かくてアダムの死を禁ず

あとがきの作者に対して「面白かった!」。

ストーリー

巨大資本である桃原グループの次期総帥でもある少年・桃原誓護(ももはらせいご)は妹の祈祝(いのり)と一緒に両親の墓を訪れていた。やがて姿を現すであろう現総帥である叔父と対決するために。しかし、そこはただの対決の場とはならなかった。叔父自身が姿を現さないばかりか、奇怪な黒い霧に墓地のある修道院が包まれてしまい、それぞれの思惑を持った僅かな人間達を残して世界から隔絶されてしまう。
そして、それをやったのは一人の人間ではない何者かであった。一人の美少女——彼女は自らを教誨師グリモアリス)・アコニットと名乗った。人間に裁かれる事のない罪を犯した者に、烙印を押しに来たのだと。
幾つもの過去の断片を繋ぎ合わせて浮かび上がる罪の数々。果たしてアコニットの探し求める「罪人」とは誰なのか? 妹を守るために巻き込まれた誓護の一夜の探偵物語

以前のエントリで

「『かくてアダムの死を禁ず』の主人公が重度のシスコンぶりを発揮するんで変態ですよ〜」とここの人に言われた事があったんでこの作品、すっごい気になっていたんですが・・・最初こそコレはキてるとか思ったんですが、実は中盤から後にかけて、全く変態じみているとか思いませんでした。
彼は作中でキャラに色々キッツイ事を連発されます。

「あの腑抜けめ。アイツときたら、まったくモテないらしいからな。ちょっと奇麗な娘に言い寄られたら、簡単にたぶらかされるんだ」
「姫沙さん、それは違います」
真白は聞き捨てならない、という様子で口を挟んだ。
「誓ちゃまは常軌を逸したシスコン野郎だからおモテにならないんです。普通の女の子になんか最初から興味はありません」
「む、それもそうか。まあ、見るからにイカレきったペド野郎だからな」
「しかもシスコンです。最低の人種です」
「……泣くぞ、アイツ」

・・・ここまで言われたりする彼ですが、私は彼がモテなかったとしても「シスコンという簡単なくくりのせいではない」と思いましたね(シスコンというのは多分に見下したような差別的な意味を含みますし)。彼は既に——いのりという娘の父親なのです。彼の発言を幾つかピックアップしてみましょう。

「ほら見ろよ、アコニット〜。この天使の寝顔……。なー、可愛いだろ〜? ああ、何て清らかな——うあっち!? ちょ、やめろよ! いのりが起きちゃうだろ!」

「あの日、あのとき、僕は生涯いのりを護ると決めたんだ。その決定は、相手が神さまだろうと、悪魔だろうと、教誨師だろうと——覆らない」

これと同じ発言をできる連中が私の身近に結構沢山います。「幼い子供を持った父親」達です。
我が子を見る時に垂れた目がさらに垂れきった奴らの顔を見るに、この誓護の反応もほ同じでしょう。
友人の一人は娘が産まれた瞬間に、
いつか嫁に行く姿を想像してしまい号泣
いつか娘に彼氏が出来るかも知れないという予想に本ギレ
とか、冗談みたいな話が沢山転がっています。・・・じゃあこの父親連中は「〜コンプレックス」なのか?と言う事になりますが、そうは言われないでしょう。
そうすると誓護のモテない理由ははっきりします。つまり彼は10代にして既に子持ちの父親なんですね。同世代の子供達には彼の「妹(娘)に対しての愛情に付け入る隙を見いだす事が不可能である事」や、「彼の愛情を独占する事が不可能であるという事」に早々と気がついてしまうからでしょう。高校生くらいの同級生なんぞにモテるはずがありません。
・・・本編とほとんど関係ない事でかなりの文字を割いてしまった・・・。

本編の流れですけど

実に良いですよ。純粋ミステリというにはムリがありますけど、謎解きの楽しみはラノベとしては十分にありますし、奇天烈なだけかと思ったアコニットや誓護、いのり、シスター真白、シスター森、姫沙、加賀見、君影・・・それぞれ色々とありますが、それでもキャラクターを短い文章で説明する事に成功していて、するすると読ませてしまいます。まあ、犯人探しをする本と言うよりは、物語を楽しむ類いの本ですけど。
特にですが、誓護はその決意と知恵との限りを尽くした戦いの姿勢がとても好ましく感じますし、アコニットは与えられた深い人間くささが良いですね。アコニットは人間ではないので、変な言い方ですが。

