2012-01-27
週刊『エコノミスト』の数学特集
今、たぶん店頭にある週刊『エコノミスト』誌(1/31特大号)が、「ビジネスに役立つ数学」という特集を組んでいて、ぼくもそれに参加している。インタビューに答えているのと、問題を3題出題し、解答と解説も担当している。是非、手に取っていただければ、幸いである。
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数学啓蒙書が、ここ数年、好調な販売部数を維持しているらしく、あちこちのビジネス誌で数学特集を組んでいる。ぼくも何度か、インタビューを受けた。ぼくの推測では、数学本ブームには複数のタイプが混合しているようだ。
第一は、「リベンジ・タイプ」。世の中には、数学に傷ついたことがある人が多い。つまり、学生時代にうまくいかなかった(やられた)経験があって、コンプレックスを抱えている人たちである。ところが、大人になって分別がついてみると、「そんなに難しかったのかなあ」というような感慨が浮かんでくる。そこで、もう一度チャレンジしてみたくなる。そういう人が手に取るのが、いわゆる「やりなおし本」というタイプの数学本で、要するに中学数学や高校数学を勉強し直すものだ。編集者の話では、このタイプがばかにならないほど売れている、ということだ。
第二は、昔ながらの「マニア・タイプ」。数学には、いつの時代も、ファンという人たちが一定量存在している。隅々まできちんと理解できているわけではないが、憧れと好奇心をもっている人たちだ。将棋や囲碁のファン(自分では指したり打ったりしないが観戦するのが好き)と同じようなものと考えればいい。かくいうぼくも、中学生のときから今にいたるまで、このタイプに属している。この手のマニア・ファンが興味を持つのは、最先端の数学。とりわけ、未解決問題である。だから、フェルマー予想やポアンカレ予想が解決したときは、その解決本が飛ぶように売れたりした。今、最もホットなのは、リーマン予想であろう。(ちなみに、この予想については、ぼくと黒川先生の共著『リーマン予想は解決するのか』青土社という名著、笑い、があるのでぜひともどうぞ)。こういう人たちが、まさに、数学啓蒙書の市場を支えている、といえる。
第三は、たぶん新種といっていいと思うけど、「ビジネス活用・タイプ」。日本社会が、不況に陥ってから、「数学力はビジネスに役立つのではないか」という考えに注目が集まり始めた。その理由は、ざっくりいえば、数学の持つ厳密な論理性とか図式思考とかが、どこかビジネスに関連を持つような気分があるから、というのもあるし、また、ITにおけるプログラミングや高度化した金融商品などが、まさに高等数学を用いていることもあるだろう。そういう観点で、ビジネスパーソンから数学への熱い視線が起きているのだと思う。今回の特集は、このタイプの話題を提供しているといっていい。特集でも紹介していただいているが、拙著『景気を読みとく数学入門』角川ソフィア文庫の一部が、こういうビジネス活用タイプの数学を扱っている。
- 作者: 小島 寛之
- 出版社/メーカー: 角川学芸出版
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タイプはさまざまなれど、ぼくは数学がブームになることは大歓迎である。もちろん、数学本を書くのを生業としているから、というのが大きな理由ではあるが、一数学ファンとして、多くの人と数学文化を共有することが楽しいからに他ならない。
さて、今回の特集では、ぼくは3題の問題を紹介したのだけれど、その中の1題だけ、ここに引用しよう。
(問題) X社には10人の役員がいて、偉い順に、ナンバー1、ナンバー2、…、ナンバー10となっている。今、ナンバー2だけがナンバー1を会社から追い出すすべを持っていると仮定する。追い出した場合、順位が繰り上がり、ナンバー2がナンバー1に、ナンバー3がナンバー2に、…という具合に昇格する。こうなったときも、新しいナンバー2は新しいナンバー1を追い出すすべを持つ。以下ずっと、同じ構造が続くものとする。このとき、ナンバー2になったものは、あとで自分が追い出されるくらいならナンバー1を追い出さずにナンバー2に収まったほうがいいし、そうでないなら追い出したほうがいい。この設定では、役員が10人の場合、最初のナンバー2はナンバー1を追い出すべきだろうか。ただし、10人は、全員がみごとに高い知性と推論能力を備えていると仮定する。
まあ、考えようによってはシリアスな内容だが、こんなに単純でないにせよ、会社や政治など、人間の集団にはこれと似たような環境がありがちなのではないだろうか。じっくり考えてみれば解くのはそんなに難しくないと思うので、ここではあえて解答は提示しない。(数学でよく使う、とある解法を使う)。どうしても解けなくて解答を知りたい、という人は、ぜひ『エコノミスト』誌で解答を読んで欲しい。
この問題の出典だが、もともとは塾の主任をしていたときに中学生用の試験問題に使ったものである。その後、拙著『数学でつまずくのはなぜか』講談社現代新書にも収録してある(なので、そっちで答を読んでいただいてもオッケー)。しかし、そもそもこの問題は、東大の経済学部大学院のミクロ経済学の講義にて(簡単な)演習問題として出題されたものだそうで、当時の院生から教えてもらった。だから、そういう意味では、ミクロ経済学の(というか、ゲーム理論の)問題だといっても良いものである。この問題は、とても使い勝手がいいので、あちこちで活用させていただいている。(ごっつあんです)。
- 作者: 黒川信重、小島寛之
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