大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

〈ニシン漁の最盛期を懐かしむ老人のように遠い目をするおにぎり。彼もまた北海道出身である〉

一発屋芸人列伝
芸人のツッコミよろしく比喩が多く、有り物でキメてくるところは、水道橋博士に近いかもしれない。若き日の古舘伊知郎のような造語の掛け算はすくない。
山田ルイ53世髭男爵)『一発屋芸人列伝』。挙げられるのはレイザーラモンHGコウメ太夫テツandトモ、ジョイマン、ムーディ勝山と天津・木村、波田陽区ハローケイスケとにかく明るい安村キンタロー。髭男爵
知らなかった話いっぱい。一発屋をあつめた一発会についてHGが〈「一発屋と呼ばれる人達は、“キャラ芸人”が多い。キャラに入り込むタイプの人間は、社交が苦手で、孤立する人が実は結構いる。だから、『一緒にやろうや』と」〉。

HG以前とHG以後で一発屋芸人の世界は、只の化石博物館から“ジュラシックパーク”へと変貌を遂げたのである。


章立ては絶妙。レイザーラモンHGで読者に安全を保証しておいて、コウメ太夫が来る。〈一発屋界の奇人である〉──山田ルイ53世が時折放つ硬質な断定は、いい。

「コウメさんのメールは、平仮名と片仮名だけ……漢字が使われていない」
例えば、後輩を食事に誘う際は、
「ごはんいける」
「よじ おぎくぼ おわる むかう おまえ しちじ」


どの芸人の話もいいが、消息を追わなくなっていたジョイマン、波田陽区ハローケイスケは好かった。
ジョイマンのエゴサーチ。消えた、死んだというツイートに対してリプライをしていく。

「夜中、深夜を過ぎた頃でした……お酒も少し入っていたかもしれない」
まるで怪談話でも始めるように、声を潜める高木。
「何日も仕事が無くて暇で、家で悶々としている時、ツイッターをいじくりまわしていたんです」
そんな時、自分を「行方不明」「死人」扱いするつぶやきを発見し、一線を越えた。
「実際、本人から返事が来たらビックリするだろうな……そんな風にワクワクしながら、その人の後ろから『ここにいるよ!』っていうイメージで……」


波田陽区、〈特筆すべきは、“ギター侍”があくまで波田のオリジナルであり、彼の登場以降、『エンタ』には、ネタのフォーマットが波田に酷似したピン芸人が溢れかえったという事実〉。
現在の軸足は福岡だという。波田より先に福岡で仕事を開拓したワタナベエンタの芸人としてパラシュート部隊やゴリけんのことが書かれている。ゴリけんは『おはスタ』の「おはスタ番長」にでてたよね、松風雅也、渋谷謙人と。


ハローケイスケの真面目さがたまらなく愛しい。

芸歴的にはベテランの域に差し掛かりながら、ハローは現状、お笑いでは飯が食えていないのである。
「毎日心がボキボキ折れる音が聴こえる」
その心情を率直に吐露する彼だが、それでも芸人を辞めようとはしない。

「自己紹介の時は、『芸人です』じゃなく『芸人目指してます!』と言うようにしてる」
と語る通り、ハローはこの線引きに異常に拘る男である。インタビュー開始時、紙媒体の取材にもかかわらず衣装を着込んだ彼に、
「流石、“プロ”ですね!」
と編集氏が軽口を叩くと、
「いや、食えてないんで!」
と即座に釘を刺していた……恐らくは自分自身に。
「勘違いしてると思われるのが嫌。芸人で生活出来てないので、プロじゃない」

つらい。まわりの証言には。

「昔から『本当に才能のあるヤツ』、『カリカ(現在は解散)か、ケイスケか』と言われていた」

いまのハローケイスケ創作落語に興味があり、古典を勉強したいのだけれど、生活を支えるスロットで忙しく、手がでないと。
しかし、だ。
つぎの大河ドラマビートたけし古今亭志ん生を演り、その前後に落語ブームが来るのではという見立てもある。脚本は、『タイガー&ドラゴン』の宮藤官九郎