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なかむらひとし云々 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-04-20

飲食店の価値は「効率の悪さ」にある。

効率最優先の世の中です。スピード至上主義。早くてナンボ。遅かったら、まず競争の土俵にすら乗れない。

特にIT系の世界はそうですよね。いかに効率化しスピードを上げるかは、彼らの世界では最も大切な要素の一つです。かくいう僕も、スピードマニアなところは多分にありまして、例えばケータイもボタンを押した瞬間に反応してくれなければ、すぐに投げ捨てて機種変します。ウェブサイトも、ページにアクセスしてから開くまでに5秒かかったら、もう見ません。

そういう僕が、この業界で仕事をしてきて気づいたこと。それは、

飲食業界においては、効率が悪いことが付加価値になる。

ってことです。

美味しいお料理を作ることは、まさに効率の悪さの追求みたいな側面があります。こだわったお料理を提供するためには、素材選びにも、調理にも、盛りつけにも、そしてサービスにも徹底して手間と時間をかけなければなりません。面倒がって食材をテキトーに選び、手抜き調理で、まるで自動販売機のようにぞんざいにお料理を提供するようなお店で、お客さまが喜んでお金を使ってくれるでしょうか。ただ手軽に早くお料理が出てくるからと言って、それだけでお客様が喜ぶでしょうか。

こう書けば、誰でも「そんなの当たり前でしょ?お料理だもん、手間をかけた方が良いに決まってるよね」と答えることでしょう。

しかし、よく周りを見回してみてください。これまでの飲食業界で最も成功/成長してきたのは、ファストフードやファミレス、そしてFCです。彼らの手法は、まさに効率追求そのものではないでしょうか。仕入れから調理、サービスに至るまで、標準化とコストダウンとスピードアップと省力化に重点を置く、大量生産&大量消費型アプローチ。これは他の製造業と同じ発想であり、そこには「食文化」とか「豊かさ」という考え方が介在する余地はありません。敢えて言ってしまえば、そこで提供されるお食事はすでにお食事ではなく、エサでしかありません。

高級店や老舗と言われるお店に行くと、注文してからお料理が出てくるまでに、一時間待たされることも珍しくありません。秒単位で提供スピードを競うマクドナルドとは、全く正反対です。そしてお客様は、そのお店でファストフードの数十倍もの金額を嬉々として支払うのです。なぜかといえば、それは「時間がかかる=注文を受けてから、一つ一つ丁寧に作っている」ということをよく分かっているから。お客様は、時間の長さと言うより、それだけの時間をかけてお料理を作る「手間」にお金を払ってくれているのです。もちろんサービスだってそうです。マニュアルで手際よくこなすような接客ではなく、一人一人のお客様を丁寧にお持てなしする。そこに価値が生まれるのです。

そう。豊かさとは、贅沢とは、まさに「効率の悪さ」にあるのですよ。ゆっくりお食事を楽しめるということは、それだけ生活に余裕がある証拠です。食事に二時間もかけるのは、人間だけ。動物は、ほんの数十秒で終わりです。だから、私たちが目指すお店とは、まさにその「効率の悪さ」の価値を知り、それを大切にするお店でなければなりません。でなければ、お客様は人間ではなくブロイラーと同じになってしまいます。


もちろん、事業である以上、「効率化」が必要なところもたくさんあります。何でもかんでも非効率が正しいわけではありません。全てが非効率になってしまったら、お客様を感動させる価値は提供できません。そこで私たちは、効率を「上げる」ことが大切なところと、効率を「落とす」ことが大切な仕事とを明確に見極めて、仕事を作り上げていかなければなりません。では、それはどう見分けたらいいのでしょうか。例を挙げて考えてみます。

【効率を落とす(手間をかける)べきところ】

  • 食材選び
  • 調理
  • 盛りつけ
  • ご挨拶からお見送りまで、おもてなし全般
  • 気遣い、あるいは雰囲気作りや物語作り
  • 教育や研修

【効率を上げるべきところ】

  • 管理系業務全般(食材仕入れと管理・無駄のでないメニュー・シフト計画・備品管理など)
  • 店舗の動線設計
  • 仕事のしやすい厨房レイアウト
  • 仕込み
  • 手際の良いオーダーエントリーやディッシュアップ
  • お掃除やバッシング、食器洗浄

まだまだ、それぞれに該当する仕事はたくさんありますが、このリストから見えてくるのは、お客様に直接関わる「表の仕事」は効率を落とし、お客様と直接関わらない「裏方の仕事」は効率を上げるということです。

お客様が召し上がるお料理そのものには徹底的に手間をかけるけれど、その食材をどう仕入れてどう管理するかは徹底的に合理化し、手間をかけずに行う。

お客様ご来店の際には時間をかけて丁寧にご挨拶するが、お客様がお帰りになったら、一秒でも早く片付けて次に備える。

お客様からご注文を受けたドリンクをスピーディにテキパキと作り、お客様の前ではゆっくり丁寧にお出しする。

分かりやすいイメージで言うと、

お客様の前ではゆったりと優雅に振る舞い、お客様から見えなくなったら全速力で走る!

という感じでしょうか。


ただ、僕の今までの経験から言うと、効率化を考えるヤツは何でもかんでも効率化しようとするし、逆に手間をかけようとするヤツは、裏方のどうでもいい仕事までバカ丁寧にやる傾向にあります。前者はお食事をエサ化しちゃうし、後者はイライラする店を作ってしまう。

この両方を、全員がきちんと意識して、戦略的に「効率の悪さ」を使いこなせるようなお店を作りたいものです。そして、効率最優先の世の中だからこそ、非効率の贅沢さを楽しめるような豊かさを大切にしたいものです。

くにくに 2008/04/22 01:31 最近感じていたことなので、非常に共感しています。

考えてみれば、ホテルなんかはとてもいい例で、優雅であくまでも雰囲気や空気を大事にしていて、お客さまもその贅沢さという無形のサービスに高いお金を払うわけで・・・
コンシェルジュがパソコンを使っていろいろ調べてくれるのと、自由に使えるパソコンが置いてあるのでは、どちらに多くお金を払えるのかといった感じでしょうか?

お店のサービスでも、効率化を計ったマニュアル通りの会話・サービスというのはすぐに見抜かれてしまう気がします。せいぜい「良く教育が行き届いている店だな〜」と思われるだけでしょう。しかもマニュアル通りの会話というのは、何か絶対に超えられない変な「距離感」を感じる気がします。
非常に難しいことですが、その瞬間にお客さまとの関係に一歩でも半歩でも踏み込み、親しみを感じてもらえるような会話・サービスをするというのが、「非効率の贅沢さ」につながると思います。
そのための余裕をもつために、他の作業をいかに効率良くこなしていくかということを考えてみたいと思います。

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