法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

ホラー映画ベストテン〜アニメ限定〜

今年もアニメしばりで参加。
2012-10-31
最初はタイトルが思い浮かばずに悩んでいたのだが、いくつかの作品を見返すと、入れたいタイトルが連鎖的に思い出されてきて、最終的には削ることに悩むことになった。


1.『ブラック・ジャック 劇場版』(1996年、出崎統監督)アニメオリジナルストーリーで制作された、医療サスペンスの傑作。超人化した人々の活躍と、その背後でうごめく陰謀と謎の病気に、無免許医ブラック・ジャックが立ち向かう。
もともと原作の初期が「怪奇まんが」というジャンルだったことや、架空の病気をあつかったメディカルサスペンスもホラージャンルにふくまれることから、この映画もホラーとして位置づけることができるはず。
バタ臭い杉野昭夫キャラクターデザインが、特異な生々しさを生んでいて、アニメでは珍しく生理的な嫌悪感が表現されていた。
さまざまな技法を駆使して、映像の統一感を損ねがちな出崎統演出も、この作品では不安感を盛りあげることに成功していた。
2.『バンパイアハンターD』(1999年、川尻善昭監督)吸血鬼ハンターD』の、2度目のアニメ映画化作品。アニメーター出身の監督には珍しく、魅力的なアクションであっても物語に不要であればそぎおとし、ハードボイルドらしい語り口を生んでいる。
吸血鬼から少女を取り戻すため、吸血鬼ハンターたちが人知のおよばない世界へとわけいっていく。その血と死と暴力に染められた旅路で、人の道から外れた者たちの醜さや美しさが、フィルムに刻まれていく。結末にいたって、カタルシスとともに強固な人格がたちあらわれ、乾いた余韻とともに物語が閉じられた。B級アクションホラーに求められる全てが入っている。
繊細かつ耽美なデザインのキャラクターが滑らかに動く映像は、一般的なアニメになじんでいる観客こそ、より生理的な恐怖を絵柄から感じられそう。
3.『ドラえもん のび太のパラレル西遊記』(1988年、芝山努監督)原作者が病気で倒れたため、西遊記というモチーフを与えられたアニメスタッフがオリジナルストーリーを作成。孫悟空の実在を証明しようとした主人公が、意図せず妖怪が実在する世界を作ってしまうという、一種のSFサスペンスとして完成した。普段は日常を舞台にしているファミリーアニメだからこそ、時間改変によって日常が妖怪に侵食される中盤の恐怖が盛り上がる。
明確な原作はないが、原作者の既存作品から細かな引用もしている。たとえば玄奘三蔵は原作者の別作品『T・Pぼん』から引用しており、知力体力胆力の全てをそなえた聖人として描かれた。実在の冒険者としての三蔵法師がいるからこそ、過去世界にもリアリティが生まれ、妖怪が暗躍することへの恐怖も盛り上がる。
プログラムピクチャーの枠内で完成しながら、人間の姿をした敵が死ぬという意欲的な描写もある。『魔界大冒険』と『夢幻三剣士』をつなぐミッシングリンクとして、原作にも影響を与えた傑作。

4.『パーフェクトブルー』(1998年、今 敏監督)今敏監督の初監督作品であり、アニメファン以外にも名前が知られた傑作サイコサスペンス。アイドルから女優への脱皮をめざすヒロインが、捨てたはずの自らの影から追われ、周囲で惨劇がくりひろげられる。
虚実がいりまじりながら、最終的に脚本は理に落ちる。一見すると実写でも容易に制作できそうな作品でいて、クライマックスの演出をリアリティレベルをたもったまま展開できたのは、アニメならでは。アイドルを軽薄な存在のままサイコサスペンスの世界観で描くにも、アニメという二次元の表現が効果を上げていたと思う。
しかし、きちんと教科書通りな娯楽作品として完成しているからこそ、新奇性が目立たない感もあった。好きというより、巧いと感じる作品。

