法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

愛らしいキャラクターが戦争に直面するアニメ12

『Cat Shit One』と『ペンギンズ・メモリー 幸福物語』と - 法華狼の日記で言及した範囲で見当たらなかった作品をいくつか例示してみたい。政治的な正しさについての評価は避ける。
そもそも、アニメという手法で描かれたキャラクター自体が何らかの愛らしさを持っているという固定観念を持たれやすく、スタジオジブリ作品も同様のまなざしをもって受容されている面もあるだろう。さらに日本アニメの黎明をになった『鉄腕アトム』『鉄人28号』等のマンガ作品からして、デフォルメされたキャラクターで戦争を色濃く描いていたといえる。むろん戦前の『のらくろ』シリーズ等の存在を外すことはできない。
そこでとりあえず、戦争描写の質や重要性が作品全体や固定観念と何らかのギャップを感じさせたことを基準として、いくつか選んでみた。プロパガンダ作品の類いは作品外部からの要請で戦争を描くことが要請されるため、今回は意識的に外した。ビジュアルイメージを確認できるよう、できる限り公式的なサイトも合わせて紹介する。

デジモンクロスウォーズ』

テレビ朝日系列で火曜19時27分から放映中。『ポケットモンスター』的な使役ゲームを原作としたアニメだが、使役対象が複数おり、相互に合体すると言う設定から、主人公が指揮官としてふるまうよう求められる。いきなりこれかよと思われる人もいるだろうが、もともとSF色が強く激しいアクションも描かれたシリーズではあるものの、異世界冒険物の色が濃かった歴代シリーズと異なり、戦争という要素を前面に押し出す企画に驚かされた。
デジモンクロスウォーズ-digimon xros wars-公式サイト 東映アニメーション
多くのデジモンが人間と会話可能で*1、一見して使役されているデジモンにこそ戦う動機があることから、使役対象と人間が契約関係にあるところが戦争らしさを生んでいるところも面白い。初回冒頭の総力戦イメージも、なかなか迫力ある映像だった。

SDガンダム三国伝 BraveBattleWarriors

「SD」つまりコミカルにスーパーデフォルメされたロボット兵器が三国志演義を演じる。歴史的にはシリアスなドラマの兵器が擬人化された作品と見ることもでき、そのねじれが興味深いと感じる。史実を基にした古典的な虚構を模した物語なので、コミカルに話が展開しても違和感は少ないが。
トゥーンシェードされた3DCGと手書き作画の違和感なき融合は、地味にレベルが高い。バンダイチャンネル等で4週分無料配信中。
SDガンダム三国伝 BraveBattleWarriors | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス

トラップ一家物語

主人公が様々な苦難に直面する世界名作劇場だが、この作品の終盤には衝撃を受けた人が少なからずいたようだ。
原作から想定されてしかるべき展開ではあったが、世界史で学ぶような大きな戦争、この日本も無縁ではなかった全体主義体制の圧力によって平和だった一家が苦難の道を進む姿は、対比によるギャップがあったといえるだろう。
http://www9.nhk.or.jp/anime/trapp/
第36話のサブタイトルが直球。

今、そこにいる僕

大地丙太郎監督の黒い面が出たWOWOW放映アニメ。現代版『未来少年コナン』かと思わせるアクションのコミカルな楽しさもあったが、最終的には狂気を増していくハムド様が全てをかっさらった。
http://www.geneon-ent.co.jp/rondorobe/anime/imaboku/
高橋良輔が協力した大地丙太郎作品はシリアス度がひどい。

『STRANGE DAWN』

佐藤順一監督の黒い面が出たWOWOW放映アニメ。異世界に行った少女2人が、妖精同士の戦争にかかわることとなる。ビジュアルイメージは公式サイトで確認できるが、デフォルメされた愛らしい妖精が本気で争う世界観は凄いの一言。
http://www.geneon-ent.co.jp/rondorobe/anime/st-dawn/
映像イメージと音楽は素晴らしかった。

『BRIGADOON まりんとメラン

米たにヨシトモ監督によるWOWOW放映アニメ。一時期のWOWOWアニメはこんなのばっかりか。
高度成長期を舞台としていることもあって、下町で貧乏暮らしをしているマンガチックなキャラクター*2が精神的に追い詰められていく。ベトナム戦争や太平洋戦争への言及もある。
異世界との望まぬ衝突や、穏やかに崩れゆく世界のイメージが素晴らしかった。戦争そのものではなく銃後の日常が描写に引用されているところがアニメ作品では珍しい。
http://www.sunrise-anime.jp/sunrise-inc/works/detail.php?cid=131*3

