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法華狼の日記

2010-07-31

[][][]「10万人の宮崎勤」におけるTV局の現場不在証明

漫画即売会コミックマーケット、通称コミケの参加者を指して「10万人の宮崎勤」とTV局が表現したという話がある。

しかし当時でも個人による映像録画が可能だったというのに、現在まで明確な証拠は見つかっていない。

Wikipediaの記述以降に発言者と目された東海林のり子説は本人が否定し、記述の具体的な誤りも指摘していた。

YOUTUBEで映像を見たという「記憶」を主張する人も数名いるが、該当する映像が示されることはない。実際に目撃した記憶があっても必ずしも事実ではないことは、様々な冤罪事件や心理学が示している。似たような話として、WEB上で「福島瑞穂の迷言」というデマが検証されたエントリも紹介しておこう。

「福島瑞穂の迷言」という都市伝説について(事務所コメント付) - 荻上式BLOG

続・「福島瑞穂の迷言」というコピペについて - 荻上式BLOG

現時点では「10万人の宮崎勤」とTV局が報じた話が都市伝説と考えざるをえない。


ここで、当該の表現を用いた報道機関は、TV局ではなく活字メディアではないかという説がある。

続「10万人の宮崎勤」伝説はどこまで真実か - 日々のものごと日記(政治問題中心)

404 おさがしのページは見つかりませんでした - はてなハイク

どちらも根拠は別冊宝島の『おたくの本*1に寄稿した米沢嘉博代表の文章だ。

ここに十万人の宮崎がいると書いたマスコミもあった。

コミケ代表による事件直後の文章であることや、実際に埼玉新聞に類似した表現が見つかっていることから*2、より正確な情報と見なして良いのではないだろうか。

これらの検証をまとめたエントリも連続で上がっている。

はてなブログ

「10万人の宮崎勤」発言は都市伝説なのか(車輪の再再発明) - 愛・蔵太の気になるメモ(homines id quod volunt credunt)


しかし上記まとめ等では指摘されていないようだが、少し前にMoominwalk氏が時系列の関係から、当時のTV局がコミケに取材することが物理的に不可能である可能性を指摘している。

はてなダイアリー

宮崎勤は1989年7月23日の時点で逮捕されているが、これは幼女への猥褻行為を働こうとしたところを取り押さえられたもので、同時点では幼女連続殺人犯=宮崎勤とは警察でもわかっていなかったからテレビや新聞に宮崎の名前が出る事はなかった。宮崎が殺された幼女のうちの1人について関与を認め、実名が新聞に出たのが8月10日夕刊時点である。さらに幼女2人について殺害関与を自供したのが8月14日深夜で、8月15日朝刊にてこれらの件は報じられた。

宮崎勤とコミケとの関係を最初に指摘したのは毎日新聞であった。8月16日の朝刊で晴海で3月に行われたコミックマーケットに宮崎が「E.T.C大腕」の名前で1人で参加して友人には同人誌6冊が売れたと語っていた事を報じ、8月13、14日のコミケには抽選で落ちていた事も伝えている。同記事ではこれらの事は8月15日にわかったとしている。また同記事はコミケそのものには特に批判的ではない。

もちろん殺人自供自体は8月10日であり、すでに幼女連続殺人事件で加熱していた各報道機関は、容疑者自宅への取材を当日に行なったという指摘もある。

404 Not Found - プロバイダ あなたに、プラス アルファインターネット

8月10日、自供通り、東京都奥多摩町の山林で野本綾子ちゃんの頭部が発見される。

同日、マスコミが宮の自宅に押しかけ、宮の父親が宮の自室を公開した。約6000本のビデオと多数のマンガが部屋中を埋め尽くし、窓までつぶしてしまった異様な光景は人々に衝撃を与えたが、以後、宮は「オタク」と呼ばれるようになる。

しかしながら、殺人が自供された日とコミケの開催日が接近しすぎていることは、当日にTV局が乗り込む困難性を示唆しているとはいえるだろう。事件全体の構図を各報道機関が把握して解釈し、コミケと容疑者を安易に結びつける時間は極めて少なかった。