総じて

星4つ。一冊で話はきっちりとまとまっていますが、次があれば是非読んでみたいです。
松竜氏のイラストの出来もまあまあ良かったのではないでしょうか。口絵の誓護といのりの一枚は良かったです。全体ではまあ及第点ですね。絵柄はキライではないですが、ちょっと構図とか、背景とかがイマイチって感じでしょうかね。

感想リンク

ラノベ365日  booklines.net  ライトノベル名言図書館  Alles ist im Wandel  まいじゃー推進委員会!  鍵の壊れた部屋で見る夢  MOMENTS  積読を重ねる日々

※まいじゃーさんが恐らく一時的(今日だけだといいなっ!)に得体の知れない方向に壊れているので、今日はリンクをクリックしても妹成分しか補給できません。
ライトノベル名言図書館さんも一時的(ひょっとしたら本性を現したのか!?)に明らかにある種のフェティシズムの権化になっているので、トップページに行ってもエロい名言しか補給できません。

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カレイドスコープのむこうがわ

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私の愛馬は凶悪です

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パラケルススの娘(6)薔薇と小鳥たちの輪舞曲

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かくてアダムの死を禁ず

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涼宮ハルヒの分裂

涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫)

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へへえ、こう来たか〜

といった感じの最新刊ですね。そろそろやるだろうとは思っていたけど、初めて「以下続刊を待て!」というオチの付き方ですね。でも多分上下巻くらいの構成じゃないかと思うので、続きが出てから読むというのも一つの手かもね。
流石に今の段階で色々書くのも何だとは思うので、珍しく続きを読むにしてみようかな・・・? しかし相変わらずキョンの独り語りは無意味にニヒリスティックだなあ・・・これが中二病という奴なのか?

正直なところ

実は今回読んでいて「やられた!」と思ったのは佐々木さんの話し方から何となく男だと思って読んでいて、
「なんか変でキモイやつだな〜」
と思っていたら実は可愛い女の子だったので、キモイと思っていたところがいきなり反転して、
「なんかけっこう萌えるかも・・・」
になってしまったところかな?これは上手いと思った。つーか俺が単純なのかな? あんまりこういった感じのミスリードを誘う書き手じゃなかったと思っていたから完全に油断していたという感じ。
それから、今までの伏線で出ていた人物がおおよそ出そろうとは思いませんでしたね。

で、後半ですが

ストーリーが完全に2本に分岐して語られます。「αルート」と「βルート」ですね。
ここでも備忘録的にまとめとこう。

日時 αルート βルート
土曜日夜 「あたし」と名乗る謎の人物(キョンの後輩と名乗る女性(?):向こうはキョンを知っているらしい)から電話がある。 「佐々木さん」から日曜日に会えないかと連絡がある。大まかなお互いの状況と意思確認をする。
土曜日夜 キョン、古泉に電話する。結論「涼宮さんがいるんですから」。 キョン、古泉に電話する。結論「くれぐれもご自重ください」。
土曜日夜 キョン長門には電話をしない。 キョン長門に電話する。「九曜については調査中。しかし危険は低く『天蓋領域』と名が付いた」
日曜日 とくに何事も無く過ごす。 佐々木さん含める上記の第二SOS団の面々と会ってお互いの立場の確認をする。その他には「九曜」と「喜緑さん」との遭遇がある。
月曜日:朝 土曜日の事が気になって色々考え込む。ハルヒが1年生勧誘を諦めていない事を確認する。ハルヒにもっと頑張れとつつかれる。 ハルヒは寝ている。キョンも居眠りをして昔の佐々木さんとの奇妙なやり取りを思い出す。
月曜日:昼 長門と一緒にランチミーティング。「天蓋領域」の名前を知る。長門から周囲を含めて「天蓋領域」からの攻撃を防御する意思を確認する。 教室で谷口、国木田の二人と昼飯。佐々木さんについての話をする。
月曜日:放課後 明日の小テストについてハルヒからの協力がある。妙な違和感。 ハルヒキョン、ともにさっさと教室を出る。
月曜日:放課後 SOS団におよそ10人の入団希望者が現れる。 キョンが部室に真っ先に到着。長門の姿がない。
月曜日:放課後 入団希望者は11人いた。古泉によると不審な存在は混じっていないとの事。 みくるがキョンに次いで現れる。未来についての話をする上で、幾つかみくるの「禁則事項」が消えている事に気がつく。
月曜日:放課後 長門は相変わらず部室にいる。 ハルヒと古泉が同時に現れる。
月曜日:放課後 ハルヒによる入団テストを兼ねた説明会。キョン、入団希望者が一人増えている事に気がつく。女性が一人増えたような違和感。 ハルヒキョンが会話。ハルヒが1年生勧誘を諦めていない事を確認する。入団テストは適宜やるとの事。
月曜日:放課後 一人の少女に会った事のあるような、見た事があるような気がする。しかし思い出せない。 長門が最後まで姿を現していない事に気がつき、ハルヒ長門に電話。風邪を引いて休んでいると聞き、キョンと古泉、危機感を覚える。

