法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「憲法と平和」をテーマにした展示会で、憲法の条文を展示したところ、「政治的」という理由で撤去されたとのこと

冗談のような本当の話。
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/society/42163.html

 福井市のアオッサで開かれている憲法をテーマにした展示会で、絵の具などで条文を書いた作品が「政治色が強く思想的だ」などとして、管理会社に一部撤去を求められ、主催者が応じていたことが30日分かった。

 展示会は「ピースアート展 憲法と平和」で29日に始まった。福井市で創作に取り組む河合良信さん(31)ら、県内の7人が1階の共有スペース「アトリウム」に絵画や写真を並べている。

 撤去を求められたのは河合さんの作品。9枚の半紙に戦争放棄をうたった9条や改正手続きを記した96条などを書き出し、絵画の周囲に配した。色や書体を変え、文字で円を描いたりイラストを添えるなどしていた。

条文を筆写しただけでは現代アートとして陳腐すぎるという評価なら、まだ理解できなくもない。しかし結果として、現代日本社会においては充分にアートとなりうる尖った表現だと証明してしまった。
いっそ、この報道記事のように経緯を説明した文章を展示しても面白いかもしれない。それ自体がアートとして成立してしまいそうだ。

 河合さんによると展示初日の午後、管理会社の統括責任者が「政治的な内容で気分を害する人もいる」と撤去を要請。河合さんらは「憲法を知ってもらうことは政治的なことではない」と主張したが聞き入れられず、展示を継続するために応じたという。

「ピースアート展 憲法と平和」というタイトルを知りながら、政治的でなく気分を害する人が出ないと思っていたのであれば、あまりに「平和ボケ」*1な考えであるし、ずいぶんアートも馬鹿にされたものである。
しかしこれを読むと、河合氏の釈明も微妙なところがある。一般的に全ての表現が政治的であるし、特に憲法や平和というテーマは政治と密接につながる。むろん、現状とは異なる政治的な結果をもたらそうとする意味や、最初に示したテーマから外れる政治性を指して「政治的」と表現したなら、理解できる釈明ではあるが。

 河合さんは「県内アーティストの絵画などを展示」する旨の使用届を提出していた。統括責任者は「展示の多くを条文が占め、見た限り政治色が強く思想的と感じた。美術館などと違い、展示は施設の活性化に役立つことが大前提。条文があのように張り出されると分かっていれば、許可しなかった」としている。

 アオッサは県や福井市などで管理組合をつくり、共有部分をこの管理会社に運営委託している。県は4月23日の管理運営協議会で展示を把握し、具体的な内容を確認するよう管理会社に注意喚起していた。県財産・事務管理課は「使用届だけでは内容が分からないことから(注意喚起は)通常の対応。今回は、商業施設も入った複合ビルということも踏まえた担当者の判断で、尊重したい」としている。

 河合さんは作品の構成を替え、6日の会期いっぱいまで展示を続けるとしている。

これを読む限り、アオッサは単なる民間施設ではないようで、県や市の対応も強く問題視するべきだろう。県側の主張も、「注意喚起」だけなら間違っていないと思うが、統括責任者の判断が尊重できるという主張は受け入れがたい。


また、政治的であるとして一方的に展示会が規制されたという件では、ニコンサロンにおける慰安婦写真展がいったん認められながら中止に追いこまれた事件も思い出す。従軍慰安婦問題の加害性や、慰安婦が痛ましい環境に置かれたことは、建前としては日本政府も認めているのに、中止においこまれてしまった。ニコンサロンでは、同時期にも戦争を題材にした報道写真展が開かれていたのにである*2
なお、アジアプレスに掲載されている安世鴻手記によると、駄目もとという気分で応募しており、そのこともあって当初からパンフレット等の情報をくわしくニコン側に伝えていたという。それなのに満場一致で審査を通過したこともあって、ニコン側へ尊敬の念をいだいていたそうだ。突然の中止決定までは。
http://www.asiapress.org/apn/archives/2013/03/19140826.php
この経緯から考えると、たとえ事前に内容をくわしく説明していても、アオッサが同様の対応をとったかもしれないと感じる。

*1:もちろん皮肉の意味。

*2:たとえば予定と同じ月に、アフガニスタン戦争の現状を追う広河隆一写真展や、リビア革命を映した青木弘写真展が開かれていた。http://www.nikon-image.com/activity/salon/exhibition/2012/05_shinjyuku.htm