マテリアルゴースト(2)

マテリアルゴースト2 (富士見ファンタジア文庫)
マテリアルゴースト2 (富士見ファンタジア文庫)葵 せきな

富士見書房 2006-05-20
売り上げランキング : 9071

おすすめ平均 star
star二巻目です。
starあとがきまで面白い♪
starケイは朴念仁である

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酷評で色々とモメた「マテリアルゴースト」の2巻ですね。

ストーリー

・・・はあんまり重要じゃないから適当で。
「死にたがり」主人公の式見蛍(しきみけい)と彼の持つ霊体物質化能力、彼に取り憑く幽霊の少女・ユウに、幼なじみの神無鈴音(かんなりんね)、通称・先輩こと真儀瑠佐鳥(まぎるさとり)ら出くわす、怨霊との戦いの物語。
まあとにかく1巻の感想が色々と物議をかもしたシリーズの2巻ですね。さて、この2巻の感想はどうなのかな・・・まあそれなりに注意して書いたつもりだけど。

読む人によってはここより下は『心の安寧を損なう酷評』になっている可能性が高くなっております。

ファンの人は要注意! この感想が地雷です!

酷評と知りつつ、それでも読まれる場合には、以下の「続きを読む」をクリックして下さい(検索で直接このエントリに来た場合には「続きを読む」は表示されませんのでご注意下さい)。

で、のっけからなんですが

ちなみに星は2つになっていますが、その辺りの理由は以下に書かれています。しかし1巻よりマシになったとは言え、やっぱりどっちかと言えば酷評になると思うんですね。ですからここで「続きを読む」にしておきます。興味がある方だけ、どうぞ。

この話に感じる不快感

これの根っこは「主人公の性格」とは違うかな、と思った2巻。これは作品構造から来るものだなと思ったので、ちょっと順序立てて説明してみる。

  1. 自殺志願者の独り語りで話が進むものの、語り手が主人公のために読者である我々はどうしたって「主人公が死んだら話にならない」事を知っているので、作者がこのキャラクターを殺さない事を知っているし、同時に死ぬ訳がないと知っている
  2. しかし主人公にはことあるごとに本格的に「すぐにでも死ぬ行動をとる用意がある」ように作者が繰り返し語らせている。

1と2をあわせて考えてみると至った結論は一つで、それは「あくまでも『自殺したい』という言葉を使って遊んでいるだけだ」という事。
ちなみにこの理屈をそれなりに確信するに足る匂いを感じたのはここ。ちょっと引用。

もう、ホント、明日あたり本気で自殺に取り組もうかと思う。

この台詞があるのは物語ではホンの序盤。
主人公を殺す気も死なせる気も無いくせに敢えて主人公にこう語らせる辺りは、本当に作者が「自ら死を選択するという事を重みの無いおもちゃにしているな」と、しみじみ感じる描写ですね。

結局のところ

1巻のあとがきにあったと思うけど、作者自身が「楽しい話を書きたいだけ」「エンターテインメント」だと言っている通り、これはあくまで楽しむための本として作っているつもりなんだよね。「自殺願望というスリルを楽しむジェットコースター」みたいに。

きゃあきゃあ言いつつも、ジェットコースターはあくまでただのスリルを感じるためのもの。
乗っている(読者)側も乗らせている(作者)側も「自殺するっていう要素の持つスリルを楽しんでるだけ」って思っているからこそ成立する楽しみなのだね。そこにはシリアスな危機意識は全くない。

特に

書いている作者の中にそういう危機意識がない事があげられると思う。
そのために、主人公を含め他の登場人物の中にもシリアスな危機感というものが全くない。つまりは「自殺をネタにした遊び」だから、誰も主人公を強制入院させようなんて思わないし、ラブコメやっている場合じゃないとか思わないし、愛人がどうのこうのとか言っていられる。
ここで一つの参考としてヒロインの一人、神無鈴音(かんなりんね)の思考を引用してみる。ビックリする様な事を考えているので。

あんな風に「死にたい」とか言ったり、一見無気力に見える彼だけど、でも……そう「ほどよく」優しくて、「ほどよく」お節介でもあると言うのだろうか。特別慈愛にみちているわけでも正義感が強くもないけれど、その代わりに暑苦しかったり偽善的でもない。自然体というのかな。

蛍は確かに「死にたい」とか言うけど、それはカッコつけでもなんでもなくてまんま「本音」だし、

自然体!? なにそれ!?
1巻で実際に自殺のために行動を起こして、その「自殺願望」を「カッコつけでもなんでもなくてまんま『本音』だし」と知っているのに、その上で彼の在り方を「自然体」と言えるこのヒロインの感覚がもう理解不能だ! というか支離滅裂だ!
これだといつ死なれてもいいって思ってるみたいだし(どうでもいい)、同時に死ぬ訳がないと思っているようでもあり(心配していない)、また決して死んでほしくないとも思っているようである(心配している)
彼女の中での認識は、どのようにかかれようと「危ないから気をつけてね?」位のもんなんだなということを如実に表していると思う。つまりはメチャクチャ。
・・・それは彼の自殺願望を本気で心配しているとは思えないので・・・危機意識とかでは、ないなあ。

そう見ていくと

やっぱり「自殺願望」は彼と彼女達にとって(まあ結局は作者に還る訳だけど)はあくまで日常を楽しく過ごすためのスパイスであり、おもちゃであると。だからこんな支離滅裂な事が書けるのだなと思う。
——そう、これは日常から外れた「遊園地(ライトノベル)」にある「ちょっとしたスリルを感じるためのジェットコースター(自殺願望)」なのですな
まあ当たり前と言えば当たり前の結論に至った訳ですが。この理屈、カッコ内に別のモノを入れても成立しますね。

