米国製エリートは本当にすごいのか?/佐々木紀彦
- 作者: 佐々木紀彦
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2011/07/08
- メディア: 単行本
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「ビジネスに従事していてグローバル化に興味がある人」「大学教育関係者」は読んで損のない良書であると思う。推薦です。これで1500円は安い。
この本のポイントは、著者が「1979年生まれ」という点にある。すなわち、著者自身が言うように、日本にようやく登場してきた「憧れやコンプレックス無く、アメリカを見ることの出来る世代」が書いた本であるところが特徴だ。自分もほぼ同年代であるせいか、その立場からの論旨に共感できた。
「アメリカよりも日本のほうが快適。アメリカにわざわざ住む必然性を感じない」「西欧は外へ行く留学生が減った、などとは嘆かない。留学生が減っていると騒ぐのは途上国のメンタリティ」「むしろ、最近日本から出ていく留学生の方が質が上がっている」「アメリカ人だって超ガラパゴス」と書き切る人は、50代以上の物書きではなかなか居ないように思う(居たらすみません)。
他にも「アメリカの教授の授業もつまらないものが少なくない。みんな内職してる」とか「スタンフォードの学生も寄らば大樹が多くて起業志向は特に高くない」とか、日本で醸成されている「幻想」を砕いて行くところも面白い。
もちろん、アメリカをdisるだけではなくて、日本の足りないところ、アメリカの優れている部分もしっかり書かれている。批判と尊敬と自負のバランスが良い。
日本だと、やる気のある人ほど、何か「幻想」に突き動かされてしまうところがあるのが、(自戒を込めて)厄介だなと感じる。
エリートの育成方法については、要は「若いうちに大量のインプット・アウトプットをするしかない!」「その道の専門家が書いた古典と格闘せよ」だと言う。
このメッセージ自体は、日本の大学教授も少なからぬ人が同じこと言ってると思う*1んだけど、それを「システム・仕組み・カリキュラム体系」にして強引にやらせるという慣行が(著者の指摘する通り)日本には無い、というところが問題なのかな、と感じた。
面白かったところ
著者は、欧米では、経済学者なんて企業で喩えると「財務部長」みたいなもの。国の「企画部長」は、それに加えて、政治・歴史・哲学・法律・安全保障を修めた真のゼネラリスト人であることが要求されている、と説く。
(引用)
このように今の日本の抱えている問題は、経済に限らない複合的なものです。ですが日本には国際政治、歴史、経済などに精通し多面的に戦略を描くことのできる一流のゼネラリストが少ないため「戦略の空白」が生まれています。日本ではこの空白を、二流のゼネラリストである官僚と、テレビ受けのよい「電波学者」と、短期思考の「民間エコノミスト」が埋めるという、大変不幸な状況が産まれています。
あとは、元自衛隊で今一部で人気の田母神氏とか、更には、瀬島龍三氏について実名を上げて「エリートとしての責務を果たしていない」バッサリと切って捨てるところには「おおっ、ここまで良く書くっ」としびれました。この心意気、見習いたい。
*1:実際、私の通っていた大学院ではこういうメッセージが発されていました。