大漁、異漁。

十代をすぎても心を隠す私のような人間は、大人の形に見えるだけの羽化できないサナギのようなものなのかもしれない。    遠野りりこ『マンゴスチンの恋人』

18-8-7-火

[][]ド変態がすべてを呑む。 01:05

せまい。 (バンブーコミックス Qpaコレクション)

清潔な絵でがっつりエロい。そういうリアルもある。

碗島子『せまい。 (バンブーコミックス Qpaコレクション)』。売れっ子漫才師を目指す「せまい。」の二人、ヨイと塩。ネタ合わせは公園でするけれど、かならず見に来るあやしいおとこ。

ヨイは芸人の強心臓だから、そいつにチケット手売りするし、「お前を見に来た」と言われたら早とちりして性的関係を受け容れてしまう。

この不自然な成り行きがギャグとなりホラーとなって楽しませてくれる。

おとこは何者なのか。ヨイと塩のあいだに恋愛感情はあったのか。そういう、お話として埋めなければいけない部分をどれだけきっちり仕事していくか。

おやしいおとこにヨイは掘られる。それでけっこうかんたんに情が移ってしまっているのが不気味に生ま生ましくて好い。フィクションにかぎらず、ひとは、円満な人格である必要はない。

ヨイと塩は高校時代からの付きあいで、そこには性愛未満の親密さが多分にあった。粘着。共依存。なんの教訓もなくそれらを物語に組みこめるつよさ。

恋人より相方のほうが

確実にずっと一緒にいられる

強固な関係性だと

思ってた…けど…


「せまい。」の先輩芸人をえがいた「マキフナキ」は、「せまい。」以上にやばい。


「ホントの夫婦にはなれないけど夫婦のコントは出来る〜」という台詞にBL的な関係性の業と快味を見た。

18-8-6-月

[][]〈ニシン漁の最盛期を懐かしむ老人のように遠い目をするおにぎり。彼もまた北海道出身である〉 21:46

一発屋芸人列伝

芸人のツッコミよろしく比喩が多く、有り物でキメてくるところは、水道橋博士に近いかもしれない。若き日の古舘伊知郎のような造語の掛け算はすくない。

山田ルイ53世髭男爵)『一発屋芸人列伝』。挙げられるのはレイザーラモンHGコウメ太夫テツandトモジョイマンムーディ勝山天津・木村、波田陽区ハローケイスケとにかく明るい安村キンタロー。髭男爵

知らなかった話いっぱい。一発屋をあつめた一発会についてHGが〈「一発屋と呼ばれる人達は、“キャラ芸人”が多い。キャラに入り込むタイプの人間は、社交が苦手で、孤立する人が実は結構いる。だから、『一緒にやろうや』と」〉。

HG以前とHG以後で一発屋芸人の世界は、只の化石博物館から“ジュラシックパーク”へと変貌を遂げたのである。


章立ては絶妙。レイザーラモンHGで読者に安全を保証しておいて、コウメ太夫が来る。〈一発屋界の奇人である〉──山田ルイ53世が時折放つ硬質な断定は、いい。

「コウメさんのメールは、平仮名と片仮名だけ……漢字が使われていない」

例えば、後輩を食事に誘う際は、

「ごはんいける」

「よじ おぎくぼ おわる むかう おまえ しちじ」


どの芸人の話もいいが、消息を追わなくなっていたジョイマン波田陽区ハローケイスケは好かった。

ジョイマンエゴサーチ。消えた、死んだというツイートに対してリプライをしていく。

「夜中、深夜を過ぎた頃でした……お酒も少し入っていたかもしれない」

まるで怪談話でも始めるように、声を潜める高木。

「何日も仕事が無くて暇で、家で悶々としている時、ツイッターをいじくりまわしていたんです」

そんな時、自分を「行方不明」「死人」扱いするつぶやきを発見し、一線を越えた。

「実際、本人から返事が来たらビックリするだろうな……そんな風にワクワクしながら、その人の後ろから『ここにいるよ!』っていうイメージで……」


波田陽区、〈特筆すべきは、“ギター侍”があくまで波田のオリジナルであり、彼の登場以降、『エンタ』には、ネタのフォーマットが波田に酷似したピン芸人が溢れかえったという事実〉。

現在の軸足福岡だという。波田より先に福岡で仕事を開拓したワタナベエンタの芸人としてパラシュート部隊やゴリけんのことが書かれている。ゴリけんは『おはスタ』の「おはスタ番長」にでてたよね、松風雅也、渋谷謙人と。