しかし私としては

現実にはそのジェットコースターで死んでいる人間がいるという——ホンモノの悲劇がそこにはあるという事を知っている訳で。
で、それを現実問題の悲劇としてシリアスに捉えてしまう読者にとっては、これほど

「冗談じゃない! 遊びにして良いものと悪いものの区別も付かないのか!」

と思うのだな。

「実際にあり得ない様なスリル」を楽しんでいるだけならこんな不快感は感じないはずだと思う。1巻のコメント欄で引き合いに出したけど<吸血鬼>とか<狼男><魔法使い>なんていうのはその最たるものですね。
余談だけど、私は快楽殺人をテーマにした作品の「マージナル」には全く不快感を感じなかった。そこにあるスリルはあくまで自分の身近に存在しない、あり得ないと思っていられるスリルだったから。
・・・しかしもちろん快楽殺人の犠牲者の家族が読んだら「ふざけるな!」という反応が返って来るだろう。つまりはそういう問題。

いずれにしても

自殺を日常のスパイスとして扱う事を「許容出来るか?」 or 「出来ないか?」はもう完全に読者側にゆだねられてしまっている状態です。
ここまで読んで頂いている皆様はもうお分かりだと思いますが、私は許せない方ですね。
ハリウッド映画で「核爆弾の扱いがいい加減過ぎる!」 とか思った事ないですか? あれと同じですね。被爆国である日本では軽々しく扱えないものだけど、アメリカは平気で核を描写します。一番ビックリしたのは「トゥルーライズ(リンク先ネタバレ注意)」だったかな?
まあそれと似た様な感覚です。「自殺願望」をいい加減に描写する事が許しがたい私としては書き手に問いかけずにはいられないですね。「書き手のモラルの問題としてどうなの?」と。
自殺志願者である主人公の内面をじっくりたっぷり書いて、一見真面目にやっているように見えますが、実はもの凄く不真面目に「自殺願望」というものを扱っている、と感じてしまう・・・という訳です。

まあここまで

否定的な事を色々言ってはいますが、この2巻は1巻と決定的に違う所が出てきます。
2巻は1巻という基本の積み重ねがあるため、主人公の「自殺願望」がちょっと変わっている(つまり普通の自殺志願者とはかなり違う所が見受けられる)という事をある程度描写する事に成功しているので、1巻の時に感じた「いいから精神科に行け」というよりは「これは何かおかしい」という方向に巧く誘導しているように感じます。
それを示唆する意外な言葉の積み重ねが幾つかありますね。ちょっと引用。

一番最高の結果としては、死を考えなくなるぐらい幸せになることだって、それは自殺志願者でも重々分かっている。僕だってそうだ。この死にたがり、どうにかなるならどうにかしたい。むしろ一般より幸せへの渇望が強いからこその、自殺志願だろう。

外面的に自分がとても最低なことを知っているから。だからこそ……だからこそ、そんな自分と友人になってくれている鈴音やユウには、ホントのところ、凄く感謝していた。

相変わらず自殺願望の原因は不明なままなものの・・・一巻で現れていた<モニタ越し><自分を客観視しているような>という特徴的な描写がなりをひそめて、そのかわり、出来れば良くなりたいとか、自分以外のモノに対しての関心と敬意を表したりしています。
「死にてぇ」という台詞は度々出てきますが、これも深い意味の無い言葉に落ちた様な感じはありますね。
結果として彼は

  • 「直ぐにでも死にたい自殺志願者」

から

  • 「得体の知れないジレンマを抱えた主人公」

になり、シリアスから一歩段階をおります。キャラクターの性格がある意味変わってしまっているんではないかい? という様な変化ですね。
そして一番大きな変化としては、この2巻において主人公は自分から命を絶とうとする行動を一度もとりません。これは非常に大きな変化であって、つまり結果として彼は行動だけ見ると「口先だけの面倒なダメ少年」に成り上がった(成り下がった?)とも言えますね。
しかし、結果的に私個人としては読みやすく、また受け入れやすくなっています。ちなみにカウンセリングにかかっているという描写も出てきたりしまして、その辺りも印象を和らげるフィルタとして機能しているでしょう。
・・・まあそれでも十分精神科に入院する事を薦めるに値しますが。

作品と主人公を受け入れやすくなった結果

この間読んだ「マージナル」にも似た様な所があったけど(やった順番はもちろんマテゴが先)、主人公がある意味現実から半歩踏み外しているために発生する現実との齟齬が、主人公の朴念仁という性格を巧く説明している辺りは興味深い・・・というか純粋に面白い。それに振り回されてしまうヒロイン達もまた楽しいのが事実。
つまり、「自殺願望で遊んでいる」という一点を許容する事さえ出来れば、良質なラブコメとして楽しむ事が出来るという事でもある。特にこの2巻は、ユウ、鈴音、先輩の3人との「いかにもっ!」というやり取りがあったり、蛍に過去の略奪愛疑惑が持ち上がったりして、面白いですね。

総合

星2つ。
1巻の時からの軌道修正の結果か、はたまた最初からこうするつもりだったのかは分かりませんが、多少はマシになってはいるものの、やはりあちこちに突っ込みどころが出てしまいますね。これはもう致し方ないかと。
楽しめる人と、楽しめない人の差は上で述べた通り。もしこれから読もうとしている人が居るなら、参考にしてみて下さい。まあ「マテゴは3巻から」という事も聞いていますので、3巻までは読もうと思っている次第です。
てぃんくる氏のイラストは・・・構図の取り方とかはキライじゃないけど、やはりあまりにも男が描けない人ですねえ。

感想リンク

booklines.net  ラノベ365日