魔法少女隊アルス

NHK教育の子供向けバラエティ番組『天才てれびくん』内で放映された。魔法界に紛れ込んだ少女アルスが、現地の魔法少女達と協力したり反目したりしながら、世界の衝突を回避しようと動く。
異世界に紛れ込んだ人間がトリックスターとして救世主の役割をになわされるという類型的な物語だが、雨宮慶太原案でスタジオ4℃制作なのだから普通のファンタジーになるはずがなかった。
http://www.tfc-anime.net/tweeny-witches/index.html
いかにもNHKらしく、重たい展開を躊躇なく見せた印象深い作品。プレスコは効果的といいがたかったものの、作画演出も素晴らしかった。

シリウスの伝説』

サンリオ制作の長編アニメ映画。ファンタジックな世界観に立ちつつも、物語は児童文学の冷徹さを持つ。大状況に翻弄され、共同体を越境しようとして放逐される主人公達に戦争の類型を見いだすことは難しくない。
http://shop.sanrio.jp/cm/cmc-719161/
日記を書き始めたころに感想を書いたことがある*4。思えばこれも高橋良輔がらみだ……

ドラえもん のび太とアニマル惑星』

まさに動物擬人化の様々な問題を自覚的に描いた、藤子・F・不二雄の傑作長編を映画化した作品。擬人化された動物が社会を形成するにあたっての障害を、ていねいに一つ一つSF設定でつぶしていく。
映画ドラえもんオフィシャルサイト_Film History_11
穏やかな日常が侵食されていく恐怖から、侵略者により壊滅した都市の様相、ゲリラ的に抵抗するドラえもん達の作戦まで、往年の戦争映画を思わせる見所も多い。アニメ独自の解釈として、敵首領の素顔をわざわざ美青年に設定したところが印象深かった。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』

戦国時代の名もなき戦いを描いた傑作時代劇映画。かつて『クレヨンしんちゃん』は制作者の作家性が自由に出ていた作品だが、この作品は極北の一つといえるだろう。心を通わせた人の死を描いたこと、主人公の無力さを最後につきつけること、シリアスなテーマを描いてきた映画シリーズでも描かなかった要素を正面から描写したことには、やはり相応の衝撃があった。
http://product.bandaivisual.co.jp/web_service/shop_product_info.asp?item_no=BCBA-1746
もともとマニアックな描写が多い歴代シリーズだが、この作品で緻密に描かれた現地のリアリティは突出している。

鉄人28号 白昼の残月』

今川泰宏監督による2004年版のTVアニメを基にしたアニメ映画。先述したように原作からして『鉄人28号』は戦争の臭いを残しているわけだが、今川泰宏監督はそれを作品の前面に押し出し、いまわしき時代の遺物として鉄人28号を描いた。いくらあらかじめ存在する要素とはいえ、ドライな原作からは想像もできないほど重い主題として戦争をとらえている。
結果として娯楽活劇らしさが薄まり*5、主人公の存在感も減ったわけだが*6、映画ではさらに主人公を背景化することで狂言回しの役目をになわせ、逆に完成度を高めた。
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映画作品なので作画も相応に良く、どんでん返しもうるさくなくまとまっている。

風が吹くとき

ジミー・T・ムラカミ監督によるアニメ映画。原作絵本通りの淡々とした描写を積み重ねて核戦争後の日常を映す。意図的なギャップをねらったのではあるだろうが、あくまで柔らかな映像と、その背景に起きている出来事の対比表現は見事。
ドメインパーキング


連続アニメで戦争を単発で描いたアニメ作品にも重要な作品はあるが、多すぎて煩雑になるので外した。とりこぼした作品も多くあると思うので*7、個別に指摘していただけたら嬉しい。

*1:使役ゲームの嚆矢である『ポケットモンスター』で台詞をしゃべるレギュラーポケモンニャースくらいで、残りは映画で敵となるポケモンばかり。少なくともアニメの『デジモン』シリーズは使役される側が主体性を持つことで、『ポケットモンスター』と全く異なる道を進んだ。

*2:原案は水玉螢之丞

*3:まともな公式サイトが見つからない。放映当時はWOWOWサイトで充実したコンテンツがあったのだが。

*4:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20070529/1180455777

*5:予算や制作会社の問題もあった。制作会社であったパルムは後に倒産している。

*6:それでも導入部分の第2話までは、良くできた作品だったと思う。

*7:たとえば『かんなぎ』を入れても良かったかもしれない。