ホンダヨンダメモ(はてなダイアリー版)

はてなダイアリーから移行。元は読書メモ、今はツイッターのログ置き場。

アダム・ラップ『きみといつか行く楽園』(徳間書店、2008年5月)

 原書タイトルはLittle Chicago(2002)。著者のアダム・ラップは1968年にシカゴで生まれる。劇作家、小説家であり、映画監督や音楽なども手がけているようだ。代田亜香子訳。

きみといつか行く楽園

きみといつか行く楽園

 主人公である11歳の少年、ブラッキーの視点から、1人称の語りとして物語は描かれる。これは色濃くアメリカ的、と言っていい小説だ。性、性的虐待、崩壊する家族、貧困、ドラッグ、暴力。ブラッキーはそれらすべてを身に受けつつ、心と体が分離し、現実感を喪失していく。
 登場人物の造形がちょっと戯画的・紋切り型だし、結末もありきたりといえばありきたりだ。氾濫する性的モチーフなど、日本人にはリアリティを感じづらいところもある。
 しかし、それにもかかわらず、引き込まれ、一気に読み終えてしまった。それはおそらく、たとえ上記の状況に置かれてはいなくとも思春期の子どもが感じているであろう、周囲の世界と心と体のどうしようもないバラバラ感、非現実感をうまくすくい取っているからだと思う。あるいは、自分の発する言葉が自分から遠ざかっていくような感じとか。それに、ユーモアとシリアスのバランスがいい。
 アメリカ人の若者が感じるリアル感を、日本人では感じづらいかもしれない。でも、ハマる子はたくさんいそうな気がする。