大漁、異漁。

十代をすぎても心を隠す私のような人間は、大人の形に見えるだけの羽化できないサナギのようなものなのかもしれない。    遠野りりこ『マンゴスチンの恋人』

12-3-21-水 ガクブル。学ランを着たロシアンブルー

hiyakkoikiton2012-03-21

男子校という選択 (日経プレミアシリーズ) 猫も寝てはならぬ (ワイドKC モーニング) 『ナニワ金融道』は、オトコばかりの、ボーイズ・ウィル・ビー・ボーイズラブだ。

[][][]〈何気なく本を裏返し、値段を見た。笑いはさっと引っ込んだ。八千二百円。生涯、手に入れられないような金額に思えた〉 18:31

ららら科學の子 (文春文庫)

矢作俊彦ららら科學の子 (文春文庫)』。覚えている電話番号は三つ。〈三つ目は古い友人だった。地元の小学校から同じ私立の付属中学に上がり、大学まで一緒に進んだ。三十年前、最後に別れを告げたのも彼だった。二人とも二十歳になっていなかった〉

三十年ぶりの電話の向こうには、友人の姉。連絡先を教わる。〈ペンを出し、左手の甲に書き留めた。番号は十一桁で、市内局番は0から始まっていた。

「09の後はですか?」

「ええ、携帯電話ですから。ただ、今も通じますかどうか」

小説は、図像をじわじわと浮かびあがらせることもできる。福州からの密航だが、〈何より彼は日本語を話せた。それがまだ十分通用するのは今、証明された。話せるも何も、彼は日本人だ。何ひとつおろおろすることはなかった〉。土地勘あり、五十男だけれども足も丈夫。しかし記憶はすぐに書き換えられる。〈半キロほどの道のりに、交通会館を東映本社を西銀座デパートを、しまいにソニービル阪急デパートを見つけ出すと、点が次々と面を侵し、彼の裡で現在が過去をあっと言う間に覆い尽くしてしまった。

昔からこんなものだったのではないか。昨日、ここを歩いたような気もする

だらだらと感傷的な小説が多いなか、やっぱり矢作俊彦の小説はサービス精神もあるし巧い。みっしりしていてしかも速度があることは、罪じゃなかろう。

渋谷

長い髪の毛を金色に染め、耳に金属の輪を打ち込んだ青年が目の前にしゃがんでいた。ピアスは、テレビで知っていた。上海では、している娘も多いということだった。日本でなら、している男がいて不思議はなかった。しかし、金髪でピアスをしたその男は、『東京大学教養学部』と書かれた履修要項を開き、鉛筆で何か書き込んでいた。めくり上げたTシャツの腕には人魚刺青があった。

後ろから来た若い男がふたり、ぶつかりそうになって舌打ちをくれた。彼を睨(ね)めすえた。ひとりは金色に、もう一人は紫色に髪を染めていた。紫の方は唇も紫に塗っていた。目にも化粧していた。寺山修司の芝居みたいだと、彼は思った。

「何か用かよ。オヤジ」と、金髪がすごんだ。

「気をつけろよ」と言い残し、二人は今やって来た方向へ急ぎ足で歩き去った。

振り向くと、傑(ジェイ)が背後で遠ざかる二人を睨んでいた。

「オヤジっていうのは、最近の流行語なの?」と、彼は尋ねた。

「流行語っていうことはない。普通に使う言葉ですよ。まあ、良い意味じゃない」

道行く者は、どの顔も化粧したように白かった。表情のひとつひとつが読み取れた。

「俺は、とりあえずビールを」

傑が言い、店員がいなくなってから、

「とりあえずなんですよ。こいうところで飲むビールは、必ずね」と、おかしそうに笑った。

「レーシュって何?」小声で尋ねた。

「冷蔵庫で冷やして飲む日本酒ですよ。──知らないんですか? 最近の流行りかな」

高いばかりでやせ細ったビルは、街を大きくしているのではなく、ただ空を狭くしているだけだった。

立ち止まらせたのは、電信柱にさがった厚紙のポスターだった。

加山雄三ディナーショー”。タキシードを着た男がマイクを握っていた。頬がたるみ、喉に皺が目立った。目より目尻で笑っていた。

〈この国では右も左も誰も彼も、目的を最優先してはばからない。その目的はただ勝つことだ〉、あるいは〈あのころは、日本中が不動産屋だった〉──そういう小説。