ぐらシャチ

ぐらシャチ (電撃文庫 な 7-13)

ぐらシャチ (電撃文庫 な 7-13)

ストーリー

秋津島榛奈は高校入学を目前にしたうら若き乙女であり、弟に言わせると日本うっかりランキングの上位ランカーである。本人はそうは思っていないのだが。
高校入学前の休みの日、榛奈は飼い犬のシノを連れて近所の寂れた砂浜である唐木浜にやってきていた。この人気のない砂浜は彼女のちょっと変わった趣味(?)のオカリナを練習するのに向いている場所だったのである。昔オカリナを笑われた事があったので、人目に付かないところで吹く事にしていたのだ。
が、その日はオカリナの練習どころではなかった。唐木浜を突然襲った大波が榛奈を攫ったからだ。海に飲まれて死を意識する榛奈だったが、すんでの所で助け上げられる。そして意識朦朧とする彼女に声がかけられた――。

「あーゆーおーるらいと?」

若い男の声のした方を見てみると、そこにはとても大きな人物がいた。どこかで見た事のある姿・・・どこで見たのだったか・・・そう、ギャング、ギャングだ・・・ただし、海の。

「シャチー!?」
「ほわっつ?」

英語をしゃべるシャチとの奇妙な出会いが榛奈の運命(?)を大きく変えていく事になる。しかし、しゃべるシャチと出会ったからと言って一体どういう方向に何が変わっていくのかさっぱり分からないという・・・奇妙な出会いから始まる異色の物語の1巻です。

この作者の人の

本を読むのは初めてなんですよね。
前のシリーズが「ダブルブリッド」でしたっけ? 何やら凄い話で、しかも最近完結したという噂だけは聞いていまして、いつか読んでみようかな〜と思っていた矢先にこの新シリーズでしたので早速飛びついたという所な訳ですが。
タイトルが「ぐらシャチ」・・・タイトルと口絵イラストから察するにシャチが関係しているのは分かるんですが、その前についている「ぐら」ってなんやねん。ぐら? ぐりとぐらのぐら? でもシャチがからんでくる話で、あくまでも「ぐらシャチ」な訳ですよね? シャチという名詞の前についている訳ですから形容詞的な働きをするんですかねこの「ぐら」は? ・・・さっぱり分かりませんねえ・・・という頭の中が「???」な状態から読み始めました。
読了後の今振り返って見ると、先入観を持ちようがないこのタイトル、正解かも知れませんねえ・・・。

シャチではありますが

この話ボーイミーツガールとしての側面も持っていまして、つまり少女と少年が出会うわけですよ。シャチですけどね。
・・・なんかシャチが最初に付いた段階でもう何もかも意味不明ですね。でもそうなんだから仕方がないです。でも登場人物のキャラ立ちが非常に良いという印象がありまして、主人公の榛奈の飼っているペットのシノまでもがいい味を出しています。ですので人間のキャラクターは言うに及ばず、シャチももちろんいいキャラクターですね。
それぞれの登場人物は特に際だって変わった発言とかをする訳では無い(ライトノベルとしては)んですが、しっかりとした輪郭を持ってくれるというか・・・こういう技をさりげなく見せてくれると、作者の技量は確かなんだろうなあなんて思ったりします。

で、内容ですが

とにかくシャチが自分の故郷にいる「忌々しい連中」をどうにかする方法を探すためにやって来た・・・という所からスタートします。
だからと言って必死になっているかというとそうでもなくて、そういう方法が見つかればいいなあ、という位のゆったりとした感じですかね。天敵のいないシャチの優雅さでここまでやって来たという位の緊張感です。つまり全然切羽詰まってない訳ですね。
で、そんなシャチと榛奈が出会って話が動き始める訳です。

「こんにちはあああああああ!」

まあ榛奈の出会う相手がシャチですから色々と意味不明ですが、大波と一緒にこんな塩梅で二人(?)は出会う訳です。シャチが出てくる小説なら、どこぞの水族館の飼育員とシャチの出会いとかのハートフルな感じが一般的だと思いますが、実はこの話何故かどことなくホラーサスペンス系の匂いがする作品となっています。
ですが基本的に暗い話では無いので安心していいと思います。まあ、ちょっとどうかなあ、グロ・・・とかは少し思わなくも無いんですが個人的に充分許容範囲内です。私が大丈夫なので大抵の少年少女は大丈夫なはずです(根拠は特にない)。でもちょっと血なまぐさ・・・いえなんでもありません。

総合

星4つですわな。
派手な展開こそしませんが、落ち着いて読ませる文章と物語ですね。作家が女性だという事と表紙イラストからも想像出来るかも知れませんが、女性の皆さんが読んでも確実に楽しめる作品だと思います。かと言って私のような脂臭い野郎が読んでも食い足りないという事もない出来になっているんじゃないかと思います。
本音を言えば他のライトノベル作品とかと比べると地味だと思うんですが、それが逆にじんわりと染みこんでくる感じがしていいですね。というかこってり料理が続いた後のあっさり系という感じで、逆に好感触でした。こんな作品もちょくちょく読んでいきたいですね。
イラストについては上でちょっと触れましたが、絵師の双氏の絵柄が作品にピッタリ合っていると思いますね。この柔らかく淡いタッチ、個人的には好きですな。

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