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法華狼の日記

2015-10-24

[][]『ハーモニー』『虐殺器官』を批判する匿名記事を読んでいて気づいたこと

下記の匿名で書かれた批判文が注目を集めていた。

王様は裸だ! と叫ぶ勇気 ?伊藤計劃『ハーモニー』の崩壊?

今回は、自分の名前を出して発言するのはあまりにリスクが大きいと判断して、不本意ながらこういう形を取らせてもらった。実は匿名で書くことにすら尻込みを感じている。

 なぜなら僕が今から批判しようとしているのは熱狂的なファンを多くもつ作家――伊藤計劃氏の作品だからだ。

始めて読んだ氏の作品は、『虐殺器官』だった。新人のデビュー作ながらその年の、SFが読みたい! の1位を取ったというので、期待をもって読み始めたのだ。

 しかし、あまり感心しなかった。なぜなら作中のメインアイデアである「虐殺の文法」というものが、言語SFの歴史の中ではさほど捻ったものではなく、更に2005年に別の日本人作家が発表した短編とも酷似している。

僕は『ハーモニー』のアイデアも独創的だとは思わない。

 ユートピアを追求したら自由意思の存在しないディストピアになってしまったという結末は、星新一や、アシモフの代表作のほか枚挙にいとまがないし、クラークの某長編をはじめとする「人類補完もの」のバリエーションのひとつとも読める。


主として批判されている2作品については、過去に感想を書いたことがある。どちらも軽くネタバレをしている。

『虐殺器官』伊藤計劃著 - 法華狼の日記

虐殺を発生させるSF設定も同種で、結末まで同じだった。そして後から作者自身が影響関係を認めていたと知った……

『ハーモニー』伊藤計劃著 - 法華狼の日記

優しいディストピアに違和感をいだいた少女達の物語……だと思っていた。

たしかに『虐殺器官』に新味がないというところは匿名記事と同じ感想だったし、先行作品があることは作者もインタビューで明言していた。

しかし『ハーモニー』がディストピア小説ということは自明で、ミァハという一個人の目的と動機こそがメインアイデアであり、匿名記事は要点がずれているように思える。


さて、この匿名記事の正体を商業SF作家と考えているコメントが多数ある。

具体的にいうと山本弘だ。ひきあいに出されているタイトルも、山本作品との影響関係があるらしい『キノの旅』だったり、過大な期待が裏切られた前例としてよく批判している『さよならジュピター』だったり。

「SF」や1ケタ数字が全角で書かれていることから縦組みを意識した文体と指摘するものもあるし、そう考えると文頭に空白を入れているのも商業作家らしい。はてなでエントリを書くと、自動的に文頭に空白が入るように整形されるので、わざわざ空白を入れる人は少ない。

同じプロット重視の観点からツイッターでSF作品を批判していたこともある。その時、日本の現役作家に対しては具体名をさけていた。

SF小説とプロットについて - Togetter


もちろん匿名記事の正体をさぐっても批判の妥当性とは関係ないし、有名な特徴を押さえているということは模倣できなくはないということでもある。

ただ、少なくとも匿名記事が山本弘を意識しているのは間違いないと思う。山本弘の名前を出していないのが、その根拠だ。

『虐殺器官』『ハーモニー』それぞれの先行作品はほとんど作者か題名の具体名をあげているのに、ネタバレを避けるように具体名を出していない短編がひとつある。その特徴が山本弘作品のひとつと符合するのだ*1

検索してみると『虐殺器官』の先行作品として言及する文章が複数みつかる。もしこれが本人でなければ、重度のファンだろうなという印象は受ける。

*1:匿名記事を尊重して具体名はさけるが、収録されている短編集にリンクしておく。http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/20914.html

AiAi 2015/10/25 15:23 >しかし『ハーモニー』がディストピア小説ということは自明で、ミァハという一個人の目的と動機こそがメインアイデアであり、匿名記事は要点がずれているように思える。

「アイデアが独創的ではない(なぜならありふれたディストピアものであり、既存の作品の世界設定にも似ているから)」という部分についてはそのような反論も可能でしょうが、匿名記事が『ハーモニー』に対して向けている批判のメインは「プロットや構成がきちんと成立していない」のほうでしょうね。
そういった点も含めて、内容的にも文体的にも山本弘を非常に強く想起させる文章だというのは、私も感じます。

hokke-ookamihokke-ookami 2015/10/26 08:23 はてなブックマークのangmar氏によると、少なくとも『ビブリオバトル』シリーズで『虐殺器官』を肯定している描写があるとのこと。私はWEBで立ち読みしたことがあるだけで判断できませんが、なるほど論争競技を描いた作品にしても匿名記事を書くようであれば全否定はしないかな、とは思ったり。


