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加藤文元『数学する精神』(中公新書、2007年9月)読了

 専門の勉強をせずに、逃避しております。

数学する精神―正しさの創造、美しさの発見 (中公新書 1912)

数学する精神―正しさの創造、美しさの発見 (中公新書 1912)

 高校時代、数学はなにしろ苦手だった。共通一次試験(あのころはそういうのがあったのだ)の数学で、時間の半分を過ぎてもほとんど白紙の答案用紙(というかマークシート)を前にして、あたまから背中へと冷たいものが降りていき、5分ほど記憶が飛んだ・・・。でも、一方で数学の啓蒙書のたぐいはけっこう読んでいたんだから不思議だ。矢野健太郎とか、ブルーバックスとか(たとえばコンスタンス・レイド『ゼロから無限へ』)、おもしろがって読んでいた。おそらく、「数学」というカテゴリーではなく、「不思議なもの」ジャンルという意識で選んでいたのだろうと思う。対して教室での数学はちっとも「不思議」と感じられなかった(もちろん、ひとえにこちらの能力の問題なのだが)。教科書の数学は、少し遠くにぼんやりかすんで浮かんでいて、手が届きそうで、結局は目の前に引っ張ってこれなかった(その努力もしなかった)。
 でも、文系かつ数学啓蒙書好き、という人ってけっこういるんじゃないかとも思うのだが、どうだろう。その層にうまく届いたのが、小川洋子の『博士の愛した数式』だったのではないかしら。この『数学する精神』も、数学の「不思議」をうまくすくいとって示してくれる。著者によれば、「一般向けにわかりやすく数学を解説した本」ではなく「『数学そのもの』についての本」なのだ、と。これは前回のメモとも関連するのだが、一見関係なさそうな場面に同じものがひょっこりと顔を出す、そのことで異質に見えるものがどんどんと「つながって」いく、そのおもしろさを上手に見せてくれるのだ。まるで、テキ屋の口上のように、手際よく、スピーディに(と思っていたら、あとがきに、この本は1週間ほどで書き上げた、とあった)。二項展開、無限級数の和、実数論、集合論、公理系、ときて、なかなかおもしろいと思っていると、パスカルの三角形が出てきて、二項定理が出てきて、あれよというまに各項目がつながっていく(これじゃなんだかわからないね)。一気に読みました。