『新猿楽記』に登場する「商人の主領」は、民間の商人なのでしょうか?

商人の統領である八郎真人は、右衛門尉の8番目の息子とされています。右衛門府の大尉は従六位上、少尉は正七位下の相当官なので、下級貴族の家ということになるでしょう。子供は貴族として官職を得て生活してゆくことができず、それゆえにみな書家、画師、仏師、僧侶、国主の従者などとして身を立てており、八郎はそのなかで商人として頭角を現した人物と描かれているわけです。権勢のある貴族ではないので、「民間の商人」といって差し支えないと思います。しかし扱っている唐物、和物の多種多様さ、交易範囲の広さからすれば、国家機関や上層貴族にも深く食い込んでいる人物と描かれていたと考えられます。このような人物が九州の諸豪族や朝廷の有力貴族の間に入り、唐や朝鮮の商人たちと取引をしていたのです。