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2011-08-03

雨の日のアイリス

雨の日のアイリス (電撃文庫)

雨の日のアイリス (電撃文庫)

ストーリー

この物語の最初のページには以下のような文章が綴られている。

ここにロボットの残骸がある。

その左腕は肩の部分からごっそりとなくなっており、残った右腕も関節があらぬ方向に曲がっている。下半身はちぎれていてそもそも存在せず、腹部からは体内のチューブが臓物のようにだらしなくはみ出ている。

一見するとただのスクラップとしか思えないこのロボットだが、かつては人間の家で働き、主人に愛されて幸せに暮らしていた。

HRM021ーα、登録呼称アイリス・レイン・アンヴレラ。

それがこのロボットの名前である。

この記録は、オーヴァル大学第一ロボティクス研究所のラルフ・シエル実験助手によって、HRM021ーαの精神回路データを再構築したものである。

この部分を読んだだけである種の好みを持っている人であれば全部読みたくなってしまうに違いない作品ですね。一見するとSF色の強そうな作品ですが、実はファンタジー作品だと私は思います。

上で書いたとおり

アイリスと名前のついたロボットを主人公とした話になっています。が、SFとは言えない作りでしょう。

科学的な用語は一部で並んでいたりもするんですが、それは正直記号以上の深い意味を持っていません。精神回路というメカ的な部分は、例えば魂結晶とかソウルキューブとか言い換えても何ら不都合を感じさせない程度の使われ方だからです。そうですね・・・この話に出てくるロボットたちはファンタジー作品に出てくる「魔法で作られた使い魔」のイメージと綺麗に重なる感じです。

人間に忠実で、人間を心から慕い、人に尽くすために生まれて、時には人に愛されて、時には憎まれて、そして時には裏切られる。人に近い姿や心を持っているものもいるけれども、普通は人としては扱われない――そういうキャラクターたちが沢山出てくる話です。

この話は

ウェンディという心優しい人間に仕えていたアイリスというロボットが、過酷な運命に晒されて転落していく様を描いた部分がほとんどです。

その転落は人間だったら決して耐えられない類のものです。人間のような心を持ちながらも決して人間として扱われない彼女は、生きながら体を解体されて捨てられるという虐殺行為にも似た経験をすることになります。アイリスは人間と同じように苦しみも悲しみも感じるというのにこの仕打ち――そうしたどうしようもなくもの悲しさに満ちた体験を経て、人間のように絶望していきます。しかし彼女の煉獄巡りは終わりません。機械故に再利用された彼女は、美しかった体を失ってただの使い捨ての継ぎ接ぎの中古ロボットとして第二の生を生きることになります。

・・・関係ありそうで関係ないんですが、なんだかこの辺りのエピソードを読んでいて「クロノ・トリガー」のロボが砂漠をオアシスに変えるエピソードを思い出しました。パーティ一行から離れて一人長い年月を過ごしていく彼の荒野を行く道のりが、アイリスの辿る道となんとなく重なって見えたのです。もちろん全然違う話ですけどね。

それに

アイリスのようなロボットにはペットの犬や猫に感じる可愛らしさといじらしさを感じます。

私は犬を飼った経験がありまして、あのどこまでも飼い主を慕って疑わない一途さに随分と救われたと思っています。誰にも話せないような愚痴を黙って聞き続けてくれたのも(返事はしてくれませんが)、誰もいない家に帰ってきたときでも尻尾がちぎれそうな程にふって喜んでくれたのも飼い犬でした。絶対に裏切らず、絶対に待っていてくれる・・・その姿は今でも忘れられません。それが忠実かつ愛らしいアイリスや他のロボットたちに重なるのです。

でも、そんな犬でも虐待する人間はいましたし(私の家の近所でも)、何の情もなく捨ててしまう人間もいました。私はアイリスや悲しみを背負うことになったロボットたちに、そうした心ない人を愛してしまったペットの悲しさを見てしまいます。どこまでも許せないのは人間なのに、彼らロボットは人間を恨もうとしたり憎もうとしたりしていないところに、声を上げられない者達の悲哀を見るのです。

総合

星5つ・・・ですかね。

上では色々と悲劇的な書き方をしてしまいましたが、多くのものを失ったアイリスは、しかし、新しく得難い友情を手に入れることになります。リリスという愛らしさのあるロボットと、ボルコフという元軍事用ロボットです。彼らは自分たちが背負った悲しみを吹き消そうとするかのように、過酷な一日の暮らしを終えると、隙をみては深夜の「読書会」を開くのでした。

救いのない現実と、そこに僅かに見える優しい希望のような「読書会」。アイリスたちに待っているのはどんな未来なのか。過酷な現実の中で彼女が最後に選ぼうとしたのが一体何だったのか――今はもうスクラップとなってしまった彼女の記憶から私たちは読み解かなければなりません。

この物語は現実にはありえない舞台を元に書かれているわけですが、そこに流れるロボットたちの心はいまこの現実の中にある何かに絶対通じているのです。この物語から「何かの心を学び取る必要がある」と、読み終えた今、そう思います。書店で見かけたら是非手にとって少しだけ読んでみて下さい。きっと最後まで読みたくなると思います。

イラストはヒラサト氏です。カラーも白黒も非常に良いと思える出来で、構図や背景の作りなども含め十分魅力的な水準に達していると思いました。絵にした部分のチョイスも好ましく感じます。今後もこの調子で頑張って欲しいと思いました。

