法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『バリバラ 禁断の実は満月に輝く』

Eテレで放映中のバリアフリーバラエティ番組『バリバラ』の特集ドラマ。
NHK バリバラ|禁断の実は満月に輝く
昨年末に放映された『悪夢』は意欲的なだけでなく、サイコサスペンスとしても純粋に感心させられるものだった。
『バリバラ特集ドラマ「悪夢」』 - 法華狼の日記


今回は直接的な続編だが、全聾の桑原亮子が脚本を担当したり、一部スタッフが交代。前作ではオチをつける小道具だった「禁断の実」を求めて、統合失調症ダウン症のコンビが山奥にわけいっていく。そして果実の効果があらわれる満月まで、近くの民宿に逗留する。
他人に無関心な都会を舞台とした前作に対して、今作の舞台は老人ばかりのさびれた農村。民宿には認知症の老母がいたり、とおりがかりの農業者は腰をいためた老人だったり。統合失調症に悩まされている主人公だが、この村では力持ちの若者としてたよりにされる。いずれ誰もが何らかの障碍をもつし、その重さは社会が相対的に生みだす、そんな空間。
そして民宿の主人は、老母や娘をひとりで必死に支えている。どこまでも善良で、生きることに切実で、しかし老母や娘を守ろうとして人前に出そうとしない。そこで主人公とともに来た「ダウン症のイケメン」が、窓辺の娘にひかれていく。


今回は恐怖演出はほとんどなく、人物が登場するたびに説明を入れたり、内面の声をフキダシで表現するという演出を多用して、風刺的なファンタジーコメディにしあげていた。
どこまで社会問題に踏みこめるか、どこまでドラマとして完成度を高くできるか、それだけでも興味を引けた前作に対して、今作は評価の高かった作品の続編というハードルをこえなければならない。思いきって方向性を変えた判断は悪くない。ただコメディ色を強くしただけでなく、前作では描かれなかったパターナリズム……つまり庇護しようとして抑圧してしまう問題を主軸にして、また違った後味のラブストーリーにしあげていた。
もちろん単独のドラマとしても真面目につくられていて、それだけで見ごたえがあった。長い橋をつかったデートシーンなど、ただ風景が印象的なだけでなく、わたる途中で父親にひきかえさせられる展開が、教科書的なメタファーだけに効果的。やはり伏線もていねいで、禁断の実がなくなっていた理由には、登場人物のバカっぷりに笑いながら感心した。