こうなると、slpolient氏とy_arim氏が『おたくの本』に基づいて指摘したように、コミケが無事終了した後日に活字メディアで用いられた表現が虚偽記憶や伝言ゲームで変容し、コミケ全体を犯罪者であるかのようにTV局が見なしたという都市伝説になった可能性が高い、と暫定的に考えて良いのではないだろうか。

*1:以前に何度も読んだ書籍だが、当該表現は印象に残らなかった。

*2:slpolient氏のエントリと『コミックマーケット30'sファイル』を介した曾孫引きだが、「10万人が集まったコミケ会場の中の一人だった宮崎、幼女を殺害した彼と、他のビデオ・アニメファンとの違いは何だったのか…」という表現だったそうだ。都市伝説と違って容疑者と他の参加者を区別しており、さほどコミケを悪魔化したものではない。

y_arimy_arim 2010/08/01 23:02 んん?
となると、ぼくが引用した米沢氏の文章であれほど明確に、
「八九年夏のコミケット36には一万サークル、十二万人近い参加者が集まったのである。――しかし、そこには好奇の目を持ったマスコミ、テレビ局が次々と押しかけた。その三日前に、幼女誘拐殺人の容疑者宮崎が捕まり、彼がアニメファンであったことにマスコミは飛びついたのだ。
 
 テレビ局の取材の最後にはつねにこうつけ加えた。
 
「何が宮崎を作ったかと、強いていうならば、それはテレビでしょう」と。」
と書かれているのはいったい何だという話になる。しかもこのあと、取材に対してどういうコメントをしたかが詳細に述べられ、「だが、そうした発言はすべてカットされ、放送されることはなかった」と書かれている。
この文章、89年のうちに著されたものだ。このあたりについても「より正確な情報」と見なしてよいのではないだろうか。というか、むしろid:Moominwalk氏に対して指摘すべき話かなこれは。

hokke-ookamihokke-ookami 2010/08/02 01:45 わざわざコメントしていただいてすみません。ブックマークでkanose氏らも批判していますが、確かにTV局も取材に来ただろうこと自体はほぼ明らかでしょう。それを明確に表記せず、逆に「困難性」と微妙な表記を用いたことは私の誤りです。

「困難性」と書いた意図は、問題発言するだけの分母が存在したかという疑問ということです。そして……

>事件全体の構図を各報道機関が把握して解釈し、コミケと容疑者を安易に結びつける時間は極めて少なかった。

……私自身の暫定的な結論へ繋がる主な理路は、上記の文章です。アニメファンやマンガファンに対する様々な偏見が存在し、現に後で安易な結びつきが行なわれたとはいえ、数日で悪魔化する筋立てを作って現場へ乗り込む時間はあったのだろうか、という疑問です。別件で取材するはずが、急きょ刑事事件についてのコメントも代表に求めた、というケースの方が想定しやすいです(当時のTVメディア内部や、コミケ内の広報担当者でないと真相はわからないでしょうが)。
たとえばオウム事件などでも、主要メディアは即座の悪魔化は避けていましたよね。上祐氏らを呼んで教団側の見解も電波に乗せたり(むろん、教団の立ち回りが巧かったことや、宗教団体を問題視することへの恐れなども要素としてあったでしょうが)。週刊誌などの、まさに活字メディアにおいては教団を徹底批判し悪魔化する記事が当初からありましたが、これもTVメディアと活字メディアの分母の違いが一因としてあるでしょう。
ゆえに、コミケ終了後での活字メディアにおける表現という可能性が、ずっと高いだろうと暫定的に思うわけです。

ちなみに、当該のTV局発言を描いたイラストがかつて存在し、それが虚偽記憶を作ったという可能性も考えていましたが、とり・みき氏も明確に自身がマンガ化したことを否定し、実際に報道された記憶もないと証言しているようですから、これは微妙ですね。

