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人の映画評〈レビュー〉を笑うな

2010-05-09

hito_revi2010-05-09

瑞々しい映像と確かな演技で魅せる大人の恋愛映画〜『結び目』

| 17:48

 それぞれの結婚生活を淡々と送る男女が町のクリーニング店で出会う。かつて女子中学生と教師という禁断の間柄で激しい恋に落ち、あっけなく引き裂かれていたふたりの、14年ぶりの再会だった。封じ込めていたはずの彼らの熱情は、この偶然にとめどなくほとばしり出す……。

 メロドラマの典型と言っていいぐらい煽情的でありふれた設定だ。主人公たちが繰り広げる愛憎劇も激しく、通俗に陥りそうなものなのに、この作品はそれを逃れている。抑えた演出と情熱的に役に臨む役者たちのアンサンブルが終始映画に緊張感をもたらし、通俗ではなく普遍とでも言うべき、自然に「分かってしまう」感情の移ろいを見せていくのだ。

 主人公の絢子を演じるのは、劇団「黒色綺譚カナリア派」を主宰する赤澤ムック。元教師・啓介役には、やはり舞台出身で『ポチの告白』など映画でも幅広く活躍する川本淳市。啓介の妻・茜役には『愛のむきだし』の広澤草、絢子の夫の雁太郎役に『アウトレイジ』の三浦誠己と、確かな演技力を持つ若手の実力派俳優たちが揃い、エゴイスティックに、献身的に、それぞれの愛を貫くためぶつかり合う。

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©2009 アムモ

 中でも素晴らしいのは赤澤ムック。本作が映画初主演作となる、なじみの薄い女優なのだが、絢子役は彼女へのあて書きだったのかと思うほどピッタリはまっている。義父の介護に明け暮れ、息抜きと言ったらいつも同じ喫茶店でのひととき。そんな田舎町での単調な生活も、自分の意思で選び取ったものと納得して生きる芯の強さを、静かに表情だけで演じてみせる。そしてそこから一転、啓介と再会してからの常軌を逸した行動を、役にのめり込み捨て身で演じているのに目が離せなくなってしまう……。喫茶店で啓介と対峙するシーンでの暴力的な演技が凄い。物を投げ、突き飛ばし、挙句の果てには自転車で盛大にすっ転ぶ。端正な美貌も忘れたこの芝居は本当に圧巻だ。カメラのフレームの外に出てしまっても半狂乱で暴れる姿が目に浮かび、画面の中のほかの登場人物と一緒に呆然と見つめるだけだ。

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©2009 アムモ

 そして、こんなにも激しく狂おしい恋愛ドラマが展開されながら、見終えた後の印象は不思議なぐらいに爽やかなものだ。ひとつには映像の美しさのためだろう。この作品は全編デジタル一眼レフカメラの動画撮影機能で撮影されている。浅いピントで映し出された透明感ある景色は映画に気品と開放感を醸し、また物語に説得力も与えている。過去の記憶が染み付いた土地であるにもかかわらず絢子はこの町で暮らし続けているが、この美しい風景が彼女の一部だからだろう。黙々と自転車を漕ぐ絢子の姿は自然体で毅然としている。

 また、この作品は単なるラブストーリーではなく、絢子というひとりの女性の成長記ともなっている。小沼雄一監督の前作『童貞放浪記』を思い出したが、ちょうど設定的には裏返しで、対をなすような作品と言っていいだろう。

 恋愛と無縁の青春を送ってしまった東大出の男が、三十にして童貞を捨てるために奮起する……という『童貞放浪記』は、エロティックなコメディかと思いきや、人との交わりを求める孤独な道程を描いた切ない青春ストーリーの快作だった。一方『結び目』は、早熟にも十代で大人の恋愛に足を踏み入れたものの、そのまま時を止めたように成熟せず人生を歩んでしまった女性が、やはり三十を前にして殻を破り、青春に貪りつくというもの。際どいテーマのようでありながら、大事なものを見失ったまま歳を取ってしまったことに気付いたときの焦りと、それに立ち向かう勇気とを描いた、現代の大人のための青春映画なのだ。

D


◆小沼雄一 監督作

映画「結び目」

6月26日(土)よりシアター・イメージフォーラムにてモーニングイブニングショー!!

http://musubime.amumo.jp/

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