取りあえず新キャラの大まかなまとめ

今回のメインの話は「現存するSOS団とその頂点に君臨する『涼宮ハルヒ』のコピー集団が現れる」という事でいいと思います。厳密な意味でコピー集団ではないのだけど。

名前 対存在(推定) 過去の伏線 以前の登場の仕方 キョンから見た特徴
佐々木さん(女) 涼宮ハルヒ キョンの昔に関わる。 なんとなくキョンやらキョンの中学時代を知る人間によって言及済み。 中学時代にそこそこ親しかったのはキョンが認める事実。しかし特に男女のお付き合いをしていた訳ではない。非常に理性的で男性のような話し方をする変人ではあるけど、その内面の良識に対してのキョンの信頼はそこそこあるようだ。
周防九曜(女) 長門有希 謎の雪山遭難事件の首謀者の端末。 雪山遭難事件という得体の知れない事件に巻き込まれることで言及済み。 奇怪な人物。長門よりも非人間的な存在として有るようで、長門からは「天蓋領域」と呼ばれる長門にもコンタクト不可能な存在。正体不明でキョンは彼女の存在自体を非常に不気味だと感じているようである。
藤原(仮) 朝比奈みくる 謎の未来人(男) みくるの仕事だったメモリーカードネタで接触済み。 以前の接触からキョンにとっての心証は非常によろしくないが、SOS団にとっての古泉と異なり、他の第二SOS団メンバーに対して協調しようという姿勢があまりないように見える。
橘京子 古泉一樹 古泉と異なる機関の存在(女) 朝比奈さん誘拐未遂事件で接触済み。 以前の接触からキョンにとっての心証は非常によろしくないが、比較的話が通じる存在ではある。古泉と同じように「佐々木さんの作り出す」閉鎖空間内に侵入する能力をもっており、現在「涼宮ハルヒ」の持つ力は、本来は「佐々木さん」が持つべきものだったと考えていて、同時にそうすべきだとも思っている。

とはいえほとんど新キャラ登場と言って良い展開でしょうかね。

で、ここで問題

  1. この一連のトラブルがハルヒによって起こされたという事が既にキョンによって言及されている事。
  2. 第二SOS団には「キョン」に対応する人物がとりあえず明確には出現していない
  3. 「わたし」を名乗る謎の存在からの電話によって、αルートとβルートが分岐している事。
  4. 長門情報統合思念体>に対する攻撃のαルート(無)βルート(有)の違い。
  5. キョンが「見た事があるような気がする」新入生が一体何者なのか。

いやあ

とにかく謎解きは別にして、非常に楽しめたのが事実ですね。星4、もう少しで5つつあげちゃうかな。
やっぱりというかなんというか、キョンの語り口に「なんか変な感じ!」という印象をおぢさんは持ってしまうのだけど、それを含めても十分面白かったかな。構成が今のところ見事です。十分に続きに期待出来る感じ。
・・・しかし、谷川流は悲惨だなあ。人気が出たばっかりに私のブログですらここまでまとめたりしてしまうのだから、もっとファンになっている他ではもっとスゴい事になりそうですね。いや、作家冥利に尽きるのかな?
いずれにしても次が早く読みたいものです。

感想リンク

Alles ist im Wandel  booklines.net  今日もだらだら、読書日記。  ライトノベル名言図書館  ラノベ365日
古泉のアレっぽいところに「今日もだらだら、読書日記。」のうららさんの心のアンテナがきっちりと反応している模様。流石だ・・・。