赤坂ブリッツで、Tricotのワンマンライブを観てきた。

 今日は、赤坂ブリッツで、Tricot(トリコ)のワンマンライブを観た。Tricotとは、女子3人、男子1人の若いバンド。ジャンルを特定するのは難しいが、ぼくはあえてプログレに分類している(したい)(渋谷でトリコのライブを観てきますた - hiroyukikojimaの日記)。
 「奇跡のライブ」に出会う、ということは滅多にないが、今夜のTricotのライブはまさにそれだった。「奇跡のライブ」というのは、もう今夜死んでもかまわない、という気持ちと、永遠に生きてこのライブを永遠に体験し続けられればいいのに、という正反対の気持ちが交錯するようなライブだ。「奇跡のライブ」は、伝説のライブや完璧なライブとは異なる。巧い下手とか、完成度がどうのとか、ノーミスとか、そういうこととは関係がない。さらに言うなら、リスナーであるぼくの現状のありかたとバンドの現状のあり方とのトッピングの具合によって生じるものであるから、必ずしもバンドのほうでもそう思っているとは限らない。
 ぼくにとっての「奇跡のライブ」は、例えば、キングクリムゾンの浅草でのディシプリンツアーであり、レイディオヘッドの赤坂ブリッツでのライブであり、ビヨークのオーチャードホールでのライブであり、Soh-bandのシルバーエレファントのライブである。これらのライブのときは、「もうここで死んでもいい」と「この時間が永遠に続け」が交錯した。(レイディオヘッドのときは、最前ブロックでもみくちゃになったので、ほんとにこのまま死ぬかと思った・・・)。今夜のTricotのライブはそれに匹敵するものだった。
 今夜のTricotのライブがものすごかったのには、いくつかの理由があるかもしれない。一つには、アジアツアーをまわってきたため、演奏がこなれていてグルーブしていることがあるだろう。もう一つには、凱旋ワンマンだ、ということもあろう。さらには、ドラマーのkomaki♂さんの脱退が決まっているから、というのもあるのでは、と思う。いずれが誘因であるにせよ、他の誘因があるにせよ、今夜のライブは、ぼくの中で新たな「奇跡」を生み出したライブであったと思う。
 今夜の感動に一番大きい影響を与えたのは、2階の椅子席でずっと落ち着いて見られたことだ。発売してすぐに1階のスタンディングのチケットを入手したのだけど、ライブ間近になって、2階椅子席が解放になってチケットが販売されたので、迷いも無く購入した。申し訳ないが、大人なので金はある。ないのは身長と体力だ。だから、正直、スタンディングは、見えないし疲れるので厳しいのである。座って観られるなら、追加投資の価値が十分にある。おかげで、今夜は、ずっと座ったまま、4人のプレーを存分に観察することができた。特に、前回のライブ(渋谷でトリコのライブを観てきますた - hiroyukikojimaの日記)ではよく見えなかった、ドラマーのkomaki♂さんとボーカルの中嶋イッキュウさんのプレイをたーんと堪能することができた。さらには、バードウォッチング用のオペラグラスを持って行ったので、3人の女子のご尊顔をとくと拝見することができた。前回のライブで、ボーカルの中嶋イッキュウさんはいうまでもなく、ギターのキダ モティフォさんも(本人はオンナを捨ててるように語ってるものの)見ようによっては美人であると気がついてはいたが、今日はベースのヒロミ・ヒロヒロさんも、なかなかかわいらしい女性だということを確認した。(バンド・スキャンダルのような)アイドルバンドと名乗るのはアレだけど、美人バンドくらい標榜しても詐欺とまでは言われないかもしれない(笑)。
 いや、ご尊顔の話はどうでもいい、とにかく、演奏がすばらしいのだ。キダ モティフォさんのギターがやはり、めちゃめちゃすごい。バンド・赤い公園津野米咲さんが、日本のフランク・ザッパだとすれば(ギタリストとして、という意味ではなく、コンポーザーとして)、キダ モティフォさんは「日本のロバート・フリップ」だと思う(ちなみに、ロバート・フリップはキングクリムゾンのギタリスト兼コンポーザー)。ミニマルなリフといい、急にアグレッシブになったりする点でも。単音のソロをやれるようになれば、正真正銘「日本のロバート・フリップ」になっちまうと思う(本人は嬉しくないかもしれないが)。ただ、このバンドを支えているのは、キダ モティフォさんのプログレ・パンクな音楽性に、他のメンバーが様々な味付けをしているからだ。とりわけ、中嶋イッキュウさんのリリックな歌詞と胸をキュンとさせる声質は大きいと思う。プログレ+リリシズムが真骨頂なのだ。さらには、今夜は、ヒロミ・ヒロヒロのベースのすばらしさにも自覚が生じた。あのリズムを展開するには、彼女の的確でありながらアグレッシブなベースが欠かせない要素だろう。
 でもでも、今夜は、komaki♂さんのドラムであった。もともとぼくは、ツタヤのDJでこのバンドを聴いたとき、ギターとドラムのすごさで「なにこれっ」となった。komaki♂さんのような、(もちろん、少なくはないのかもしれないけど)、ああいうドラミングにはそうそう遭遇しないのだ。前回(渋谷でトリコのライブを観てきますた - hiroyukikojimaの日記)でも言ったけど、Soh-band的なドラミング、ザッパが寵愛したテリー・ボジオやビニー・カリューダやチャド・ワッカーマンのようなドラミング。komaki♂さんのドラミングにはそういうものを感じる。ガールズ・ポップなのに、そんなドラミングなのだ。これはあまりに希有だ。だから、komaki♂さんの脱退はあまりに残念である。既存曲の同じプレーをするだけなら、サポートのドラマーで出来るかもしれないけど、これまでのTricotの曲調を作り上げたのは、ある部分では、komaki♂さんの「個性」なのではないか、と思う。そういう意味では、彼の脱退は、残りのメンバーが感じているよりもずっと大きな損失になるのでは、と邪推している。もちろん、この試練を乗りこえて、Tricotには、新たなる高みの昇ってほしい。また、komaki♂さんには、是非、ジャズロックをやってもらいたい。
 今夜は、昨日再発された彼らの幻のファースト・ミニ・アルバム「爆裂トリコさん」から数曲を演奏してくれた。物販に長時間並んで買って帰って聴いたが、本当にすばらしいアルバムだ。どの曲も、個性的なみごとな曲ばかりである。このブログでも何度か語ったと思うのだけど、音楽でも、小説でも、書籍でも、マンガでも、デビュー作にそのクリエイターのすべてが出る。未来が映し出される。そういう意味で、「爆裂トリコさん」は、まさにその証明のようなアルバムになっていると思う。そんなわけで、彼らのデビュー盤の再発「爆裂トリコさん」とぼくのデビュー作の再発『無限を読みとく数学入門角川ソフィア文庫とを並べて置いてみようと思う。自画自賛だよって、思うだろうけど、そうなんすよ、今のぼくがあるのは、この本を書いたから。だから許せ。

爆裂トリコさん

爆裂トリコさん