5.『風の大陸』(1992年、真下耕一監督)超古代を舞台としたファンタジー小説のアニメ化。プロダクションIGの前身であるアイジータツノコが制作した。
併映作品のため55分ほどしか尺がない中編映画なのだが、ダンジョン攻略を主軸とし、ホラーの枠組みを利用したことで、世界観を広げすぎずに物語がまとまった。
雰囲気優先の演出に不評も多い真下監督だが、ファンタジーホラーという雰囲気が重要視される作品では最適。
作画の良さにも助けられていた。いのまたむつみキャラクター原案から、その艶を残したまま結城信輝がアニメ用にキャラクターデザインを起こし、黄瀬和哉作画監督としてデザインに忠実な映像を作り上げている。

6.『劇場版xxxHOLiC夏ノ夜ノ夢』(2005年、水島努監督)CLAMP原作マンガのTVアニメ版を制作していたスタッフが、アニメオリジナルストーリーでアニメ映画化した。制作はプロダクションIG
ビル街の底にある奇妙な店で客の悩みを解決する女主人と、その下働きをさせられている学生が、不思議な洋館に招待される。同じように招待された様々な蒐集家とともに体験した、一夏の出来事を描く。死や血はほとんど描かず、ただただ人々のエゴをむきだしにする「奇妙な味」の中編映画。
原作者が同じ世界設定で同時連載していたマンガのアニメ映画化『劇場版ツバサ・クロニクル 鳥カゴの国の姫君』と同時上映され、作品が相互にクロスする描写もある。そのためか尺は1時間しかないが、迷宮のような洋館に舞台を限定することで、綺麗に話がまとまった。
CLAMPの絵柄を再現した黄瀬和哉のキャラクターデザインも面白い。あえて細長い頭身のまま描き、昆虫のようなクタクタした動きがコミカルだった。同時に、悪夢的な描写においてはアニメーターの個性が発揮され、アニメーション好きにとっても文句なし。キャラクターで遊び、背景美術で恐怖をかもしだすという、映像のバランスが良かった。

7.『Blood the last vampire』(2000年、北久保弘之監督)プロダクションIGが原作のメディアミックス『Blood』シリーズ。その先鞭をきった48分の中編映画。もちろん制作もプロダクションIG
シリーズは古風なセーラー服をまとって日本刀をかまえる少女という、いかにもな絵面が売りだが、本作では在日米軍基地内での泥臭い惨劇を描く。意欲的でいて完成度の高い3DCGに、国内最高峰のアニメーターを参加させながら、内容はコテコテのB級アクションホラー。内容に新味は全くないが、映像技術プロモートとしては圧倒的。寺田克也のキャラクターデザインをアニメとして動かした、黄瀬和哉作画監督も印象的。
ちなみに実写映画化した『ラスト・ブラッド』という作品もあり、見比べてみると、逆説的にアニメがどれだけ画面を計算して作っていたかわかる。

8.『迷宮物語』(1987年、りんたろう監督 他) 眉村卓作品を原案とし、3作品で構成された50分のオムニバス映画。
りんたろう監督『ラビリンス*ラビリントス』は、黄昏時の郷愁と恐怖を少女視点で描く。川尻善昭監督『走る男』は、実質的な初監督作品にして、サイケデリックサイバーパンクSFらしい恐怖が描かれた。大友克洋監督『工事中止命令』は、自動化された工事現場に派遣されたサラリーマンが、出口の見えない毎日を送る羽目になる。
それぞれ雰囲気たっぷりな「奇妙な味」の作品として楽しめる。大友監督作品が、乾いたブラックコメディとして高い完成度をもっているところは、後の作品群と異なっていて興味深い。

9.『劇場版ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』(2008年、古賀豪監督)いわずとしれたホラーマンガ『ゲゲゲの鬼太郎』の40周年記念作品。怪奇現象に悩む少女をゲストヒロインとして、日本をゆるがす巨大な敵と鬼太郎の戦いを描く。東映アニメーション制作。
歴代の『ゲゲゲの鬼太郎』映画と比べて長尺で、観た記憶のある作品の中では最も映画らしいボリュームが楽しめる。ただし先入観なしで見ると、普通のキッズアニメ映画と思われるだけかもしれない。
日常と接したゲストヒロインのエピソードと、キャラクター総出演で展開されるアクションとで、やや乖離もある。物語において関連はしているのだが、雰囲気が違いすぎるのだ。あくまでTVアニメ5期の豪華版と見るべきだろう。
東映の良いアニメーターが別作品にとられていた時期なので、作画も弱め。アクション演出に定評のある古賀監督が初めて手がけた長編映画としては残念な出来。実のところ、TVアニメ5期が好きだったので入れた。

