党の影響力は限定的であり、地方政治を動かす実質的な力となっていない。

 (3)「つよく大きな党」をつくることは、党組織単独の力で達成できるものではない。個々の支部や党員が如何に頑張っても、それを後押しする環境や雰囲気がなければ目標は達成できない。「議席ゼロ」「議席1人」といった府県では、せめても複数議席(以上)を確保できなければ党の影響力は住民に届かない。住民の声を自治体行政に反映させることが地方選挙の本来の目的であり、党勢拡大は人間らしい政治を実現するための手段の一つであって、それ自体が目的ではないはずだ。ところが地方選挙を党勢拡大の機会として捉え、選挙結果は二の次にしか考えていない党幹部も少なくない。これでは有権者の支持を獲得することは困難であり、いつまでも「議席ゼロ」「議席1人」といった事態から脱することができない(福岡の党勢拡大運動は赤旗ではいつも「先進例」として賞賛されているが、「県議ゼロ」という政治的空白の実態についてはこれまで報道されたことがない)。

 

 結論を先取りして言えば、国政選挙の勝利のために地方選挙をたたかい、選挙活動を通して党勢拡大を追求するこれまでの活動方針はもう限界にきている――ということである。地方選挙本来の目的である自治体民主化と住民生活向上の実現のために、選挙活動の形や方法を抜本的に転換しなければならない時に来ている。言い換えれば、党中央主導の(国政選挙中心の)党勢拡大目標を追求するため、有権者を単なる「票読み・拡大・動員対象」視することを止め、主権者である地域住民の声と要求を実現するために政策を訴え、行動を共にしなければならないということである。地方選挙における地域活動を通して地域住民の声に真摯に向き合うことは、「数の拡大」を至上目的とする党勢拡大方針の見直しにつながり、本来の政党活動の姿を取り戻す契機となる。同時に、党中央の指導に基づく「民主集中制」がもたらす政策の歪みやズレを発見することにもつながる。次回は、市区議員と町村議員の現状について分析する。なお、党地方議員のデータベースは最後に独立して掲載するつもりでいる。(つづく)

「消滅可能性自治体」の広がりは、党地方議員の「消滅可能性」につながらないか、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その23)、岸田内閣と野党共闘(88)

  経済界などの民間有識者でつくる「人口戦略会議」は4月24日、全国1729自治体のうち744自治体が「いずれ消滅する可能性がある」との報告書を発表した。報告書は国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の推計を基に、子どもを産む中心世代である20〜39歳の若年女性人口が2020年から30年間で半減する市区町村を「消滅可能性自治体」と定義し、4割超がそれに該当するとした。翌日の各紙は1面トップあるいはそれに近い扱いでこの報告を大々的に報じた。

 

 人口戦略会議は、今年1月にも2100年に人口を8000万人台で安定させるとする提言を発表している。人口が減っても2050〜2100年に年率0.9%程度の実質国内総生産(GDP)成長率を維持するためには、生産性の低い産業や地域の構造改革を進め、合計特殊出生率(1人の女性が産む生涯子ども数)を2040年ごろまでに1.6、50年ごろまでに1.8へ引き上げ、60年までに人口置き換え水準の2.07にする必要があるというのである。だが、この目標の達成は「限りなく不可能に近い」との見方が支配的だ(人口学者の共通意見)。

 

 日本戦略会議の副議長である増田寛也元総務相は、10年前にも同じような報告書(日本創生会議、増田レポート、2014年5月)を発表している。2010年から40年までの30年間で若年女性人口の減少率が50%以上減少する自治体を「最終的に消滅する可能性が高い」とし、そのリストを公表して大反響を巻き起こした。安倍政権はそれを受けて「地方創生」政策を打ち出し、「希望出生率1.8」を実現するための「人口ビジョン」を各自治体に提出させた。だが、(無責任にも)それを実現するための裏付けがなかったために「地方創生」と称する政策は僅か数年で雲散霧消し、現在は影も形もない。安倍政権にはそれに類する思い付きの政策が山ほどある。厚生労働省によると、合計特殊出生率は翌2015年の1.45からそれ以降7年連続で低下し、2022年には過去最低の1.26を記録している。

 

 全国町村会長は2日後「日本戦略会議の消滅可能性自治体に関するコメント」を発表して厳しく反論した(全国町村会ホームページ、4月26日)。

 ――総人口が減少する中にあって、現在、町村をはじめ全国の自治体は人口減少への対応や独自の地域づくりに懸命に取り組んでいる。こうした中で20歳~39歳の女性人口が半減するという一面的な指標をもって線引きし、消滅可能性があるとして自治体リストを公表することは、これまでの地域の努力や取組に水を差すものである。今回の推計に示されるような事態となった大きな要因は東京圏への一極集中と少子化であり、一自治体の努力だけで抜本的な改善を図れるものではなく、リストの公表によって一部の地方の問題であるかのように矮小化されてはならない。まずは国全体としてこれまでの政策対応を検証し、抜本的な対策を講じていく必要がある。その上でいま我々自治体が取り組むべきことは、一定の人口減少が進む中でもそれぞれの地域で安心して暮らすことのできる持続可能な社会を実現することである(以下略)。

 

