リスクに背を向ける日本人/山岸俊男&メアリー・ブリントン


リスクに背を向ける日本人 (講談社現代新書)

リスクに背を向ける日本人 (講談社現代新書)



一見、新自由主義的経済学者が書いた本のタイトルのように見えるが、そうではない。この本は社会学者(社会心理学者)である二人(日米)の対談によって構成されている。


「日本人が文化的・遺伝的にリスク回避的なのではない。日本人がリスクテイクを嫌うのは、日本の社会制度が今も厳然とリスクテイクをすると損になる制度・構造になっているからだ」というのが本書の主張の基礎である。

日本が「安全・安心な社会」というイメージは、ある意味では誤解であり、アメリカよりも日本の方が「失敗に厳しい危険な社会」になっているのでそれを「制度」から変えていかければならない、と本書は指摘している。



これは「制度や仕組みが意識を規定している」ことを強調するタイプの論で、最近、良く読んでいる出口治明氏もこういう世界観をお持ちである。僕も個人的にはこのスタンスを基本としてきた。だから、研修講師よりも、制度設計を重んじる人事コンサルタントであることに軸足を置いてきたという経緯がある。

しかし、最近、「制度」の力の限界みたいなものを感じて、ちょっと揺れている部分がある。制度の力に重きを置かない対極的な考え方として「究極のところ、一人ひとりの格率(マクシム)が大事」というカント的な考え方がある。最近、どちらかというとそっちの方に興味を持っていたところだったので、本書を読んでまた振り子が自分従来の位置に戻ってきた。




ちなみに、本書は、雇用・労働問題に対する言及も多数ある。基本的に、本書の山岸先生はとても歯切れが良い。しかし、労働問題の具体論のくだりになると「短い紙幅だと誤解を招くからあまり言わないけど・・・」みたいに舌鋒が鈍っている感があるのがやや残念。もっと堂々と、「新卒一括採用をやめて、中高年の解雇規制を緩和せよ。その事はリスクを高めることではなく、むしろ安全性を高めることになる」と言い切っても良かったのではないだろか。



余談ながら、今ではそれぞれ大学の要職に就くようなお立場になられているこのお二人は、実は大学院生時代からの知り合いであるそうだ。うまく表現できないけれど、そういうある種の親密な友達感覚が、本書の対話の空気感にあって、それも良かった。「成熟したインテリ友達同士の会話」みたいな感じが独特で、かっこいい。



全体に、とてもオススメの「日本論」「日本人論」であり、「人」を扱う仕事(たとえば人事部等々)の方が読んで損はありません。対談調でとても平易で、難しくはありません。



なお、本書に触発されて少し脱線すると、東日本大震災でもそれほどドラスティックな変化がなかった「日本人のリスク感覚」が変革を迫られるのは、そのうち来るであろう「国債暴落騒動」のときだろうな、と個人的には思っています。どうでしょうか。別に暴落して欲しいわけではありませんが。