10.『注文の多い料理店』(1993年、岡本忠成監督)パステル調の絵がそのまま動く、アートアニメーション。20分ほどの尺を5年かけて完成させた。ユーモアから徐々に恐怖を浮かび上がらせた原作を、より辛辣な味わいの恐怖譚にしあげた。



2作品が入っている川尻監督は、出崎監督の弟子筋。さらにマッドハウスという制作会社を介して、りんたろう監督や今監督とも関連がある。どの作品も、アダルティなムードのあるアニメを手がけてきたスタッフらしい、厚みのある内容。
また、意図していなかったが、中盤の3作品は共通項が多い。結果として、制作したプロダクションIGの人脈や企画の方向性が変化した過程をうかがうことができる。全て黄瀬作画監督がかかわっていることで、日本アニメの作画発展史も映像から感じられる。今回のベストテンで見返して、個人的な発見が多かった。
芝山監督と水島監督はシンエイ動画で腕をふるった演出家であり、どちらも絵が動くプリミティブなアニメの快楽を素直に作品で見せる。


以下、番外もいくつか。
ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1994年、ヘンリー=セリック監督)はホラーという印象から遠すぎたため、入れられなかった。他にも海外アニメから1作は入れたかったのだが、映画と呼ぶには悩むインディーズ作品しか思い浮かばなかった。
火の鳥 鳳凰編』(1986年、りんたろう監督)も幽玄な映像が印象深い作品。和風ホラー作品が少ないので、どこかで入れたかったが。
AKIRA』(1988年、大友克洋監督)も思い出したが、作品自体がひとつのジャンルという印象が強く、ホラーに位置づけることはためらわれた。子役が老人を演じる生理的嫌悪感や、人体がメタモルフォーゼする恐怖感は今なお突出している。
クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!』(2006年、ムトウユージ監督)は『パラレル西遊記』と同じく、もとひら了が脚本をつとめた。前半は、ムトウ監督の長所であったホラー演出が充満しており、このキャラクターデザインでちゃんと怖い。オチさえ腰砕けでなければ、ぜひ入れたかったのだが。


また、ホラーアニメは深夜TVやOVAで展開されることが多く、長編映画では狭義のホラー作品が少ない。たとえば『パーフェクトブルー』も本来はOVAとして企画された作品を、箔付けのために劇場公開したものだ。
ラージャンルで活躍した平野俊貴監督など、さまざまなOVAやTVアニメの監督を手がけながら、劇場作品を監督したことはない。もちろんOVAやTVアニメも玉石混交だが、ベストテン以上に楽しめた作品も複数ある。
鬼公子炎魔』(2006年、神戸守監督)というOVAは、実写ホラーでは多くてもアニメ作品には珍しい演出、たとえば長回しなどを多用。恐怖感においてはベストテンにあげたアニメ映画よりも印象に残っている。アクションホラーでいて、救いのない結末も両立しているところも珍しい。
『悪魔の花嫁 蘭の組曲』(1988年、りんたろう監督)も、オカルトホラーな原作を題材に、本格ミステリをスリラー調に展開していて楽しめた。
ねこぢる草』(2001年、佐藤竜雄監督)は、ほとんど台詞を排し、デフォルメされたキャラクターの、シュールな世界の旅路を描く。映像面では『マインドゲーム』の湯浅政明監督が腕をふるっており、アニメーションとしての魅力も大きい。
『BETTERMAN』(1999年、米たにヨシトモ監督)は、全26話にわたるオリジナルTVアニメで、多くのホラージャンルを越境しつつ連続ストーリーを展開した作品。さまざまなアニメ監督が演出に参加し、表現手段もバラエティに富んでいて楽しめた。
serial experiments lain』(1998年、中村隆太郎監督)は、電脳を使って人々が日常的につながる社会の断絶を予見した、深夜TVアニメとして印象深い。ちなみに中村監督も出崎監督の薫陶を受けた演出家。