 朝日新聞の「天声人語」(4月29日)も「またか」と痛烈な批判をしている。

 ――また女性に押しつけるのか。民間研究機関「人口戦略会議」が公表した分析結果に正直げんなりした。指標としたのは20~39歳の若年女性人口の減少率だけ。(略)子どもは女性だけでは生まれない。少子化の最大の原因は男女の晩婚化と非婚化にある。(略)人口減を語る指標は他にもある。家事や子育てを平等に分担できる働き方や男女の賃金格差の解消など政策で変えるべきものは多い。そもそも女性は子どもを産むためだけに存在しているのではない。「個人」の幸せのために生きたいように生きたいのだ。

 

 イギリスの著名な人口学者ポール・モーランドは、著書『人口は未来を語る』(橘明美訳、NHK出版、2024年1月)の中で世界各国の少子化の動向と原因を分析し、人口減少に対する根本的な方策は「個人の自由な選択と多産奨励主義が両立するような文化を作る」ことしかないと述べている。個々人が多様な生き方の選択肢の中から自由意思によってその道を選択し、結果として社会全体の平均出生率が今より高くなるような状況を生み出さなければならない――というのである。また最悪の少子化対策は、時代に逆行する多産奨励主義の強要であるとも言っている(訳者あとがき)。

 

 要するに、日本戦略会議報告書の最大の特徴は、若年女性人口を「唯一の指標」として少子化動向を論じ、その帰趨が自治体の消長すなわち「消滅可能性」を規定すると一義的に結論づけるところにある。だが、ここには二つの意味で大きな論理的飛躍(欠陥)がある。一つは、女性の生物学的特性(産む性)を直線的に出生力に結びつけ、女性が人間らしく生きたいという社会的文化的ニーズやそれに基づく行動の特性を無視していることである(自分の生活を犠牲にしてまで女性は子どもを産もうとしない)。もう一つは、自治体を取り巻く数多くの要因を無視して、若年女性人口の大小(だけ)が自治体の消長を決定すると決めつけていることである。そこには全国町村会のコメントにもあるように、自治体を構成している多様な地域住民の存在が無視されており、自治体の運命は「メスの数」で決まるといった〝原始的コミュニティ〟の考え方が一貫している。

 

 共産党はこれまで人口減少問題について包括的な見解を示したことがない。第29回党大会決定にも「人口減少」という言葉は見つからない。ところが、今回の日本戦略会議報告書に関しては珍しく批判的な記事を掲載した(出稿は個人名で所属部局は不明、赤旗4月29日)。「時代錯誤の『消滅可能性自治体』」との見出しで「人口減少の責任 女性に転化」「自治体破壊の狙い明らか」と主張している。同報告書の「消滅可能性自治体」リストが地方自治を否定し、自治体を破壊する恐れがあると感じたからであろう。

 ――日本の人口が減少し、地方が衰退しているのは、女性が子どもを産まないからではありません。労働法制の規制緩和による人間らしい雇用の破壊、教育費をはじめ子育てへの重い経済的負担、ジェンダー平等の遅れなど、暮らしや権利を破壊する政治が原因です。結婚するかしないかは個人の生き方の選択であり、政治が介入することではありません。若い女性が減っているから自治体が消滅するなどという設定自体が間違っています。

 ―― 一方、戦後、地方自治法のもとで自治体を大量に「消滅」させたのはだれだったのでしょうか。1999年から自公政権が進めた「平成の大合併」で、市町村数は3232(1999年3月末)から1730(2010年3月末)減りました。合併により新自治体に吞み込まれた旧市町村の活力は喪失し、住民の声が行政に届かなくなり、住民サービスは低下しました。だれが地方の活力を奪い、自治体の破壊・消滅を進めてきたのか明らかです。

 

 しかし、問題はその先にある。人口減少問題は単なる「批判」だけで事足りるような簡単な問題ではなく、これから数十年にわたって取り組まなければならない深刻かつ長期的な社会問題なのである。それほどわが国が直面している人口減少は大きな慣性力を有しており、数十年単位の政策を続けなければ是正できないほどの巨大なエネルギーを擁している。つまり、この先数十年は人口減少が続くことを覚悟しなければならないのであり、それとともに日本の地方自治、地方自治体の変容も免れないと言わなければならないのである。

 

 このことは共産党にとっても他人事ではないはずだ。現実には地方党組織と党議員の高齢化が著しく進んでおり、選挙がある度に地方議員とりわけ町村会議員の数が減少していく事態が続いている。今回リストアップされた「消滅可能性自治体」の多くは平成大合併で大打撃を受けた町村自治体であり、そこでは党議員の減少が着実に進行している。「消滅可能性自治体」は今後、党議員の「消滅可能性」にもつながらないとは限らないからである(というよりは、その可能性が大きい)。

 

 志位議長は最近このところ事ある度に、社会主義・共産主義の「未来論」を語るようになってきている。「長期にわたる党勢後退」から抜け出せず、党内に重苦しい空気が漂っていることから、せめても明るい話題を提供しようと彼なりに努力しているのであろう。だが、志位議長が語るべきは「遠い未来」である社会主義・共産主義への夢ではなく、この数十年の間に必ずやってくる「近い未来」の人口減少問題への対応ではないのか。

 

