Hatena::ブログ(Diary)

法華狼の日記

2009-10-31

[][][][]伊藤博文はテロリスト

これは陰謀論でもトンデモでもない、真面目な話。最近に安重根へ言及した*1こともあって、テロリストとしての伊藤博文について色々と考えている。

たとえば、番組改変期の2時間特別ドラマとして、伊藤博文の生涯を追ってみると、けっこう面白いものができると思うのだ。


一例として、ハルビン駅から物語を導入してみてはどうだろうか。駅ならば人数が少なくても群集を描写でき、制作費が安くても相応に豪華な雰囲気が出ることだろう。

そして群集に紛れた安重根が凶弾をはなつ。倒れる伊藤博文と、捕縛される安重根。

生死の境界を一時さまよう伊藤博文の記憶は、走馬灯のように過去へさかのぼる。それと並行して、安重根が独立運動に挫折し、暗殺を行うにいたった経緯を描く。過去へ向かう物語と、未来へ向かう物語。そしてドラマの結末で、二人の姿がテロリストとして重なりあう……


さて、こんなことを考えるようになったきっかけについても話そう。

8月13日・20日合併号の『週刊文春』が、『3000人読者が選んだニッポンの「偉い人」116人』と題して、読者アンケートの集計結果を発表していた。

げんなりするような企画だが*2、読者アンケートを元にした記事が面白い。集計結果を肴に、半藤一利福田和也ノンフィクションライターの梯久美子が座談会し、読者アンケートに様々な疑問符をつけていたのだ。よく考えるとマッチポンプみたいなものだが、歴史オタクの観点から一般に流布された偉人イメージを斬っており、なかなか面白い。

まず3位の坂本竜馬からして、自分からは何もしていないと評価。数少ない成果も、他人が出した案によるものと指摘。むしろ具体的な成果がほとんどないからこそ、自由にイメージをかぶせられて人気が高いのではないかとも指摘されていた。なるほど、歴史小説時代小説の題材に使いやすい歴史人物の代表といえよう。

13位の杉原千畝も人気が高いが、他の歴史人物と考え合わせ、海外から評価されている人物だから人気が集まっているのではないかと指摘されている。確かに、そういう面もあるかもしれない。昔から映像化されることが多く、もともと有名な人物ではあると思うが。

36位につけた白州次郎への批判は厳しい。マッカーサーがプレゼントを粗雑に扱ったエピソードも、残された記録から虚構と断じたりしている。そもそも流行したこと自体が不思議な人物だから、座談会でも当惑の声がもれていた。NHKドラマで白州次郎が題材になったことが座談会で指摘されてるものの、これはNHKが白州ブームに便乗したのであり、それ以前から流行していた理由は不明瞭なまま。

そうして数々の歴史人物人気を批判した記事の終わりに、座談した面々が好きな歴史人物を上げた。梯氏は台湾総督の後藤新平、福田氏は伊藤博文という、げんなりするような面子。アンケートに入った中から選んでいるらしいとはいえ、読者を批判できる選択なのか。対して半藤氏は、以前から好きと公言している勝海舟を上げた。幕府を裏切った勝海舟と福沢諭吉が批判したことに言及し、福沢諭吉を尊敬する人は勝海舟を批判していることを半藤氏自身が指摘しており、興味深い。

さてここで前後するが、勝海舟が政治力で平和的に場をおさめた前振りとしてなのか、半藤氏は伊藤博文を批判していた。近代日本の礎を築いた希代の政治家と福田氏は高評価しているが、若いころに暗殺を行っていた者が初代総理大臣となったことは、近代国家の始まりとして問題だったのではないか、と……


なお念のため、半藤氏が指摘する暗殺とは、伊藤博文が維新志士だった時代に行っていたものだ。安重根が伊藤博文暗殺の動機として主張した孝明天皇暗殺は、あくまで当時に存在した噂にすぎない。

しかし孝明天皇暗殺説は別としても、若いころに暗殺に手を染めて一国の初代首相までのぼりつめた者が、独立運動が挫折した結果として行われた暗殺で命を落とした歴史は、考えてみると皮肉で興味深い。また、暗殺者と暗殺対象者とに共通性を見出す物語も有名だ。

