法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ぐるぐる猿と歌う鳥』加納朋子著

2007年7月に出た、講談社ミステリーランドの第十三回配本。このレーベルらしく推理小説としては薄味。いつもは「日常の謎」型の推理小説を書いている加納氏*1らしく、いつものミステリーランドより子供向けなところがある。推理小説として一番の大ネタな「あや」をめぐる物語に、ほぼ状況まで同じ先例の短編小説が東京創元社から出ていたのも評価しにくい一因。それでも推理作家らしく伏線がていねいで、児童向けとしては上々の構成。


幼いころは走る新幹線にさわろうと駅を駆け、小学生になっても体育館の屋根に登る、自由度が高すぎる主人公がすごい。極端な例ではあるだろうが実際に子供はこういうものなのだろう。けして作者は主人公を否定せず、ただその自由度の高い日々が消えることを予感させる。
大人の世界の写し身として描かれる子供の世界、それを象徴する名探偵パック*2が生まれた経緯、残酷な現実を率直に表現するという純正なジュブナイル

*1:今作品で主人公が作った推理小説的なクイズが、上下半身を分断された猟奇死体という「本格」的なそれであるところ……作者自身も主人公の口から「本格」と呼ばせているところから、異なる作風への興味が見えて面白い。

*2:ただし、この小説では名探偵とは異なる立ち位置にある。

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