 国立社会保障・人口問題研究所(社人研)は昨年末、2つの将来人口推計を発表した。1つは『日本の将来推計人口』(2023年11月)、もう1つは『日本の地域別将来人口推計』(2023年12月)である。いずれも日本の将来を左右する重大な将来予測資料であるが、その後に開かれた党大会や中央委員会総会のいずれにおいても、人口減少問題には一言も触れられていない。「報告」や「決定」に溢れているのは「党勢拡大」の繰り返しであって、その背後に横たわる深刻かつ長期的な人口減少問題はまるで眼中にないようなのである。

 

 この状態を地震災害に例えて比喩的に言えば、目前に迫っている大津波を警戒することなく、目先の家の修繕や補強に明け暮れている小さな集落の姿が目に浮かぶ。このままでは大津波に集落が丸ごと飲み込まれてしまうにもかかわらず、それを警告するリーダーも住民がいないというのでは、この先が思いやられるというものである。前置きが随分長くなってしまったが、次回からは共産党のホームページに掲載されている地方議員の実態分析に入りたい。(つづく)

党機関役員・地方議員が奮闘すれば党勢拡大は実現可能か、党地方議員の減少と高齢化が進んでいる、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その22)、岸田内閣と野党共闘(87)

 4月後半になってから党勢拡大の訴えが相次いで出された。「機関役員・議員が一気に支部に入り、4月中に『手紙』を全支部が討議し党勢拡大をさせよう」(党建設委員会、赤旗4月18日)、「4.27『学生オンラインゼミ』を成功させ、民青と党員拡大の前進を」(青年・学生委員会、4月20日)、「4月のとりくみが成否を分ける――党勢拡大に力を集中し必ず目標達成を」(大会・2中総決定推進本部長、4月25日)などである。いずれも長文の訴えだが、中身はただ一つ「党勢拡大に集中しよう」というものだ。

 

 これまでと少し変わったところがあるとすれば、党員や支部への直接の訴えから党機関や地方議員の奮闘を促すものに重点が変わったことだろう。これは「入党の働きかけを行っている支部は毎月2割弱」「読者を増やしている支部は毎月3割前後」(第29回党大会報告)という困難な現状を反映したものであり、党機関や地方議員が先頭に立って動かなければもはや事態を打開できなくなっていることを示している。以下は、その骨子である。

 ――「2中総をうけて都道府県委員会が決めた4月目標の合計は、全国的には入党の働きかけが約1万4千人、入党申し込み1478人、日刊紙1280人増、日曜版5768人増です。これらの目標は、党員拡大では現勢での前進をぎりぎり確実にする目標であり、読者拡大ではおおよそ3月の後退分を取り戻す目標です。47の都道府県委員会と311の地区委員会が自ら掲げた4月目標をやり切ってこそ、全国的前進を切り開くことができます」(赤旗4月18日)。

 ――「青年・学生党員の拡大は、民青同盟のリーダーづくりになるとともに、わが党にとって世代的継承のカギを握る課題です。毎月、現在の3倍以上となる100人以上の青年・学生を党に迎えてこそ、5年後の1万人の4青年・学生党員建設の道が開かれます」(4月20日)。

 ――「入党申し込みでは、3月の同時期とほぼ同様の到達にはなっています。『しんぶん赤旗』読者拡大は、日刊紙で3月とほぼ同水準、日曜版では3月よりも上回っています(略)。現状の延長のとりくみでは、全国的には党員拡大でいえば500人前後になりかねず、現勢の前進には届かない。読者拡大も近年の4月と比較すると下回っており、連続後退となりかねない状況にあります(略)。今、従来の月末の活動にとどまれば、チャンスはあるのに、党大会後の後退をずるずる続けることになってしまいかねない。ここはどうしても党機関、支部指導部、地方議員のみなさんが党勢拡大に力を集中し、4月目標を突破する大奮闘が必要です」(4月25日)。

 

 これらの数字が意味することは、(1)入党申し込みが月1500人程度なければ党員現勢を維持できないが、現状は500人程度(目標の3分の1)にとどまっている、(2)5年後に1万人を目標とする青年・学生党員の拡大は月100人以上の入党者がなければ達成できないが、現状は目標の3分の1以下にとどまっている、(3)赤旗読者拡大は日刊紙、日曜版とも増紙を目指しているが、減紙を食い止めることができず、現状は連続後退の状態が続いている――というものだ。

 

 しかし、4月の党勢拡大の結果と到達点は、入党の働きかけが約5000人(都道府県委員会が設定した目標1万4千人の3分の1)、入党申し込みは504人(目標1478人の3分の1)、日刊紙は目標1280人増に対して74人増、日曜版は目標5768人増に対して135人減と、いずれも目標を大きく下回った。党大会決定の読了党員も4月前半の27.8%から30.8%へ僅か3%しか増えていない。また〝党勢拡大一本〟にしぼった「手紙」の読了も22.9%と進んでいない(大会・2中総決定推進本部、赤旗5月2日)。

 

 党中央が「最優先課題」として追求してきた党大会決定の読了が、大会から4カ月を経過した現在においても未だ党員の3分の1に達せず、2中総で打ち出した「手紙」も党員の5分の1にしか浸透していない現実は、党中央決定がもはや下部組織に届かず、党活動の原則「民主集中制」が事実上空文化していることを示している。このままでは「4月のとりくみが成否を分ける」(4月25日)との訴えが「5月を全支部運動への前進・飛躍に正面から挑む月に」(5月2日)になり、そのままずるずると6月、7月を迎えることになるのではないか。