ハローケイスケの真面目さがたまらなく愛しい。

芸歴的にはベテランの域に差し掛かりながら、ハローは現状、お笑いでは飯が食えていないのである。

「毎日心がボキボキ折れる音が聴こえる」

その心情を率直に吐露する彼だが、それでも芸人を辞めようとはしない。

「自己紹介の時は、『芸人です』じゃなく『芸人目指してます!』と言うようにしてる」

と語る通り、ハローはこの線引きに異常に拘る男である。インタビュー開始時、紙媒体の取材にもかかわらず衣装を着込んだ彼に、

「流石、“プロ”ですね!」

と編集氏が軽口を叩くと、

「いや、食えてないんで!」

と即座に釘を刺していた……恐らくは自分自身に。

「勘違いしてると思われるのが嫌。芸人で生活出来てないので、プロじゃない」

つらい。まわりの証言には。

「昔から『本当に才能のあるヤツ』、『カリカ(現在は解散)か、ケイスケか』と言われていた」

いまのハローケイスケ創作落語に興味があり、古典を勉強したいのだけれど、生活を支えるスロットで忙しく、手がでないと。

しかし、だ。

つぎの大河ドラマビートたけし古今亭志ん生を演り、その前後に落語ブームが来るのではという見立てもある。脚本は、『タイガー&ドラゴン』の宮藤官九郎

18-8-5-日

[][]おどろきのいまどき 20:13

竹内涼真写真集「Ryoma Takeuchi」

池袋竹内涼真写真展、入場できそうな空気だったらチャレンジしようとおもっていたが(グッズが欲しい)、とてもそんなかんじではない。

「会員制」だった。

それでも未練はのこり、大阪に遠征しようかと悶悶。

[]〈かつての絶対王者が自ら破滅していく姿をみんなが見て見ぬふりをした〉 20:13

チュベローズで待ってる AGE22 チュベローズで待ってる AGE32 加藤シゲアキ『チュベローズで待ってる』。2巻本。上巻は主人公22歳、雑誌に連載。下巻は10年の月日が経過、書き下ろし。上巻と下巻で毛色がちがうので、映画ならば2本つくるというような。

つぎからつぎへと事件が起こる。つながりはあまりない。この雑駁さに長編小説らしさを見ることもできる。執筆にまとまった時間を充てられず、短編を積みかさねていったのだと推測することも。

作詞家の書いたショートショートを連想した。球種が多い。加藤シゲアキの短編集や処女長編への興味が湧く。

亜夢は学年でいうと僕よりふたつ下で、九月に成人したばかりだった。あどけなさの残るその相貌は見ていて飽きなかった。発想や表現も独特で、話しているといつの間にか疲れが取れていたなんてことも少なくない。

今に満足しているわけじゃない。けれど今いる場所がどんどん心地よくなっている。

学生たちのはしゃぐ声を聞きながらタバコの煙を吸い込むと、自分の時間だけが止まっているような感覚になる。

地声のような率直さで書かれているとかんじるところがいくつもある。

そのIDは昨日までのものとは違うが、あまり違和感はなく、今日という日も今までとそれほど変わらない。似たような一日だった。

もしかしたらあれが最後の「幸せ」だったのかもしれない。


「で、ホストになってみて、君が知りたかったことはわかったのかね」

茶化すように僕は尋ね、コーヒーの入ったカップを彼に渡した。

「いや、全くっすね。やればやるほどわかんなくなっちゃいました」

上巻では「僕」のよこに亜夢。下巻ではユースケそばにいる。ホストの世界の後輩だ。そういう部分を打ちだせば、バディとか、絆といった読みも可能になってくるけれど、書き手の資質だろう、ソロの匂いのほうがつよい。「僕」はまわりの人物を観察、批評するが、ユースケは〈わかんなくなっちゃいました〉だし、〈亜夢は昔から、ものごとをまっすぐ見すぎないことに長けていた〉。そういういくらか戦略的なぼんやりした鈍さ、あるいは不まじめな態度。これを主人公がもてば、またべつのおもしろい小説になるだろう。

彼の瞳に滲む攻撃性はあまりに純粋で、気を抜くと吸い込まれてしまいそうなほどだった。

「すんません、ちょっと眠くなったんで」

そう言ってタバコを消し、テーブルに突っ伏してユースケは寝てしまった。まるでテーブルに甘えるような姿勢で、彼の寝顔は幼かった。

18-8-4-土

[][][][]愛之助、しゃべりのリズムが抜群。愛しい。 13:44

片岡愛之助麻布十番。『裸の少年』、那須雄登、藤井直樹、岩崎大昇。

悩んでも悩みごとって、解決しないから「悩みごと」じゃない?

そこにずうっとこう、執着してても、ものごともまったく進まないから、これは仕方がないと。

おもって、つぎへ、つぎのステップへ行ってると、意外とここにこれ(悩みごと)の鍵が落ちてたりするから。

「こういうことだったのか!」ていうことで、この鍵が開き、悩みも解決

と、片岡愛之助笑顔でナビ。小雨をかんじさせぬ。

浪花家総本店のやきそば(揚げ玉は、近所のおそば屋さんのもの。えび天の風味があるわけだ)。

楽万コロッケ店で愛之助は「和牛たっぷり特上コロッケ」(和牛ずきの伏線でもある)、那須雄登「ずわい蟹のプレミアムクリームコロッケ」、藤井直樹「肉巻き楽万小メンチ」、岩崎大昇「蓮根と筍の和風コロッケ」。

コロッケを頬張って「サクサク!」と言うだけで美味しそうだから片岡愛之助すごい。

岩崎大昇「筍の香りがふわあっと来て、まさに筍から竹藪に変わる瞬間が……」に、愛之助「ちょっとよくわからない食レポでしょ?」と、店長さんに振る辺り、回しが上手いなあとおもう。

お好み焼鉄板焼 京都 よっちゃん。「京都九条ねぎ焼き よっちゃんスペシャル」。野菜も魚介も盛りだくさんで、岩崎が「海に来たんだか山に来たんだか……」、愛之助「おかあさんパニックですよ。美味過ぎて」、おかあさん「あかんでパニックになったら」。


串揚げ。那須雄登が「ぼく、一人でよく行くんすよ」。

ここは未体験だろうか。六覺燈の高級串揚げ。