法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒season12』第15話「見知らぬ共犯者」が、ゴーストライターとメディア扇動をめぐる物語だった

いきなり冒頭から弟子の絵を自作として師匠が発表し、弟子の怒りをかって殺されるという展開。
先日から話題になっている佐村河内守ゴーストライター事件との符号を感じずにいられなかった。
http://webronza.asahi.com/culture/2014021000005.html

「全聾(ろう)の作曲家」「現代のベートーベン」などと呼ばれていた「作曲家」佐村河内守(さむらごうち・まもる)氏(50)が、実は「ゴーストライター」に作曲を依頼していたことがわかった。この事件が発覚して以来、CDが出荷停止になったり、公演が中止になるなど波紋が広がり、メディアでは一転して「偽ベートーベン」「詐欺師」などと厳しい批判が出ている。彼は確かに悪い。しかし、「ヒロシマ」や「ハンディキャップ」を売りにする音楽業界、音楽以前に「感動の美談」をありがたがる聴き手の側にも問題はないだろうか?


ただし『相棒』の公式サイトあらすじでも書かれていないように、弟子と師匠の殺人事件は本筋ではなく、実際は劇中劇。現実に殺されて捜査対象になるのは俳優を辛口批評していた評論家だ。
http://www.tv-asahi.co.jp/aibou/story/0015/

 辛口で知られる評論家の山路(小林尚臣)が何者かに殺害された。山路は様々な分野で持論を展開、雑誌界のご意見番とも呼ばれていた。かつては人気俳優の有村(天野浩成)を「実力ゼロ」とこき下ろし、人気が低迷した有村は逃げるように日本を離れた。その有村が数年ぶりに帰国し、舞台の凱旋公演を行うという。

さらに少しネタバレすると、殺された辛口評論家は、きちんと本人が取材して批評していたのではなく、編集部に注文されるままバッシング記事に名義貸ししていたことが明かされる。
佐村河内守ゴーストライター事件でもあらためて問われた、メディアが対象を虚像化して恣意的に賞賛したり酷評したりする問題。表現する側に虚偽があったのではなく、評価する側に虚偽があったという構図で、自然にメディア側や観客側の問題へと物語を展開していった。


もちろん制作者がドラマを作っていた時、佐村河内守ゴーストライター事件が発覚するなどと予想できなかっただろう。だからといって、ただ予言や偶然と考えるのも少し違うと思う。社会のさまざまな問題を率直に描きつづけているドラマだからこそ、ただの偶然という以上に、社会で進行している出来事と符合する確率が高いのではないか、と感じる。
なお、ミステリとして今回は登場人物が少ないため真相に見当をつけることは難しくないが、古典的な手がかりから推理していく流れはシンプルながらていねいで、これも悪くなかった。