法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『雨月物語』

見ておかなければならないな、と以前*1に日記で言及した幻想映画。江戸時代に書かれた同名の古典連作幻想小説から、主題が重なる二編を選んで一繋がりの物語として再構成したもの。
溝口健二監督作品を見ること自体が初めてなのだが、なるほど現在の目で見ても娯楽作品として充分に楽しめる。霧中を進む前半の舟、屋敷の暗がりにて姫にとりこまれる中盤、後半の娼館での意外な再会、そして抜けるような白昼の下で廃墟と化した大屋敷……舞台ごとの見せ場がはっきりしていて、短い上映時間ながら長い月日と長い距離を旅した感覚も十全に味わえる。そしてそれゆえに、夢破れて故郷へ戻った終盤が感慨深く、喪失感を強める結末が胸に落ちる。
黒澤明監督作品より台詞も聞き取りやすいところも嬉しかった。かなり古い白黒映画ではあるが、役者の肉体から演技、衣装まで差別化が行き届いており、見ていて混乱することがない。


ただ、予想していたより引きの構図が少なくて、群集や美術も現在では珍しくない程度の物量しかなかった。予算を投じた大作ではなく、文芸性を前面に押し出した作家性の高い作品でもなく、手持ちの技術をおしみなく注ぎ込んで完璧に構成した娯楽小品といったところ。
男が全てを知る結末の特撮も、撮影方法がわからない観客はいないだろう。もちろん、視点の移動を自然に見せているので、撮影方法を理解しつつも作中の幻想に酔うことはできるわけだが。

『いぬのえいが 特別版』

犬と人の関係を主題とした連作映画。日本テレビ系列で「火曜サスペンス劇場」の後枠に作られた2時間ドラマ枠「DRAMA COMPLEX」で放映された版。録画していたので、今さらながら目を通してみた。
映像自体は気のきいたTVドラマ程度で、泉ピン子が声優を担当した犬が各話の解説をしたり、『伝説の秋田犬 ハチ』の宣伝が最後についていたり、しょせんは2時間ドラマ枠といった印象が強い。俳優が犬の思い出を語る映像は特別版限定らしく、おかげでメイキングを見ているような楽しみがあった程度。
しかし各話は案外とバラエティに富んでいて、もちろんペットとの愛をひたすら賞揚する描写は多いが、人の一方的な思い込みを皮肉る話もある。冒頭の話からして、スポンサーや女優サイドの要求によってペットフードCMの内容が無茶苦茶になるという、TV放映するにはアグレッシブな内容だ*1。泣かせようというあざとさが前面に出た最後の話も、対する批判的な視点が先の話で描かれているから、さほど忌避する気分にならなかった。
ついでに、後に『崖の上のポニョ』の主題歌を歌う大橋のぞみが出演していたことも、少し驚いたな。


本来の作品では話の順番が異なる上、アニメで描かれた回もあったらしい。
『いぬのえいが』がやって来る [犬] All About
しかも上記の紹介によると、愛されているペットの日常を描いた1部と、その後に愛を失ったペットの日々を描いた2部に分けられているという。特別版に残った話でも、人側の勝手な思い込みや、一方的な愛情の押しつけは描かれている。しかしペットがペットでなくなる後を描いた社会的な視野も、できれば見ておきたかった。


なぜ見たかったかというと、私がアニメ好きということもあるが、何より犬が人と同じような感情と知性を持っているかのような描写が、どうしても気にかかったからだ。特に特別版では泉ピン子犬が話の合間に語り続けているので、擬人化された犬で人のありようを間接的に描く物語にとどまっている。アニメでは描けているらしい人と犬の非対称性が、少なくとも特別版では存在しないのだ。
もちろんフィクションだからこその描写であるし、「バウリンガル」で人と犬が実際に会話する話で皮肉も描いている。しかし人が身勝手に獣を擬人化し、代弁者として利用する構図は、イルカに高い知性を見いだす人々の問題とも通じている。
そう、『いぬのえいが』はフィクション映画だが、『ザ・コーヴ』はドキュメンタリー映画だ。やはりニューエイジとの関係性はいずれ批判しておきたい。

*1:そのため、ED後にテロップで架空のペットフードであるという断り書きもされていた。

『怪談レストラン』きもだめし/おかえり、あなた!/すごい手相

EDで百物語を流す構成は固定か。
優しい幽霊綺譚「きもだめし」、死別した夫が帰ってくる「おかえり、あなた!」、刹那の幸福を味わう「すごい手相」と、3話とも死とかかわりながら不思議と小さな幸福も描かれる。
今澤哲男の演出もなかなか幽玄な感じを出していて、子供向けホラーアニメとして悪くない。いくらでも驚かせる演出ができそうな物語なのに、激しい場面はせいぜい悪魔の発現くらい。特に「きもだめし」は地面が青白く発光する絵面も面白く、しっとり終わる雰囲気が上々だった。季節感がよく表現できていただけに、今の時期に放映していることが残念なくらい。