法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『デジモンクロスウォーズ 時を駆ける少年ハンターたち』第56話 生徒たちが消えた!ゆらめくサゴモンの影

主要スタッフが同じ『ゲゲゲの鬼太郎(5期)』と全く同じノリ。サゴモンのデザインも烏天狗っぽい。


デジモン同士の師弟関係が、人間同士の師弟関係と重なりあう人間関係描写は良かった。味方同士のバトルが始まるかと思わせた前回から、良い意味で肩透かししながら、新主人公の目標を印象づける。
一方で主人公のドラマに尺を使いすぎていて、サゴモンに願望を利用された子供たちの解決は、しごくあっさりしたもの。今回は今作におけるデジクロスの意味と、主人公の人間関係ドラマだけで物語を構成しても良かったんじゃないかなあ。

『機動戦士ガンダムAGE』第1話 救世主ガンダム

日野晃博脚本はさておいて、山口晋監督によるコンテ演出はなかなか良かった。ここまでアニメーションの快楽を初回から押し出した作品は『ガンダム』シリーズで初かもしれない。漫然と作画枚数を消費するのではなく、緻密さを目指すのでもなく、キャラクターのコミカルな動きや、兵器の巨大さを率直に映像化していた。
何より、長台詞が棒立ちのキャラクター描写で目立ったり、空間が明らかに矛盾するような、粗のあるカットが見当たらない。



実は、『ガンダム』シリーズの監督で、アニメーター*1出身と呼べる演出家は極めて少ない。初代以降の多くを手がけ、原作者でもある富野由悠季監督からして、制作進行出身だ。
他にも『機動武闘伝Gガンダム』の今川泰宏監督はいきなり演出家として実作業を始め、『新機動戦記ガンダムW』の池田成監督もアマチュア時代に経験をつんでいたので演出デビューは早かった。『機動新世紀ガンダムX』の高松信司監督も制作進行出身、『機動戦士ガンダムSEED』シリーズの福田己津央監督は設定制作、『機動戦士ガンダム00』の水島精二監督も撮影や制作進行。
OVAに目を移しても、『機動戦士ガンダム0080ポケットの中の戦争』を手がけた高山文彦監督は演出業以前では撮影業が多い。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』等の加瀬充子監督も主要キャリアは演出からで、今西隆志監督は制作進行出身。『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』の神田武幸監督は制作進行後に演出家へ転身。
宮崎駿に薫陶を受けた関係でアニメーター出身の印象がある飯田馬之介監督もいるが、実質的に原画や作画監督として活躍していたのは『機動戦士ガンダムSEED C.E.73 STARGAZER』という短いOVAを手がけた西澤晋監督と、最新作のOVA機動戦士ガンダムUC』を手がけている古橋一浩監督くらいだろう。


しかし西澤監督は下記のページをサイトに掲載していることからわかるように、緻密なレイアウトを特長としている。古橋監督も画面全体の制御が巧みだが、逆に必ずしもアニメーションの快楽が突出しているわけでもない。
http://members2.jcom.home.ne.jp/0914488901/anim.html
アニメーター兼演出家として、『ケロロ軍曹*2等で精力的に元気一杯な画面を作っていた山口監督が抜擢された意味は、『ガンダム』の歴史においてかなり大きい。
もちろん過去の『ガンダム』でも、子供やマスコットキャラクターの描写では、コミカルなアニメーションを用いたりしていた。初代の序盤は安彦良和アニメーションディレクターが富野監督を超えかねないほど画面を制御していたことも確かだ。
しかし、作品の方向性として職業アニメーターが監督という立場になることで、終盤になるにつれて観念的になったりアクションが弱くなっていった『ガンダム』シリーズが、一つの転機を迎えられるかもしれない、そんな期待ができる初回ではあったと思う。


どこかで見たような内容ばかりとはいえ、初回だけで主人公の来歴から目的意識、世界観の提示、敵の脅威、ガンダムの活躍まで並べてみせた日野脚本も、ロボットアニメの見せ場を必要充分に作るという基準においては、合格点を超えていたと評価したい。子供の万能感をくすぐる主人公像も、ここまで照れがないとエンターテイナーとして特色といえるだろう。
いささか細部は粗雑で、たとえば主人公が自身で開発したガンダムの性能をよく知らないような描写が多かったところは、深く考えずに過去シリーズの描写を引用したための矛盾だと思うが。
日野作品は『ダンボール戦機』を見る限り、見せ場というかイベントを思いついた順番に並べていく作風らしい。緊張感がシリーズを通して高まっていくような物語のうねりは期待せず、毎話を気楽に見て忘れていくのが最も健全な楽しみ方かもしれないと予想しておく。

*1:ここでは動きのキーとなる原画や、描線をクリンナップし必要な絵を補う動画、作画を修正する作画監督といった狭義の作画スタッフを指す。

*2:特に第102話の激しく舞台を変えて展開されるアクションは、演出作画ともに必見だ。