理想に燃えた二人の男が、それぞれの大義によってテロリズムへ走る結末へ、物語が収束していく。同じ手段をとりながら、あらゆる意味で対立する二人……

そのように伊藤博文の数奇な生涯という形で物語化してみれば、案外と刺激的で面白い作品になるかもしれないと思ったわけだ。むしろ刺激的すぎて、あらゆる方面から抗議が来るかもしれないが、きちんと作れば歴史の複雑性をとらえることもできるのではないかと思う。

*1http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20090930/1254322442

*2:政権交代の少し前には、日本の歴代首相で最も批判されるべきは誰かという同様の読者アンケート企画を立てていた。ちなみに、最も批判票がなかったのは石橋湛山。

bogus-simotukarebogus-simotukare 2009/11/01 14:01 以下、適当な感想。
・伊藤博文だけじゃないと思いますけどね、明治維新の志士で若い頃に暗殺を行っていたのは。
何を以て暗殺を行ったというかという問題はありますが、黙認も同罪と考えれば、むしろ真っ白の人間の方が少ないのでは?
・白洲の順位が高いのは文春の読者だからでしょう。岩波「世界」読者とかに聞くとまた違うんでしょうね。

くま(仮)くま(仮) 2009/11/01 20:13 すげえ適当な感想
・伊藤博文は『坂の上の雲』便乗商法でいまこそやるべきやと思いますね。正義は便乗のうちにあります。そしてこれは伊藤の一生を貫いた金言でもあります。
・そらそうと実は韓国と日本「以外」の国が撮ったほうが面白いものができるのかもしれませぬ。具体的に言ってロシア(監督は月並ですがシャフナザーロフあたり)か北朝鮮か中国で。そして伊藤と安がワイヤアクション。いやそれ違う。
・『安重根と伊藤博文』の伊藤はドス効いててよかったです。

匿名匿名 2009/11/03 00:20 これはひどいタグでお馴染みの荒山徹先生にも伊藤・安を題材にした伝奇小説があったよな記憶が

zamudozamudo 2009/11/03 10:28 >そして伊藤と安がワイヤアクション。

ちょっと見てみたいと思ってしまいました(笑)

hokke-ookamihokke-ookami 2009/11/05 02:43 bogus-simotukareさんへ
>・伊藤博文だけじゃないと思いますけどね、明治維新の志士で若い頃に暗殺を行っていたのは。

はっきりいえば、「志士」自体が尊皇派の暗殺者を美化した呼称でもあると思います。

>黙認も同罪と考えれば、むしろ真っ白の人間の方が少ないのでは?

その辺、勝海舟という幕府方の政治家を推した半藤氏の意図を斟酌するべきかもしれません。
ただ、明治維新とは、しょせん侍という武力を用いる支配階級内部において、傍流だった勢力へ権力が移っただけということを象徴することとも思います。個人的には、今夏の「政権交代」を思い出します。

>・白洲の順位が高いのは文春の読者だからでしょう。岩波「世界」読者とかに聞くとまた違うんでしょうね。

その場合、何というか『世界』の読者層の方が“変”ではあるでしょうね。こういうアンケートは実質的に知名度問題であったりするので、読者数が広く多い『週刊文春』に比べ、『世界』にはマイナーな歴史人物が登場しそうです。

くま(仮)さんへ
>・伊藤博文は『坂の上の雲』便乗商法でいまこそやるべきやと思いますね。

実際、本家NHKでやりそうな感じはあります。もともと自社作品に便乗したドキュメンタリーを濫発する傾向にあります。

>・そらそうと実は韓国と日本「以外」の国が撮ったほうが面白いものができるのかもしれませぬ。具体的に言ってロシア(監督は月並ですがシャフナザーロフあたり)か北朝鮮か中国で。

北朝鮮はすでにありますから、中国あたりは面白そうですね。日本が中国、朝鮮半島が台湾を暗示するような内容になりそうです(面白そうの意味が違う)。

>そして伊藤と安がワイヤアクション。いやそれ違う。

維新志士がワイヤーアクションする映画は、最近の邦画で実際に作られてもいいと思います。
いや安と伊藤でワイヤーアクションするところを想像してみると、『マトリックス』のような映像しか思い浮かびませんが、志士と新選組あたりの殺陣でなら面白いものができそうだなと。

匿名さんへ
情報ありがとうございます。

スパム対策のためのダミーです。もし見えても何も入力しないでください
ゲスト


画像認証