人類の遊動的性格については、アジア以外の国々でもいえることなのですか?

ホモ・モビリタスの説明でもお話ししましたが、そもそもアフリカから人類が世界へ次々と移動していった、そのことがまずすべてを物語っています。クロマニヨン人の出現が3万年前であり、農耕の開始が1万年前前後とすれば、人類はそれまでの2万年の間、移動を中心とする狩猟採集社会・文化を構築・維持してきたのであって、その遺制は人間の精神や身体に色濃く刻印されていると考えられます。例えば進化心理学においては、男性への心理テストにおける心的回転課題の好成績は、狩猟採集社会における男性役割=狩猟適性が遺存した結果であるとみられています。すなわち心的回転課題は、「ある一方向からみた立体の別方向からの姿を正確に想像できるかどうか」というテストですが、狩猟においては、周囲の景観が変わるなかで対象を見失わずに追跡してゆくスキルが求められます。この二つは心理的には共通の能力を基盤としており、長期における狩猟採集生活のなかで、その適性が最も強かった集団が生き残ってきた結果である、つまり現在の我々には、狩猟能力の高い可能性が個体特徴として継承されているというわけです。移動性の高さをこうしたヒトの特性と考えれば、確かに世界の諸地域によってグラデーションの相違があるとはいえ、移動はある程度普遍的なものとして世界中の人類文化に確認できるのではないかと思います。