 

 党勢拡大目標が単なる「掛け声」と化し、実績がいっこうに上がらないのは、党中央が〝党組織の高齢化〟という否定しがたい現実をいまなお受け入れていないからだ。高齢化した支部を高齢化した党議員がいくら𠮟咤激励しても、身体が動かないのではどうしようもない。年老いた親を高齢化した子どもが介護する有様を「老老介護」というが、高齢化した支部を高齢化した党議員が督促する「老老拡大」では効果が上がるはずがない。この現実を直視しない限り、これからも「長期にわたる党勢後退」を克服することはできず、拡大目標を達成することはできないだろう。斜面をずるずるとずり落ちていく党組織を掛け声だけで止めることはできないからだ。

 

 党議員が先頭に立って拡大に奮闘しなければならないというが、それでは党議員の実態はいったいどうなっているのか。最大の問題は、党地方議員の減少と高齢化が著しく進んでいることだ。総務省「地方公共団体の議会の議員及び長の所属党派別人数調等」(2024年3月29日)によると、2003年から2023年まで20年間の(5年おき)の議員定数と党議員の推移は以下のようになる(各年12月31日現在)。

 

【地方議員総数】

               定数                     党議員計(%)   男   女 

2003年 60011(100%、100) 3992(6.6%、100) 2763 1219

2008年 38415(100%、64) 3059(8.0%、77) 1984 1075

2013年 34476(100%、57) 2690(7.8%、67) 1732 957

2018年 33086(100%、55) 2760(8.3%、69) 1765 995

2023年 32184(100%、54) 2339(7.3%、59) 1378 961

 

【都道府県議会議員】

     定数        党議員計(%)  男 女 

2003年 2874(100%、100) 129(4.5%、100) 74 55 

2008年 2784(100%、97) 120(4.3%、93) 59 61 

2013年 2735(100%、95) 113(4.1%、88) 56 57  

2018年 2687(100%、93) 149(5.5%、116) 69 80  

2023年 2662(100%、93) 113(4.2%、88) 48 65  

 

【市区議会議員】

      定数      党議員計(%)   男  女 

2003年 19434(100%、100) 1760(9.1%、100) 1100 650

2008年 22130(100%、114) 2029(9.2%、115) 1278 751

2013年 20151(100%、104) 1824(9.1%、104) 1140 684

2018年 19292(100%、99) 1875(9.7%、107) 1183 692

2023年 18752(100%、96) 1571(8.4%、93) 885 686

 

【町村議会議員】

      定数        党議員計(%)  男  女 

2003年 37703(100%、100) 2103(5.6%、100) 1589 514

2008年 13501(100%、36) 910(6.7%、43) 647 263

2013年 11590(100%、31) 753(6.7%、36) 536 217

2018年 11107(100%、29) 736(6.6%、35) 513 223

2023年 10770(100%、29) 655(6.1%、31) 445 210

 

 この表から言えることは、21世紀に入ってから地方議会に大きな変動が生じており、その影響を共産党がもろに受けているということだ。簡単に言えば、次のようになる。

 (1)平成大合併によって、全国の町村会議員が20年間で3万7800人から1万800人(29%)へ2万7千人も激減した。その結果、地方議員総数は6万人から3万2千人へ半減し(54%)、共産党は煽りを食って4千人弱から2300人余へ6割弱(59%)に減少した。

 (2)地方議員に占める共産党議員の比率は、概ね都道府県議会議員は4%台、市区議会議員は9%台、町村議会議員は6%台を維持してきたが、2023年になっていずれも後退した。これは2023年統一地方選における共産党の敗北が大きく影響している。

 (3)敗北の主な原因として考えられるのは、党議員の高齢化である。若い候補者に交代しようとしても見つからず、そのまま年季を重ねて引退する(あるいは落選する)という形で減少していくのである。

 

 共産党はこれまで、党員や党議員の年齢構成や平均年齢について明らかにしてこなかった。総務省統計にもまとまったデータがないので、地方議員全体の高齢化の動向を知ることができない。現時点でわかるのは、都道府県議員56.7歳(全国都道府県議長会、2019年)、市会議員58.8歳(全国市議会議長会、2023年)、町村会議員64.4歳(全国町村会議長会、2023年)の資料ぐらいであり、それも年次的に統一されていない。

 

 共産党地方議員の実態を把握するため、共産党のホームページで地方議員の数と年齢を調べてみた。だが、生年月日が記入されていない議員が多いことに心底驚いた。例えば、神奈川県委員会の場合は、県会議員3人は年齢が記されているものの、政令市の横浜市・川崎市・相模原市の市会議員の場合は15人のうち9人が年齢不詳、その他の市では32人のうち15人、町村会議員の場合は17人のうち4人が年齢不詳となっている。つまり、神奈川県委員会に所属する地方議員67人のうち28人(4割)が年齢不詳であり、年齢構成や平均年齢がわからないのである。

 

 公職選挙法の第10条(被選挙権)には、地方議員の場合、日本国民であり、当該地域の選挙権を有し、年齢満25年以上の者が被選挙権を有すると規定されている。立候補届は生年月日を記入しなければ受けつけられないし、選挙公報にも掲載されない。候補者年齢は国政選挙、地方選挙を問わず各種選挙の必須要件であり、有権者にとっては候補者の適格性を判断するための重要データである。選挙で選ばれた議員が党のホームページでは年齢不詳のまま掲載されていることなど「絶対にあり得ない」と思うが、共産党のホームページではさほど年齢を重視していないのか、それが掲載されていない。

