hkonoの日記

2012-02-10

Ashraf et al. "No margin, no mission? A Field Experiment on Incentives for Pro-Social Tasks"

01:18

一昨日のLaborセミナーでのAshrafの報告。

http://isites.harvard.edu/fs/docs/icb.topic964076.files/Ashraf_NoMarginNoMission.pdf

金銭報酬を与えると内因性動機が低下してしまう、という研究が結構あるが、

じゃあ、どんな報酬だったら内因性動機を下げずにより努力を引き出せるか、

というテーマで行った、ザンビアでのフィールド実験の研究報告。


美容院では、客の多くが女性で、かつサービス中いろいろおしゃべりするので、

NGOが美容院のスタッフに女性用コンドームの販売を委託している。

そこで、その販売委託された美容院を、以下の4つのグループにランダムに振り分けた。


(1)Volunteer treatment - This group receives no incentives, financial or otherwise. The purpose of this treatment is to provide the benchmark against which effects of different incentive scheme are measured.

(2)Low powered financial treatment - This group receives a small financial reward based on monthly sales volume. The purpose of this treatment is to test the hypothesis that small amounts of money may devalue the pro-social component of the task and crowd out intrinsic motivation, particularly for socially oriented agents.

(3)High powered financial treatment - This group receives a high monetary rewards based on sales performance. The purpose of this treatment is to create strong performance incentives, akin to those observed in the private sector.

(4)Non-monetary rewards (Stars) treatment - This group receives a non-monetary reward based on performance (each sale of a pack of female condom is rewarded by a star stamped on a sign in their shop), and stylists selling more than 216 packs in a period of one year are rewarded by a ceremony at SFH headquarters.


「金銭報酬を与えると内因性動機が低下してしまう」という既存研究に対し、

「じゃあ、どんな報酬だったら内因性動機を下げずにより努力を引き出せるか」

というリサーチトピックを設定したことは「おお、なるほど」と思ったのだが、

非金銭的報酬として試しているのが、

売れた分、チャートに星のスタンプ押します、

というだけなのがちょっとがっかりした。

非金銭的報酬のTreatmentが1つだけでは、

非金銭的報酬としてどんな報酬システムが望ましいかが分からないから。

しかも、星のスタンプなんて、そんなもの、子供のご褒美じゃあるまいし、自分だったら絶対やらないような報酬設計。


しか〜し、結果を見ると、

(2)と(3)は(1)に比べて販売量に違いはないが、

(4)ではこれらの2倍くらいの販売量を達成した、

ということで、「星のスタンプ」がそんなに違いをもたらすのか???とびっくりした。

自分の事前の思い込みで判断しちゃいけないんだな。。。


で、結果をよく見ると、

周りに、同様に星のスタンプの報酬体系を受けてる美容院が多いほど、

販売量が大きくなっているので、

星のスタンプによってどれくらい売ったかが「見える化」することで、

他者との比較を誘発して効果を上げるようになったんじゃないか、

というメカニズムが見えてくる。


こんなの子供だましでしょ、と思うような報酬体系が効果を上げ、

それが「他者との比較」を通じた効果だった、

という結果は、非常に興味深いし、新鮮。

正直、これまで、Ashraf程度の研究なら自分もできる、と思ってたけど、

この研究報告(とプレゼンスキル)を見て、Ashrafすげーと思った。


研究は、とにかくアイディア。

既存研究で言われていることを、最近出てきた計量手法を使ってより厳密に実証する、という研究スタイルは、

やっぱりやってて面白くない(計量に詳しくなるので他者の発表へのコメントでドヤ顔できるとしても)。

既存研究で言われていることを、自分で新たに開発した、これまでの限界を克服する計量手法を使ってより厳密に実証する、

というのなら非常に面白いだろうけど。

前者のスタイルは、最新の研究をどんどんインプットしていけばそれなりに論文が書けてくる研究スタイル。

日本の中でなら、このスタイルでも十分それなりの研究者として扱われる。

でも、世界で考えるなら、研究者としての独自の貢献を考えるなら

(前者のスタイルなら、数年後にはその手法が標準になって、自分がやらなくてもそのうち誰かがやる可能性は非常に高い)

そんなスタイルで満足していてはいけないんだと自戒する。

もちろん、計量手法の発展をきちんと抑えて、できる限り妥当な推計量を出せるだけの知識は、最低限度のマナーとして持っておいたうえで。

nanahonanaho 2012/03/18 22:00 学部生の身からは、計量や実証で何を取り上げるにも思いつくものすべて既に研究されているような印象を受けて、そこに少し付け加えるか、なぞるか、ぐらいの選択肢しか見えていませんでした。

それ故計量や実証研究からどのように自分独自の色を出せるのか考えることがありますが、Ashrafさんの例や『研究は、とにかくアイデア』との書き込みを見ていて、余白は自分次第で作れるのかな、と少し勇気づけられました。