そうそう

ロボットで思い出しましたが、個人的にロボットで一番好きなのがこの作品です。

ウォーリー [Blu-ray]

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主人公のウォーリーのいじらしさと真っ直ぐさはこの本が気に入った人だったら絶対愛おしく感じると思います。

ネコネネコネ 2011/08/05 00:43 少し前に読んだのでおぼろげな点もありますが
感想を見て改めてこの作品は好きだなぁと思い返しました
感想に意見を書き込もうとしたら、わたしの感想になってしまいました

割とさらっと登場する3人、3体ですが、ボルコフという存在がいて、アイリスやリリスという存在が用意される世界というのがまた……
いえ電気椅子とスタンガンか家電みたいな使用法の違いなだけかもしれませんが
残念ながらロボットたちの視点しかないので世間の認知がどのようなのかは詳細不明
そこらへんSFではないというのは正しいですね
将来ロボットが人間に近づくことができてしまったらどうなるんでしょうね、どの空想が真実になるのでしょう

思えばアイリスは3回死んだようなもんです、あれ……2回でしたっけ
最初に解体されたとき、この本は2つのお話を載せてるのかなと思ったら、アイリスがとんでもないことになってビックリ
本ですから主要人物が死ぬならそれだけの感動とか悲哀とか織り込まれるのに、それが何回も襲ってくるというのはすごいつくりでもある話じゃないでしょうか
アイリスのDEAD ENDに2回も悲しくなるんです

で、描かれているのはとても人間的な、でも無垢なロボットたちの話
出てくるのは「死」ロボット的には廃棄
ロボットという性質を使って上手く「大切な人の死」「自殺」「無残な死」「挫折としての死」「誰かを守っての死」「満たされた中での死」などなど……いろいろ盛り込まれてるようです
どう考えたって作中のロボットたちの死は人間的でロボットだと思えません
わたしとしてはアイリスの自殺が一番わかりやすい例です
そうすると設定は道具で、SFでもなくファンタジーともちょっと違って、ドラマというか要は中身がすばらしい作品なんじゃないでしょうか
それじゃあ「どんな話?」と聞かれたときの答えにはならないんですけど……
もちろん幸せを求めるところもあり、悲哀とささやかな温かさを持った作品だと思います

などと中身推しな言い方ですが、ロボットの設定も斬新な面があってすばらしいと付け足しておきます
特にアイリスが

si-ta001si-ta001 2011/08/05 02:08 お久しぶりです!遅くなりましたが、更新再開されて嬉しいです!これからもよろしくお願いします。


この作品は確実に良作だと予想していましたが、どうしても悲劇的なロボットものが苦手で手が出ませんでした。
昔から映画で言えば『アンドリュー』や『AI』、ラノベで言えば『ポストガール』のような、ロボットに感情が芽生えて苦しむ話が悲しくて見ていられないんですよね。

理由はよくわかってなかったのですが、hoboさんの犬の例で、一途な感情が報われないことが苦手なんだと気付きました。

人間は一道具としか認識していないのに、どこまでも人のために尽くしてくれる彼らが報われないのが本当に悲しいんです。ボロボロになるまで、いや、なっても人のために行動する一途さを見てると泣きそうになってきます。
そこまで悲劇では無いにしろ、人間に近い存在でありながら(精神的にも)、生物と非生物という越えられない壁によって悩む展開も苦手です…。

それでも、電撃文庫の『ゼペットの娘たち』のようなハートフルに仕上げられている作品は好きなのですが、何故かあまりそういった作品が少ないんですよね。ゼペットの娘たちは続刊が出てませんし…。

hobo_kinghobo_king 2011/08/16 00:03 ネコネさん、コメントありがとう!
>割とさらっと登場する3人、3体ですが、ボルコフという存在がいて、アイリスやリリスという存在が用意される世界というのがまた……
少ないキャラクターを上手く使ってますよね。

>将来ロボットが人間に近づくことができてしまったらどうなるんでしょうね、
この作品に出てくるロボットたちのように、悲しい思いをする事がなければ良いんですがね。

>思えばアイリスは3回死んだようなもんです、あれ……2回でしたっけ
厳密には3回でいいと思いますよ。

>どう考えたって作中のロボットたちの死は人間的でロボットだと思えません
人間よりも愛することに関して純粋に作られているために、ある部分においては人間よりも人間的なんですよね。それが余計に読み手の心を揺さぶるのだと思います。

hobo_kinghobo_king 2011/08/16 00:08 si-ta001さん、コメントありがとう!
>これからもよろしくお願いします。
こちらこそよろしくです!

>ロボットに感情が芽生えて苦しむ話が悲しくて見ていられないんですよね。
じゃあ「猫の地球儀」とか読んじゃダメですよ? 絶対にダメですよ?

>ボロボロになるまで、いや、なっても人のために行動する一途さを見てると泣きそうになってきます。
変な話ですけどね、si-ta001さんみたいにロボットという無機物にすら感情移入出来るところが人間の素晴らしいところでもあると思ったりもするんですよ。捨てる人あれば拾う人あり、みたいな感じでしょうかね。両方とも同じ人間の一つの側面なんですよね・・・。

>何故かあまりそういった作品が少ないんですよね。ゼペットの娘たちは続刊が出てませんし…。
受けなかったんでしょうかね・・・3巻を楽しみにしていたんですが・・・。

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