 

 そんなことでこの半月間、共産党のホームページと悪戦苦闘してきた。近くその実態を明らかにしたいと思うが、作業がなかなか捗らない。次回の拙ブログでは何とかその一端でも解明したいと思う。期待しないで待っていてほしい。(つづく)

〝党存亡の危機〟を訴えた第2回中央委員会総会、全支部が立ち上がれば目標実現が可能との「仮定の方針」を実現できるか、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その21)、岸田内閣と野党共闘(86)

 4月6、7両日にわたって開かれた共産党の第2回中央委員会総会(2中総)が終わり、「党づくりの後退から前進への歴史的転換を――全党の支部・グループのみなさんへの手紙」が公表された(赤旗4月8日)。今回の2中総の際立った特徴は、これまでのような長文の決定文書の作成を避け、「手紙」という形で〝党勢回復一本〟に絞った内容になったことだ。これは、長文の決定文書が党員から忌避され、読了する党員が3~4割にしか達しないという事態をもはや無視できなくなったからであろう。何しろ全党の英知を結集して作り上げ、歴史的成功をおさめたと自画自賛する第29回党大会決定の読了率が27.8%というのだから(志位議長の開会のあいさつ、赤旗4月7日)、実態は推して知るべしなのである。

 

 「手紙」の趣旨は以下の3点に集約される。

 (1)この2年間は、わが党にとって歴史的な分かれ道となる2年間です。党大会決定は、次期党大会までに、すなわち2年間で、①第28回党大会時現勢――27万人の党員、100万人の「しんぶん赤旗」を必ず回復・突破すること、②青年・学生、労働者、30代~50代での党勢倍化、1万人の青年・学生党員と数万の民青の建設を図ることを決めました。2年間でこの目標を実現できるかどうか。ここに文字通り、わが党の命運がかかっています。

 (2)この2年間、党づくりが進まなかったらどうなるか。わが党の任務が果たせなくなる事態に直面することは、みなさんが痛いほど感じておられることだと思います。「党の旗を地域で示せなくなっている」「選挙をたたかう自力があまりに足りない」「しんぶん赤旗が配れなくなった」――全国のみなさんが直面している困難に、私たちが胸を痛めない日はありません。しかし、困難に負けて、党づくりをあきらめてしまったら、未来はなくなり、国民への責任を果たせなくなってしまいます。試練に耐えて党の灯を守り続けていること自体が大きな値打ちのあることです。そこに自信と誇りを持ち、困難は党づくりで突破するという立場にたち、みんなで築いてきた草の根の党の旗を未来へ引き継いでいこうではありませんか。

 (3)党大会で掲げた2年間の目標は、決して無理な目標ではありません。すべての支部が毎月毎月、党員と読者の拡大に足を踏み出し、一つの支部に平均すれば、第29回党大会現勢から2年間で2人の党員、2人の日刊紙読者、8人の日曜版読者を増やすという目標です。全国のすべての支部と党員が立ち上がるならば、必ずやり遂げることができます。

 

 ここでは「崖っぷち」まで追い詰められている党の実情が垣間見える。日刊紙の党活動欄は先進事例中心の編集になっていて、全国至るところで毎日拡大運動が勢い良く展開されているかのような印象を受けるが、実態は全国の支部が「党の旗を地域で示せなくなっている」「選挙をたたかう自力があまりに足りない」「しんぶん赤旗が配れなくなった」といった困難に直面している――というのである。だが、問題はその先にあるのではないか。試練に耐えて党の灯を守り続けていることに自信と誇りをもち、「困難は党づくりで突破する」という立場にたてば未来は開けるというが、果たしてそうだろうかということだ。

 

 この文面には恐ろしいほどの論理矛盾がある。党づくりの後退が〝原因〟であり、党活動の困難が〝結果〟なのに、原因を究明しないで「困難は党づくりで突破する」というのだから、およそ方針らしい方針になっていない。これでは党づくりは〝根性〟でやるしかなくなり、旧日本陸軍と同じく「バンザイ突撃」(進退窮まった部隊が最後の戦術として行う自殺的な攻撃)になってしまう。戦況を分析せず、作戦を吟味しないで、とにかく「突撃命令」を出せばよいといった司令官をいただく軍隊の運命がいったいどうなったかは、ちょっとでも『失敗の本質、日本軍の組織論的研究』(中公文庫、1991年)を読めばわかることだ。

 

 それに加えて、各支部が平均して2年間で2人の党員、2人の日刊紙読者、8人の日曜版読者を増やすという目標が決して無理な目標ではなく、全国のすべての支部と党員が立ち上がるならば、必ずやり遂げることができるという方針の提起も常軌を逸している。この方針は、いわば「たられば」(事実と無関係な仮定の話)の見本みたいなもので、田村氏自身が報告した「入党の働きかけを行っている支部は毎月2割弱、読者を増やしている支部は毎月3割前後」という〝事実〟とはまったく無関係な〝仮定〟の話なのである。事実に基づいてどうすれば多くの支部を立ち上がらせることができるかという問題の提起ではなく、「全国すべての支部と党員が立ち上がれば」との仮定を設定して「必ずやり遂げることができる」というのだから、すべては「架空の話」なのである。

