法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『映画スイートプリキュア♪とりもどせ! 心がつなぐ奇跡のメロディ♪』

TVアニメ放映中の2011年10月に公開された、ミッシングリンク的な劇場版。
http://www.toei-anim.co.jp/movie/2011_suite_precure/
敵だった王メフィストの洗脳が解け、その姫キュアミューズをつれて異世界メイジャーランドへ帰ろうとする。しかし人間世界から音楽が奪われる現象が発生。そこでプリキュア全員がメイジャーランドへ突入すると、味方だった女王アフロディテが異変をきたしていた。


これまでの劇場版に比べて、かなりTV本編と密接なつくりで、明らかな矛盾も見られない。アイテムを争奪しながらさまざまな世代のドラマが同時進行し、新しいプリキュア形態の誕生に収束していく構成が美しかった。
まず印象に残ったのは、TV本編では洗脳が解けてから挽回する機会のなかったメフィストの大活躍。これまでのシリーズ劇場版は、プリキュア同士の横のつながりが重視され、近い世代のゲストとのドラマが多かった。夫婦愛や親子愛を重視して、ファミリー映画らしく構成したシリーズ劇場版は珍しい。
そのような独自性を出せたのは、『スイートプリキュア♪』のメインがキュアメロディキュアリズムの2人組で、その補佐がキュアビート1人と、比較的にプリキュアが少人数で余裕があるゆえ。そして劇場版の前後で本格的に登場したキュアミューズが、物語の主軸ながらメインより幼い世代で、両親もプリキュアに関係しているためだろう。
多人数を描く必要がないから、メイン2人組も円熟したパートナーとして活躍する余裕がある。補佐組のコメディチックな失敗談も楽しく描かれ、無駄なキャラクターがいない。さすがに劇場版オリジナルの友人や敵役は印象が弱いが、必要最低限の出番はあった。


制作スタッフを見ても、TVアニメのメインが担当している。池田洋子監督はTV本編でも2度ほど演出。脚本は大野敏哉シリーズ構成。仕事の速い*1高橋晃キャラクターデザイナーなど、映画版デザインおよび作画監督までつとめる。TV本編と比べて映像に違和感なく、うまく全体がブラッシュアップされていた。
映像として面白かったのは、逆光を多用した森林や、高低差をもって描かれた城。プリキュアが生活している一種の外国*2として、緻密に美術設定されていた。城の高低差は、メフィストの活躍を映像で説得的に描くためにも重要な意味がある。音楽をモチーフにした作品で音楽が奪われる展開なためか、常に環境音が鳴りつづける音響も面白い。


ひとつ残念なところとして、劇場版としてはアクションが弱い。作画は極めて安定しているのだが、動かすことが得意なアニメーターが少ない。
そもそも騙しあいや勘ちがいで物語が進行するため、アクションの重要性が低いし、単純に分量も少ない。もともとTV本編もプリキュアシリーズとしてはアクションが弱めだったが、劇場版ならば派手な場面を多く見たかった。
特に、戦闘におけるメイン2人組の最も楽しい描写が、敵の拘束攻撃で密着してイチャイチャする場面というのは、プリキュアとしてどうかと思った。それもふくめて百合アニメとしては良かったのだが。

*1:どれくらいのスピードかというと、『スイートプリキュア♪』の仕事と同時期に、TVアニメ『デジモンクロスウォーズ』の作画監督をローテーションでつとめていたほど。

*2:冒頭でメフィストが警察に説教されたり、為政者と自称したため政治家あつかいされたり、人々が生きる対等な世界として位置づけられている。