December 23, 2008
■今日のお題・・・・・・・・・・『その土曜日、7時58分』(2007年 米&英)
(監督:シドニー・ルメット 出演:フィリップ・シーモア・ホフマン イーサン・ホーク アルバート・フィニー マリサ・トメイ他)
会計士のアンディ・ハンソン(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、妻のジーナ(マリサ・トメイ)とブラジルのリオにて久しぶりの充足を得ていた。この体験をこれからも続けるにはどうすれば良いか・・・と、妻の裸体に身を寄せながら考えていたアンディは、離婚して金に困っている弟のハンク(イーサン・ホーク)を、ある計画に引き摺り込もうとする。ハンクは娘の養育費を滞納し、妻への借金も滞り、満たされずに冴えない毎日を送っていたのだ。アンディはそんな弟に目を付け、密かに計画を練っていた。兄に呼び出されたハンクは彼が宝石店襲撃を計画している事に度胆を抜かれ、しかも兄が狙っている店は彼等の両親が経営している宝石店だと知って更に驚愕する。しかし生活に困窮するハンクは考えあぐねた末、計画に参加する事を決めるが、自身で実行犯を引き受けた筈でも恐れをなし、行き付けの店のバーテンダー、ボビー(ブライアン・F・オバーン)を代役に仕立て、兄が凶行を計画する宝石店へと慄きながら向かうのであった・・・
本作はニューヨーク派として知られ、ロシアでリメイクもされ、アカデミー監督賞にノミネイトされた『12人の怒れる男』(1957年)、そして栄えあるアカデミー脚本賞を受賞した『狼たちの午後』(1967年)等、ニューヨークを舞台にした社会派作品で知られるシドニー・ルメット監督が、ケリー・マスターソンの脚本で映画化された、巨匠、通産45本目となる劇場用作品。美しい妻と恵まれたキャリアを持ち、人生の成功者と思われるが、その実は日々喘いでいる、会計士のアンディ・ハンソンに、トルーマン・カポーティの伝記映画『カポーティ』(2005年)でアカデミー主演男優賞を受賞したフィリップ・シーモア・ホフマンが、兄を羨みながらも同じように恵まれない日々に鬱屈する、弟のハンクには『トレーニング・デイ』(2001年)のイーサン・ホークが扮し、美しいアンディの妻のジーナにマリサ・トメイ、2人の兄弟から狙われる宝石店を経営する、父のチャールズにはアルバート・フィニーは、他にもブライアン・F・オバーン、ローズマリー・ハリス、マイケル・シャノン、エイミー・ライアン、サラ・リヴィングストン、アレクサ・パラディノ等が出演された傑作サスペンス・ドラマ。
で、映画は凄く面白かったよ。病院帰りに観ても全く興味が削がれる事もなく、全上映時間の117分を頭からケツまで十二分に楽しませてくれる見事な作品だった。にしても最初は「えぇ〜〜、今時、ルメット!?」と巨匠に対してフザけた事を考えてもいたんだが(スイマセン)、周りの方々のご感想を拝聴して、すっかりと考えを改めた次第。んで、誰にもある幸せの幻想が良く描かれ、それが掌から零れ落ちていく様を、ある犯罪を計画し、巻き込まれてしまった家族の話にして、二律背反を両立させながら時間軸を上手くイジって堪能させれる佳作だったかと。とは云え、俺は中盤以降は判っちゃったけどね(笑)それでも見事な着地だったと云えるのではないかと思う。また犯罪に身をやつす兄弟のフィリップ・シーモア・ホフマンとイーサン・ホークのクスブリ芝居も見事なもんで、特にフィリップ・シーモア・ホフマンの堕落し掛けたヤンエグぶりと(笑)、負け犬っぷりも素晴らしいイーサン・ホークの対比は、物語に二重に面白い効果を与えている。中産階級と自身称している連中が消費社会に毒され、破綻して行く米国人の姿は中々見物。俺的には全く理解出来ない部分もあったりするんだけれど、一物語として非常に面白い。
銃器ネタ・・・賊が強盗に使った銃器はS&W M36リボルバー(回転式拳銃)の3in銃身付きを使用していたみたいだ。他にも宝石店にはニッメル鍍金のようなタウルスかベレッタのFピストルが常備され、久しぶりに観るスターム・ルガーのステンレス製のスピードシックスのスナッブノーズ(短銃身)・リボルバー、作動しない時は妙な形のワルサーPPK(Sかも)の自動拳銃が劇中で主に使われていた。んで、資本主義と云うか、消費社会を舞台にしたギリシア悲喜劇みたいな趣もあって、最後の最後まで興が削がれる事がない、そう思えた久しぶりの作品だった。にしてもフィリップ・シーモア・ホフマンが太鼓腹を揺らしながら挑むマリサ・トメイの濡れ場なんて薬物で久しぶりに機能したと云いつつ(笑)、この臭わせる倦怠は流石、巨匠!!流石オスカー主演男優!!と云わしめる素晴らしさで、巧みに時間軸を前後させた編集に目を奪われがちなんだけれど、個々の俳優が漂わせる夫々の負のダウナーな演技がとても良いんだよ・・・何かの拍子に生活の疲れが見え隠れする芝居が。取り敢えず誰もが不幸になるような物語だったりするんだけど、観てるこちら側に嫌な思いをさせない奇特なサスペンス作品だったりして(笑)、不幸を容赦なく描きながら観る者を興奮させつつ、週刊誌や新聞の三面記事に相応しきネタを映像作品に昇華させ、感心させられる。考えてみれば非常に俗っぽい内容を持ったドラマだったりするんだが、下衆っぽく貶めないのがやはり素晴らしいんだなぁ・・・サスペンス映画好きの方には是非ご覧になって頂きたいし、今年や今月の“俺ベスト”には万難排してランクインさせたいお薦めの映画。