 

 それでも田村委員長は力説する(2中総結語、赤旗4月9日)。今後の政治日程を考えた時、今年前半は思い切って党づくりに力を集中し、7月末を一つの節目にして2年後の目標達成にふさわしい毎月毎月の目標水準――全国的に毎月2万人に働きかけて2千人の入党者を迎える、日刊紙では毎月1200人、日曜版では6千人以上の増勢をかちとるというものだ。この提案は全員一致で採択されたというが、目下毎月400人台の入党者を2千人に引き上げることは容易でないし、減紙が続いている機関紙読者を一気に増勢に転じることも容易でない。この方針がどれだけリアリティを以て受け止められるかはいずれ明らかになるだろうが、その時は〝党の存亡〟を懸けた判断が求められる時だろう。(つづく)

赤旗が人民的ジャーナリズムの〝中核的役割〟を担う存在から、党中央と地方党機関を維持するための〝財源〟に変質しようとしている、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その20)、岸田内閣と野党共闘(85)

 党勢拡大運動の絶頂期にあった1970年代後半から80年代前半にかけて、共産党の機関紙「赤旗」は、人民的ジャーナリズムの〝中核〟を担う存在として位置付けられていた。そこには「機関紙中心の党活動の全面的な定着を」をスローガンに大衆的前衛党としてその影響力を国民生活のあらゆる分野に広げ、「『百万の党』は80年代の現実的目標」との展望が語られていた。

 ――党と大衆を切り離そうとする反共攻撃が激しければ激しいほど、党と大衆を結ぶ生きた絆である機関紙「赤旗」の読者拡大活動はいっそう重要になってくる。とくに日本は、発達した資本主義諸国のなかでもマスコミがとりわけ高度に発達した国の一つであるだけに、「赤旗」は国の進路を正しく見定め、政治、経済の仕組みをわかりやすく解明し、日本共産党とともにたたかう思想と生き方をひろめ、党と大衆を結んでいく、もっとも強力な宣伝と組織の武器である。「赤旗」はまた、党中央と全党員を結ぶ血管であり、党の路線にもとづいて党活動全体を統一的に結びつける動脈である。機関紙中心の活動でわが党がたえず前進をかちとり、真の革新の陣地を拡大することは、選挙戦や大衆運動を含めて党活動の発展のための不可欠の条件となっている(第14回党大会決議、読者拡大と機関紙活動、1977年10月)。

 ――資本主義国のなかでもマスコミの高度な発達を特徴とするわが国で、人民的ジャーナリズムの中核となっている「赤旗」の果たす役割は、80年代の内外の情勢の進行とともにますます大きい。機関紙読者の拡大を成功させ、この人民的ジャーナリズムの陣地を、基本的に独占資本・支配勢力の統括下にある巨大なマスコミに対抗しうるだけの規模に発展させることが重要である(第15回党大会決議、党勢拡大の規模と速さは国政革新の展望を左右する、1980年2月)。

 

機関紙「赤旗」はこのように、党と大衆を結ぶ絆であり、党の思想を広げるもっとも強力な宣伝・組織の武器であり、党中央と全党員を結ぶ血管であり、党の路線にもとづいて党活動全体を統一的に結びつける動脈である――と、国政変革(民主主義革命)を実現するための戦略的役割を与えられていた。不破書記局長は、「第14回大会決定は『百万の党』の建設を展望しつつ、当面『五十万の党、四百万の読者』の実現という課題を提起しました」「80年代には、わが党が戦後、党の再建以来目標としてきた『百万の党』の建設を必ずやりとげなければなりません」「『百万の党』とは決して手の届かない遠い目標ではありません。日本の人口は1億1千万、『百万の党』といえば人口比で1%弱の党員であります。私たちは、大都市はもちろん遅れたといわれる農村でも少なくとも人口の1%を超える党組織をもち、こうして全国に『百万の党』をつくりあげることは必ずできる目標だということに深い確信をもつわけであります」と高らかに宣言していたのである(第15回党大会、不破書記局長結語、1980年2月)。

 

 それから半世紀近くを経た21世紀前半の現在、党勢は「長期にわたる党勢後退」によって〝どん底〟ともいうべき深刻な状態に陥り、党員と赤旗読者は崖から転げるような勢いで減少の一途をたどっている。その実情を訴えたのが、機関紙活動局長と財務・業務委員会責任者連名の訴え(赤旗3月19日)だった。これまで党財政の窮状を伝えるメッセージは財務・業務委員会責任者から出されていたが、しかし今回の機関紙活動局長との連名の訴えは、それがいよいよ機関紙発行の危機にまで及んできたことを示している。「現状のままでは赤旗は日刊紙、日曜版とも今月大幅後退の危険、発行の維持さえ危ぶまれる事態に直面する」「日刊紙の赤字は拡大、日曜版の黒字は減少、日曜版は日刊紙の発行を支え、中央機構を支える最大の力」「日刊紙、日曜版の大きな後退を許せば、中央機構の維持も地方党機関の財政もさらに困難を増す」「しんぶん赤旗の発行はどんなことがあっても守らなければならない」――との悲痛な訴えがそれである。

 

