法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ワンピース〜アドベンチャー オブ ネブランディア〜』

新世界での旅をつづける麦わらの一味。とおりがかった島で助けを求める女性を見て、サンジを先頭にかけつける。
しかしそれは、かつてルフィたちにデービーバックファイトをしかけて敗れたフォクシー海賊団の罠だった。
麦わらの一味は意外な再会にとまどいながら、新参謀コーメイの計略との対決を余儀なくされる……


土曜プレミアム枠で放映されたアニメオリジナル完全新作SP。シリーズ初代監督の宇田鋼之介監督による、すこしなつかしい雰囲気の物語。脚本は冨岡淳広
http://www.fujitv.co.jp/fujitv/news/pub_2015/i/151109-i201.html
まずは大食い勝負でゾロとサンジが見せ場をつくりつつ早々に物語から脱落し、麦わらの一味に後から参加したメンバーが活躍していく。コーメイの知謀を見せつけつつ、戦闘力の強弱で活躍がかたよらない*1
略奪者としての海賊を憎悪し、あえて悪魔の実を食べずに戦うコーメイも、作品世界のアンチとなるキャラクターとして印象深い。映画『ONE PIECE FILM Z』のように敵役によりそいすぎて主人公側の影がうすくなることもなく、海軍入隊時の短い回想だけでコーメイが貫いた信念と重ねた年月を感じさせる。筆文字演出という映像リソースを消費しすぎない特徴がつけられていて、アニメキャラクターとしてもよくできている。
地味に良かったのが、しっかり基本設定を説明してから物語展開で機能させていること。たとえば悪魔の実の能力者は海が苦手という設定を、しりぞくコーメイをルフィが追う場面で描写し、悪魔の実を封じていくコーメイの策略の基盤とする。作品の人気にたよらず、ひとりひとりのキャラクターを描いているから、よく設定を知らない視聴者でもドラマを追っていけるだろう。ひとつひとつの伏線はベタだが、ていねいに物語におりこんでいるから納得して楽しめる。
島ひとつつかったコーメイの罠という制限した舞台で、三者三様の思惑がぶつかりあってもわかりやすく、重すぎず軽すぎない後味とともにドラマが終わる。TVSPらしい軽い娯楽としてよくまとまっていた。


ただ、あくまで作画はTVSPレベル。アクションで動きを止める場面は目立たず、もちろんTVアニメの標準よりはいいのだが、これまでの『ONE PIECE』2時間SPに比べると凄みが欠けていたかな。
キャラクターデザインと総作画監督はシリーズの作画監督をつづけてきた高木雅之だが、作画監督も補佐も多めで、制作の余裕のなさがうかがえる。ちなみに絵コンテも5人。
アニメーションとして目を引いたのは、前半でしりぞくコーメイをウソップとルフィが追おうとする場面と、クライマックスのルフィとコーメイの決戦くらい。

*1:ふたりが強すぎるから自作ではあまり活躍しないと監督自身が放映直前にツイートしている。宇田鋼之介 on Twitter: "劇場版にせよ、SPにせよ、僕の作品ではゾロサンが活躍しない。強すぎるってのもあるんだけど。今回も・・・?"