『ふゆの獣』初日舞台挨拶レポート

『ふゆの獣』初日舞台挨拶


昨年の東京フィルメックスで自主映画ながら最優秀作品賞を受賞した『ふゆの獣』が、7月2日、テアトル新宿にてレイトショー公開されました。上映前には舞台挨拶が行われ、加藤めぐみさん、佐藤博行さん、高木公介さん、前川桃子さんのキャスト全4人と内田伸輝監督が登壇しました。


左から 加藤めぐみさん、佐藤博行さん、高木公介さん、前川桃子さん、内田伸輝監督

これまでの作品『えてがみ』、『かざあな』も数々の映画祭で受賞を重ね、映像作家としての力量にはすでに定評のある内田監督ですが、劇場公開は『ふゆの獣』が初めて。初日を盛況で迎えられ、とても感激した様子で「今日は本当にありがとうございます。『ふゆの獣』がこのテアトル新宿を始めとしてどんどん世の中に広まっていくことを僕自身願っております」とまずは挨拶されました。


内田伸輝監督
『ふゆの獣』は表現力に優れた作品ながら、製作費110万円という低予算で作られたということが驚きをもたらし話題ともなっています。このことについてまず尋ねられると、内田監督は「自主映画なので、そのとき必要なおカネを集めて撮って後から計算してみたら110万円だったということです。最初から110万円でやろうだとかそう言ったことを考えて撮っていたわけではないですし、他の方が自主映画をどれぐらいの予算で撮っているのか分からないので、教えてください(笑)」と答えました。製作費については特に意識したり、ましてそれを制約と感じたりすることはなく、あくまでも自由に作った結果だということなのですね。
また、この作品の特徴は、脚本がなく芝居を役者の即興に任せているということ。独特な撮影方法についても内田監督は語ります。「プロットはできていまして、大まかなストーリーとキーになる台詞はあるんですが、それ以外は役者さんに自由に即興で演技してもらい、僕も即興で撮影をしていきました。キャラクターの背景と言うかバックボーンも役者さんには伝えていましたが、リハーサルは全然やらず、集まってちょっと打合せをして、じゃあ本番ということでワンシーンワンカットで撮っていきました。基本的に撮影はDVテープ60分、一気に長回しで撮るんですけど、1回撮って修正とか入れてまた60分長回し、というやり方でした」。


次にキャストひとりひとりからお話を伺います。まずはユカコ役の加藤めぐみさん。プリントのワンピースに赤いパンプスという夏の装いで、映画とは違うリラックスした笑顔が素敵です。「自分たちのような自主映画が劇場公開されて、何と言ったらいいか分からないほど嬉しいです」とまずは噛みしめるように喜びを語りました。

加藤めぐみさん
劇団「零式」を旗揚げし、看板女優として活躍する演技派の加藤さんですが、この作品での即興芝居はかなり刺激的な体験だった模様。「元々演劇をやっていたのですが、アドリブ自体は苦手で、今回全部アドリブだったのでどうしようって(笑)。ユカコは私の持っていない性格をたくさん持っている役でしたので、ギャップを埋めるために4ヶ月間かけて役作りをしていきました。そんなに役作りをして臨んだはずなのに、本番でカメラが回ると我を忘れてここがどこだかも全然分からなくなって、内田さんがカメラを回しているのに気付いて『あっ、これは映画だ』みたいな。そういう経験をしたのは初めてでした」。のめり込んだ圧倒的な演技は、ぜひ映画で確かめてください。


佐藤博行さんが演じたのは、浮気をして恋人のユカコを苦しめるシゲヒサ役。「シゲヒサは酷い男だと言われることが多いんですけど、今の世の中と言うか社会的なものの中から生まれてきたような人間だなという気がしていて、こんな男は結構どこにでもいるんじゃないのかなと。観てご判断いただきたいなと思います」。

佐藤博行さん
確かにシゲヒサの人間臭さは万国共通で通じるものがあったようです。『ふゆの獣』はロッテルダム国際映画祭に出品され、上映された4回全てがソールドアウトとなる好評ぶりだったのですが、その際のこんなエピソードを披露してくれました。「上映が終わってロッテルダムの街を歩いていたら、後ろから『ヘイ、バッド・ボーイ!』って呼び止められて。向こうの人は背も高いし、『カツアゲだ、ヤバイ!』と振り向いたら『『ふゆの獣』すごくよかったよ〜。お前バッド・ボーイだな!』と、映画を観てくれたお客さんでした(笑)。結局20人ぐらいの方に声をかけられましたね」。
陸上自衛隊に在籍していたことがあるという経歴も披露し、意外と(?)マッチョな佐藤さん。役柄の幅を広げての活躍に期待したいです。