菜々氏菜々氏 2010/08/02 09:23 1989年に漫画アクション誌で発表された「シャッター」という漫画(作画:はやせ淳)に、コミケと思われるオタクイベントに参加した主人公の一人が、それを宮崎勤の大群であるかのように表現し、他の登場人物もそれに同調するというエピソードがあります。この漫画は決して影響力のある作品ではありませんし、いわゆる「俗流若者論」べったりの作品ですから、先行して同様の認識が何らかのメディアに発表されたものと思われます。

菜々氏菜々氏 2010/08/02 09:26 「参加した」というより「取材した」ですね。漫画「シャッター」は写真週刊誌の記者たちが主人公の、その時々の社会風俗や事件を題材にした漫画です。

菜々氏菜々氏 2010/08/02 09:26 「参加した」というより「取材した」ですね。漫画「シャッター」は写真週刊誌の記者たちが主人公の、その時々の社会風俗や事件を題材にした漫画です。

hokke-ookamihokke-ookami 2010/08/02 23:33 >コミケと思われるオタクイベントに参加した主人公の一人が、それを宮崎勤の大群であるかのように表現し、他の登場人物もそれに同調するというエピソードがあります。

紹介ありがとうございます。よりによってマンガの主人公達がそういう態度をとるのは随分とねじれた描写ですね。
私が記憶に残っている範囲では、土田世紀『編集王』もマンガ即売会のエロ同人誌に対してマンガ編集新人の主人公が嫌悪感を持ち、参加者を罵倒する場面がありました。しかし少なくともこちらは前後の描写と合わせて、多くの葛藤を組み込んでいたものです。

>いわゆる「俗流若者論」べったりの作品ですから


検索してみると原作は矢島正雄とのことですが、私が読んだ『人間交差点 HUMAN SCRAMBLE』も、何というかきつい作品でしたね。
古い作品のようですから、いずれ『おたくの本』と合わせて古書店などで探してみましょう。

なまなま 2010/08/05 21:00 こんな動画がありました。
http://www.youtube.com/watch?v=z8LcuEb67jY
1:52ぐらい
コミケなのか?

hokke-ookamihokke-ookami 2010/08/05 23:49 興味深い映像の紹介をありがとうございます。
切断処理にせよ、同じビデオマニアからの凶悪犯を批判する言葉をいったん報じたという点では、持ち上げて落とすという態度に近いですね。

namdanamda 2010/08/13 22:58 1990年代から既に言われていた件ですが、都市伝説とするには
現在における物差で、過去を計った意見にも思われます。
当時から生中継は、普通にありましたからね。
ただ、その当時にビデオを録っていた方がいるとすれば
その多くのテープが、経年劣化で癒着してしまい
再生不能になっているでしょう。
証明が必要とするならば、テレビ局に保存してあるはずの
1989年の夏コミか冬コミの番組録画テープをテレビ局で
直接見るしかありませんが、既に修正済かと思います。

hokke-ookamihokke-ookami 2010/08/14 00:53 >1990年代から既に言われていた件ですが、都市伝説とするには
>現在における物差で、過去を計った意見にも思われます。

現在でも過去でも、きちんとした資料が残されていない出来事の事実性に信頼をおけないという物差しは共通しているでしょう。
そもそも、この都市伝説についていえば、今のところテレビの報道で見聞きしたという証言は、当該コミケの後日にしかなされていないのであり、都市伝説を主張する側もまた現在の視点で過去を語っているわけです。
なお、都市伝説には事実が核となっている場合があります。今回もテレビではなく文章媒体で類似した表現が用いられていると推測されているわけで、「都市伝説」という言葉は適切な表現だと思いますが、いかがでしょう。

>証明が必要とするならば、テレビ局に保存してあるはずの
>1989年の夏コミか冬コミの番組録画テープをテレビ局で
>直接見るしかありませんが、

証明とまでいかなくても、テレビで当該発言が存在したという主張の初出をさかのぼっていくことができれば、高度な推測が成り立つと思いますよ。

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