私の愛馬は凶悪です

私の愛馬は凶悪です (ファミ通文庫 あ 3-3-1)
私の愛馬は凶悪です (ファミ通文庫 あ 3-3-1)新井輝  緋鍵 龍彦

エンターブレイン 2007-03-30
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おすすめ平均 star
star読み手を選ぶ作品。要注意。
starRoomシリーズと似たようなの
starなんとコメントしていいやら・・・

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ストーリー

高岡霧理(たかおかきりり)のクラスに、今日も見知らぬ女生徒がやってきて、クラスメイトの射水位里(いみずいり)の「予約」を取る交渉をしていた。この「予約」とはつまりは肉体関係を持つための「予約」なのだった。射水君はつまりそう言う事をしている少年。
で、あまりの無茶苦茶加減に霧理はついにキレて文句を言ってしまうのだけど、それが結果としてどんどん変な方向に進んでいってしまって・・・いつのまにか霧理は射水君と一緒に行動するような感じになってしまうのだけど・・・というお話。
真実の愛を探し続ける新井輝の新作ですね。

こう作品を読んでいると

新井輝という作家というのは本当の愛とか、恋ってなんだろうかとか、そう言った事に取り憑かれた作家だなーって思いますね。家族愛だとか、親子愛だとか、男女の愛だとか色々はあるけど、いずれにしてもそれをこねくり回して作品を作り出している事にかわりはないというか・・・ま、「ROOM NO.1301」と「さよなら、いもうと」とかしか読んでないのであんまり言い切れたもんでもないけどね。
テーマは何となくだけど「愛というものに納得すること」かな。誰がって?いや作者の新井輝が。トラウマでもあるんだろうか?
勝手な妄想だけど「書く」という行為そのものが作家・新井輝にとっての「リハビリ」とか「カウンセリング」みたいな印象ですね。なのでなんかまだまだ模索中って感じの作品です。きっとラストシーンなどまだ決まっていないに違いない。

それにしても

相変わらず不思議なキャラ作りをする人ですね。

高岡霧理さんは

取り立てて変わったところはな〜んにもなくて、それこそ普通の庶民でごった煮の家族の中で育っていて、元気で素直だけどなんとなく家庭料理の「肉じゃが」を思い出す感じの少女ですね。
所々大雑把、雑味もあるけどあったかい。でも大皿に盛られて出てくるから、急いで自分の分を確保しないとあっという間に他の家族に取られちまうぞ!というような感じで育って、まさしくそれを体現した感じの女の子です。
以下、射水君の家に何故か行って、飲み物を聞かれた時に彼女が放った台詞。

ペリエって?」

「……水道水でいいです」

はい庶民。よくも悪くもとっても庶民で感覚もまあ普通。どちらかと言えば古いタイプかな。でもそんな彼女と接していて、射水君は彼女を評してこう言います。

「キラキラしてるよ」
「……キラキラねえ」
太陽のようだとかひまわりのようだとか言われたことがあるので、きっとそんな意味なんだろうなあと思う。

まあ霧理さんにしてみればとんでもない話なんですが、彼からすると、彼女の背後に透けて見える温かい空気が彼女をとても眩しい存在に見せるみたいですね。

射水位里くん

主人公の正反対ですね。高級フレンチレストランのフルコースで、至れり尽くせり。オードブルからデザートまで、全て完全に一定の緊張感をもって統一されて、予約が無いと食べられない。まさしく「要予約」の少年。
誰かに食べてもらう時こそ頑張って楽しく、気持ちよくする事を考えているけど、でも自分が食事を食べるときはいつも一人。まかないは美味しいけど味気ない、美味しい料理は食べているけど楽しい料理は食べた事がないし、知らない。そんな感じ。

「俺と霧理さんは……友達ってことでいいんだよね?」

「セックスするだけの相手ならけっこういたけど、こうしてちゃんと話を聞いてくれる相手って初めてだから」

悲しいなあ・・・。きらびやかに見えてもその実とっても孤独な内面。しかし、彼を外から眺めている少女達は彼についてこう言います。

「うん、友達がね、位里様としたんだけど、それがすっごく良かったって言うから。なんかね、もう一晩中、イカされっぱなしなんだって。位里様とすると息継ぎできないまま波間を漂ってるみたいな気持ちにさせられるらしいよ」

もう本当に高級レストランのノリですね。必死に足掻くようにして少女達に性的なサービスをしている姿が見え隠れして、同じ男として同情を禁じ得ません。しかもお金もらってやってるサービスでもないのに・・・。なんかどこまでも悲しい少年ですね。彼は一見女たらしの幸せ者ですが、全然羨ましく無い類いの生き様ですねえ。
まあこの手の話と、倫理観とか、感情論とかがごた混ぜになって、事態は混乱するんですけど。あ、あと霧理の弟の進くんの恋愛も絡んでくるんだった。

なんだか判り難いですが

面白かったですね。星4つ。ただ、全3巻位できっちりと完結させて欲しいものです。
愛の模索はROOM NO.1301の方でやってもらって、こっちはちゃんときっちり完結させて欲しいですね。恋愛とは違うテーマを持った全く違うアクション作品とかの話ならともかく、切り口を変えただけの同じ作者の作品をいつまでもだらだらと楽しむ傾向は個人的にないので。この作者はページを区切らないといつまでも間延びする気配もなきにしもあらずって感じもするし。
緋鍵龍彦氏のイラストは、特に口絵のカラーイラストが良かったかな。なーんか、可愛らしさとえっちい感じが同居している感じで。ちょいハァハァします・・・。