ちょっとミステリアスなシゲヒサとは対照的に、少年のように素直なノボル役を演じた高木公介さん。ご本人もなかなか向こう見ずに突っ走る性格のようです。『ふゆの獣』は女性二人は監督ご自身がキャスティングし、男性キャストはミクシィで募ったのですが、高木さんが募集を知ったのは期限を過ぎた後だったとのこと。「内田さんの作品にどうしても出たい!と思い、人生で初めてじゃないかというぐらいのとても長いメールを書いて、『どうにか受けさせてほしい』という思いを伝えたんです。その熱意が受け止めてもらえたと思っています」と熱く語りましたが、内田監督は「そうですね、(メール)長かったですね。何言ってるのか分からないところもありましたけど」と(笑)。

高木公介さん
また、片想いの辛い心理を追求するための役作りのエピソードも披露してくれました。「前川さん演じるサエコに想いを寄せる役だったので、撮影前に前川さんと仲良くなろうとしてメールをしたりしたんですが、誘っては断られ、前川さんの画像を待受けにすれば、それもキモがられ。そんな感じで自分なりに役作りはしていました」と。笑わせてくれながらも、観客への前向きなメッセージも心に残りました。「僕はいろいろ欠点は多い男ですけど、自分が大好きです。この主人公4人もダメなところはありつつとても可愛らしいので、それを見た上で自分も好きになっていただけたらと思います。そしたら少しハッピーになって帰れるんじゃないかと思います」。


そんなつれないサエコを演じた前川桃子さん。壇上でも小さくて笑顔がキュートですが、鮮やかなオレンジのトップスと黒のロングスカートというスタイリングに情熱的で芯の強い内面が表れるようでした。「サエコ役は、毎日を楽しく生きている女の子にしたいなと思って演じていました。恋愛面では彼女がいる男の人を好きになってしまい、浮気相手というのは理解していても自分が好きだという気持ちを信じて突っ走ってしまう女の子で、やっていてつらかったです……(苦笑)。監督からは細かい演技の指示は受けなかったんですけど、緊張感と爆発力を出すようにと言われまして、とても抽象的でどうしたらいいんだろうって。緊張感は4人で何とか作り出せたらいいなと思い、爆発力というのは浮気相手という辛い気持をどんどん重ねていって、集まったときに出せたらいいなと思っていました」。

前川桃子さん
また、『ふゆの獣』ではキャストたち自らがチラシ配りなどの宣伝活動を行っているのがツイッターで報告され、本当に全てを自分たちで作り上げているんだなあということを感じさせてくれます。京都出身の前川さんは、京都に宣伝に行ってきたそう。「1週間ぐらい前に京都に行って、上映が決まっている京都シネマさんにご挨拶してきました。これからどんどんこの映画を盛り上げて行けたらいいなと思っています」と、とても意欲的でした。


内田監督も、「今日が本当にスタートです。観てくださっていいなと思ってくれたら、100人ぐらい劇場に連れてきてもらえたら本当にありがたいです。ネットなどでも感想を書いてくださって広めていただけたら嬉しいです」と再度呼びかけ、最後は全員の地声での「どうぞよろしくお願いします!」という挨拶で締め括られました。


★and more……★
・『ふゆの獣』の公開を記念して、内田伸輝監督の旧作『えてがみ』『かざあな』の特別上映が行われます。これまで映画祭やイベントでしか観られなかった作品が劇場で初公開。お見逃しなく!<東京> K's cinema 7/23(土)−7/29(金)<名古屋> シネマスコーレ 7/19(水)−7/22(金)<京都> 京都みなみ会館 8/2(火)−8/7(日)
「内田伸輝監督特集『えてがみ』『かざあな』特別上映」公式サイト


・INTROに内田伸輝監督のインタビューが掲載されています。即興の演出方法などについてより詳しくお話いただいていますのでぜひお読みください。
INTRO|内田伸輝監督インタビュー:映画『ふゆの獣』について【1/2】【2/2】


『ふゆの獣』 Love Addiction 2010年/日本/カラー/ステレオ/92分
監督・編集・構成&プロット・撮影・音響効果:内田伸輝
制作・撮影・スチール・ピアノ演奏:斎藤文
出演:加藤めぐみ 佐藤博行 高木公介 前川桃子
製作:映像工房NOBU
配給:マコトヤ
©映像工房NOBU
公式サイト
2011年7月2日(土)より緊急レイトショー! テアトル新宿 他順次全国