 志位委員長が、90年代に党員拡大数が極端に落ち込み、新入党者の「空白の期間」がつくられた背景を「党員拡大と機関紙拡大が党勢拡大の二つの根幹」とした方針が党員拡大を後景に追いやることになった――といった(理由にならない)理由で説明したのはつい最近のことである。そして「『二つの根幹』は正確でなかった」との反省を明確にし、「党建設・党勢拡大の根幹は、党員拡大である。根幹とは、党のあらゆる活動――国民の要求にこたえる活動、政策宣伝活動、選挙活動、議会活動、機関紙活動などを担う根本の力が、党に自覚的に結集した党員であるということである」と定式化された(第29回党大会、志位委員長開会のあいさつ、赤旗2024年1月16日)。

 

 ここで注目されるのは、機関紙活動が党活動の「根幹」から外され、党活動の「その他」に格下げされたことだ。党勢拡大絶頂期には「機関紙中心の党活動の全面的な定着を」が党活動のメインスローガンであり、党員拡大と機関紙読者拡大は相互補完関係にあって相乗効果(正のスパイラル)を挙げていた。それがなぜ「二者択一」になり、党員拡大が「根幹」になったのだろうか。一言で言えば、それほど党組織が存続の危機に直面しており、党活動のすべてを党員拡大に集中しなければ党組織を維持できないほどの深刻な事態に直面しているからであろう。志位議長が最近ことある度に「開拓と苦悩の百年」を強調し、迫害と弾圧によって若くして命を落とした戦前の共産党員(女性)の話を持ち出すのは、このことを意識してのことであり、党組織に奮起を促すためだ(戦前の共産党員、田中サガヨさんについて、赤旗3月31日)。

 

 ところが、党勢拡大とともに急成長してきた党中央機構と地方党機関をこのまま維持することは容易でない。党財政は一定の縮減が図られてきたものの、その規模を党勢に応じた状態に縮減することは極めて困難な作業であり、いったん膨れ上がった組織と財政の規模を縮小することは、「人」の問題が絡む以上そう簡単なことではないからだ。だから、志位議長がいくら「根幹」の党員拡大を叫んでも、財務担当者や機関紙担当者はそれだけに集中するわけにはいかない。機関紙活動がストップすれば、党財政が直ちに崩壊することが分かり切っているからであり、志位議長が党員拡大を言っている傍から、「しんぶん赤旗の発行はどんなことがあっても守らなければならない」と訴えるのは、そのためである。

 

 今回の機関紙活動局長と財務・業務委員会責任者連名の訴えの最大の特徴は、機関紙読者拡大の目的が、これまでのように国政革新を推進するため人民的ジャーナリズムを発展させるといった「大義名分」には言及せず、党中央と地方党機関を支えるための「財源確保」にあることを(なりふり構わず)打ち出した点にある。このことは機関紙担当者や財務担当者の立場からすれば当然のことであり、職務を果たす上で必要な行為であることは間違いない。都道府県委員長をはじめ党機関専従者の側からすれば、自分たちの仕事を支える財政基盤の確立が死活問題である以上、訴えに賛同するのは当然のことだと言えるが、問題は一般党員や支持者がそれをどう受け止めるかということだ。

 

 党員拡大と機関紙読者拡大が「正のスパイラル」を描いていた頃は、赤旗の普及と拡大は国政変革のためという「大義」に裏打ちされていて大きな勢いがあった。しかし、党員が高齢化して党員拡大と機関紙読者拡大が「負のスパイラル」に陥っている現在、党中央と地方党機関を支えるために赤旗を広げるということがどれだけの説得力を持ち、またどれだけの党員のモチベーションになり得るだろうか。それを実現するには党機関への忠誠心と献身性がなければ不可能であるが、それがすでに崩れていることは、田村副委員長の第29回党大会中央委員会報告においても明らかにされているからである(赤旗1月17日)。

 

 田村副委員長は、党建設・党勢拡大が一部の支部と党員によって担われているという深刻な実態について、(1)入党の働きかけを行っている支部は毎月2割弱、読者を増やしている支部は毎月3割前後にとどまる、(2)大会決定・中央委員会総会報告の決定を読了する党員が3~4割、党費の納入が6割台、日刊紙を購読する党員が6割という実態を明らかにした。これまで党生活の原則とされてきた党費納入と日刊紙購読が6割台に落ち込み、党勢拡大の支部活動が3割程度しか実行されていないという現実は、党活動が相当部分で機能停止の状態に陥っていることを示している。だが不思議なことに、田村副委員長はこの問題を素通りして、「志位委員長のあいさつでは、客観的条件という点でも、主体的条件という点でも、いま私たちが『党勢を長期の後退から前進に転じる歴史的チャンスの時期を迎えている』ことが全面的に明らかにされました」と述べるにとどまり、それ以上のことは何一つ語っていない。

 

 それでは、志位委員長が開会のあいさつで全面的に明らかにしたとされる「党勢を長期の後退から前進に転じる歴史的チャンスの時期」とはいったいいかなるものなのか。志位氏が挙げる客観的条件とは、(1)自民党政治の行き詰まりが内政・外交ともに極限に達しており、多くの国民が自民党に代わる新しい政治を求めており、それにこたえられるのは日本共産党である、(2)貧富の格差の地球的規模での拡大、機構危機の深刻化などのもとで、「資本主義というシステムをこのまま続けていいのか」という問いかけが起こり、社会主義に対する新たな期待と注目が生まれている。日本はいま新しい政治を生み出す〝夜明け前〟とも言える歴史的時期を迎えている、というもの。主体的条件とは、(1)日本共産党は世界にもまれな理論的・路線的発展をかちとってきた。その上に立って「人間の自由」という角度から未来社会論――社会主義・共産主義論をさらに発展させてきた、(2)党建設でも党員拡大の「空白の期間」を克服するため、世代的継承を緊急かつ切実な大問題・戦略的事業として位置づけ、全党を挙げて新たな取り組みを進めてきたと、いうものである。

