法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』

映画『ワンピース』10作目にして、初めて原作者がストーリーを書き下ろした。TVで視聴。
本編ノーカット放映とのことでOPかEDはカットされているかと思えば、OPはもちろんEDも細かいスタッフクレジットを確認でき、劇場公開時にはなかったED後の場面まで放映された。


まず、予想外に物語がまとまっていた。説明台詞にたよることなく、かといって説明不足*1にも観念的にもならず、きちんと娯楽映画になっている。展開にも冒頭のナミによる回想説明を除いて、ほとんど無駄がない。
物語の本筋は、ナミが女性として航海士として仲間として争奪対象となる単純なもの。しかしナミは自我を持って能動的に動き、より救出の緊急性を高めたかと思えば逆転の一助となったり、物語を動かす1人として魅力がある。他の主人公も敵も目的意識に忠実で迷いがない。そうしてアクションやエロスといったサービスシーンを繋いでいき、娯楽作品として筋を通す。
葛藤のないメインキャラクターの代わりに、敵に支配された村を出したところも良かった。支配者が別の場所を攻撃するため村から去るということを、村人は助けた主人公達に語って喜ぶが、後に別の場所こそ主人公達の故郷と知る。悪が目前から去るだけのことを無邪気に喜ぶだけでいいのかと、観客の想像力を問う。さすがにそれ以上は衝突を深く掘り下げず、知った後で悔恨する村人の善良さを主人公は素直に賞賛するわけだが、そうして主人公が仲間以外へ視野を広げて敵の非道さも印象づけられることで、狭い舞台で1人を争奪するだけの物語がスケールアップした。


作画はスタジオコクピットの佐藤雅将*2がキャラクターデザインと作画監督を担当。原作に似たデザインで良作画だったのにTVアニメと異なる画風で不評だった『オマツリ男爵と秘密の島』と違い、TVアニメと原作の画風を両方とも取り入れて最大公約数の画風を見せる*3。これはこれで正しい意味の「劇場版」。
コンテや作画監督補佐の多さから現場の苦労がしのばれるが、よく全体の映像はまとまっていて、むしろ起伏が足りないと感じたくらい。志田直俊*4が担当した、伸びやかな身体が流麗に動くルフィとシキの対決がわかりやすかったくらいかな。


最後に、芸能人声優について。
伝説的なキャラクターに見せて、実は負けを認められなかった過去の遺物と明らかになっていく「金獅子のシキ」を竹中直人が好演。さすが何度となくアニメ作品でメインキャラクターを演じてきただけあって、少し本人の顔が思い浮かびつつも、聞きごたえがあった。
一方で酒場のウェイトレスは、状況をメインキャラクターへ説明するための長台詞があり、聞き苦しかったのが正直な感想。「ウフフ」を声に出して笑う演技は、キューティー鈴木の「クスクス」を思い出させてくれた。全体にそつがない中で、この酒場シーンは悪い意味で印象に残ったよ。

*1:しかし最後に村人が飛べたところは、もう少し説明描写が必要だったかも。

*2:東映作品では『Xenosaga THE ANIMATION』で総作画監督として全体のクオリティを底上げした仕事が印象に残る。

*3:色指定が原作に近づいたのは、この映画で初めて『ワンピース』にふれたスタッフが、製作総指揮としてアニメ制作へ力を入れた原作者と協議を重ねたという背景もあった。辻田邦夫コラムで語られている。http://www.style.fm/as/05_column/tsujita/tsujita111.shtml

*4:最近ではTV『ワンピース』での原画や、キュアパッションキュアサンシャインの変身シーンが代表作。TVでも映画でも同じくらいのクオリティで自分色を出した作画を数多く手がけながら、良い意味で印象に残るところは、まるで往年の金田伊功だ。