Aiさんへ
>匿名記事が『ハーモニー』に対して向けている批判のメインは「プロットや構成がきちんと成立していない」のほうでしょうね。

ただ『虐殺器官』も『ハーモニー』も主観で描かれた作品ですから、そのような主観になることを納得できれば成立しうるんですよ。ミァハの行動が実際にどこまで全世界を変えられたかは問題になっても、ミァハがそのような行動を選んだ動機に納得できて、全世界の調和をトァンが認定すれば、致命的な問題にはならない(もちろん説得力の多寡や、作中主観が作中現実とずれると共感が減じるといった問題は残ります)。
『ダークナイトライジング』では悪人の行動にツジツマがあってないことを批判できても、『ダークナイト』の悪人はツジツマのあわないことをするキャラクターだから問題にならないという風に。

周 2015/10/26 18:08 何となく考えてみたんですけど、Googleでちょっと調べれば過去に何があったのか解る(データベース化されてるし)山本弘氏のイメージダウンを今更試みた所で大した効果があるわけでも無いし、注目を浴びたい愉快犯か脛に傷を持つ山本弘氏を盾にしようとしたチキンか、あるいは単に偶然似ただけの可能性もありますよねえ。(逆に言えばその頃のイメージが未だに引き摺られているとも。)
ていうか、以前にもハヤカワ書房を非難するエントリ(※)が載っていましたけど、やはり寡作で夭折であるが故に注目を集めやすい伊藤計劃氏の作品に対する懐疑の念がSFファンの間にはうっすらと漂っているのでしょうかねえ。
※http://anond.hatelabo.jp/20140308193257

yonocoyonoco 2015/10/26 19:55 まあ、山本弘さんフォロワーが案外いると言う話なのかもしれませんね(;´д`)

うーんうーん 2015/10/26 22:18 作品例だけ挙げて山本弘に繋がる具体名だけは出さぬ理由が計りかねる、のですよね。
純粋なフォロワーであるならそういう振るまいに至る動機もありませんし、逆にイメージダウンを狙った手口としては少々迂遠、じゃあ氏本人が「明確に名前を出すわけにはいかないが自分であるとは匂わせたい」と考えたのだとしても、伊藤計劃批判ってそこまで建前じみたタブーなんですか?という疑問が。

「伊藤計劃に懐疑を挟みたいが、でもいまどき山本弘の名前出すと説得力落ちるしなぁ……」みたいな「影響は受けてるけど評価は否定的」な人ならつじつまは合う…んでしょうか。

AiAi 2015/10/26 23:07 >法華狼さん

そういった場合は、個別の作品ごとに

・登場人物が非合理的な行動をしているとして、それは非合理的な行動をするような人物として描写されているためなのか、それとも単に非合理的な考えに基づいて描写された結果なのか

・登場人物や語り手の主観と作中の現実が食い違っているとして、それは意図的にそのようなストーリーとして構成されたものなのか、それとも単に構想が破綻した結果なのか

・上記それぞれの答が後者だとして、それでも結果的にストーリーが成立しているか、少なくとも成立しているという見方が可能である場合、それをどう評価するか

などの問題が絡んできますね。
ネット上で見る議論だと、論点をうまく切り分けられずに紛糾していることも多いですが。

あまり関係はありませんが、以前私が非商業媒体に発表した作品が、ニコニコ動画などで取り上げられてそれなりに好評を得たことがあります。
そのとき少し驚いたのは、私の意図とは異なる(だけならともかく、言い方は悪いですが、ほとんど曲解としか思えない)作品解釈をする人が大勢いたことでした。
まあ他の人を不愉快にさせるような解釈ではありませんでしたから、それで楽しめるのなら構わないと言えば構わないのですが、ちょっと複雑な気分になりましたね。

トールトール 2015/10/27 18:04 コメントしようかと迷っていたら、山本弘氏がツィッターで否定されましたね。
https://twitter.com/hirorin0015/status/658912910110928896?lang=ja
このタイミングで、書き込むのは心苦しいのですが…。
紹介されているブログを読んで、山本氏の文体のようだと感じましたが、ビビッて匿名で書こうという人間が、いつもの文体を使うものだろうかとも思いました。

でも、これが話題になれば山本氏による伊藤計劃氏の批評が効けるかもと、ちょっと期待した自分がおり、ひょっとしてブログを書いた人もこれを期待したのかもと思いましたが、昔の特撮番組の悪の組織バリに遠大過ぎる計画ですね。
でも、これで批評は聞けるのかな?

南無三南無三 2015/11/30 12:17 http://hirorin.otaden.jp/e430155.html

既にこのページも紹介されていますが念のため貼ります。
完璧に「迷推理」扱いされていますよ。

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