 

 しかしこの文章を読んでみて、長期にわたる党勢後退を前進に転じる〝歴史的チャンス〟が到来したなどと思う人はおそらく誰一人いないだろう。志位氏のいう客観的条件とは、いずれも現代の時代潮流の一端を述べただけのことであり、主体的条件に関しては党勢拡大方針を羅列しただけのことであって、そこには〝歴史的チャンス〟と言えるエビデンス(根拠)は何一つ示されていない。たとえば「自民党政治に代わる新しい政治に応えるのは日本共産党」ということ一つをとってみても、それは単に志位氏の願望を述べただけの「夢物語」であって、現在の共産党支持率のレベルや野党共闘の有様から見れば、まったくリアリティのない言葉の羅列にすぎない。

 

 状況は「厳しい」の一言に尽きる。機関紙活動局長と財務・業務委員会責任者連名の悲痛な訴えにもかかわらず、3月の拡大実績はプラスに転じることはできなかった(赤旗4月2日)。第29回党大会以降の3カ月の実績は以下の通りである。

〇1月、入党447人、日刊紙1605人減、日曜版5380人減、電子版94人増

〇2月、入党421人、日刊紙1486人減、日曜版5029人減、電子版74人増

〇3月、入党488人、日刊紙947人減、日曜版6388人減、電子版28人増

 

 党員数の増減は、入党だけでなく死亡と離党の数字が明らかにならないとわからない。死亡数を赤旗党員訃報欄に掲載された547人から推計(過去4年間の掲載率38%)すると1439人(547人×100/38)になり、この間の入党1356人を83人上回ることになる。人口学の用語で言えば、出生と死亡の差を「自然増(減)」、転入と転出の差を「社会増(減)」というが、共産党の場合はすでに恒常的な「自然減」状態にあり、これに離党という「社会減」を加えると、党勢(人口動態)は大きく減少方向に傾いていることがわかる。つまり、第29回党大会以降の3カ月は、党員、日刊紙、日曜版ともに増加に転じることができず、「長期にわたる党勢後退」が依然として続いているのである。

 

 2022年の「党創立百周年」を迎えてのキャンペーンが、志位委員長肝いりの『共産党の百年』の刊行(2023年7月)を機に大々的に行われ、また遅れていた第29回党大会(2024年1月)も開催された。だが、その後の3カ月は大会目標を早くも裏切るものとなり、大会決議自体の正統性が大きく揺らいでいる。共産党が向き合うべきは、『百年史』の作成もさることながら、実は「長期にわたる党勢後退」すなわち「共産党の2024年問題」の解明こそが本命ではなかったか。また『百年史』を作成するのであれば、「長期にわたる党勢後退」の解明を軸にして組み立てなければならなかった。「共産党の2024年問題」を素通りして百年の歴史を誇ることは、「砂上の楼閣」を誇ることと余り変わらない。

 

 物流業界の2024年問題は、日本が直面している少子高齢化による労働人口減少が、物流業界の構造問題(低賃金、長時間労働、健康障害など)と相まって「ドライバー不足」という形で一挙に顕在化した社会課題である。物流業界はこれらの問題を以前から熟知しながら、労働者(ドライバー)に長時間労働を強いることで売上を拡大してきた。これに加えてバブル崩壊後は、立場の強い荷主による運賃の買いたたきや過剰な付帯サービス要求(ドライバーによる荷役など)が横行し、ドライバーの長時間労働はそのままに収入だけが下がっていった。そして、このまま「ドライバー不足」を放置すれば、遠からず日本の輸送能力が崩壊するというところまできて、やっと腰を上げたのである。

 

 この構図は共産党にもそのまま当てはまる。共産党は早くから「長期にわたる党勢後退」問題の発生に気付いていたが、党員と党組織に「過大な拡大要求」を強いることで解決できると(安易に)考えていた。党中央が絶対的な権限を持つ「民主集中制」の党原則の下で、「数の拡大」を至上目的とする党勢拡大方針が党員を疲弊させ、党組織が高齢化の一途をたどってきたにもかかわらず、それを真正面から取り上げようとしなかった。それが人口減少時代の少子高齢化と相まって恒常的な「党員減少問題」となってあらわれても、これまでの方針を見直そうとしなかった。そしてこの状態を放置すれば、遠からず党組織が崩壊するというところまで来ているにもかかわらず、まだ腰を上げようとしていない(物流業界にも劣る)。

 

 4月6日に第2回中央委員会総会(2中総)が開かれるという。ここでこの3カ月の拡大実績がどのように総括されるかが注目される。第28回党大会の130%目標(党員35万人、赤旗読者130万人)を5年間で達成することをあくまでも追及するのか、それとも思い切った方針転換を示すのか、共産党はいま存亡の岐路に立っている。(つづく)