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法華狼の日記

2016-01-21

[][]「証拠によって明らかとされております」「証拠をもってその存在を決することが可能な事項ではない」どっちだよ

Wikipediaの「吉見義明」項目は、出典を誤読した記述が多い その2 - 法華狼の日記のコメント欄で「荻上チキSession22」が裁判をとりあげていると教えてもらった。


公式サイトを見ると、被告となった桜内文城元議員のツイートが紹介され、判決文のPDFファイル*1や要旨のテキストも掲載されている。

2016年01月20日(水)DNSセレクト「吉見義明教授の[従軍慰安婦]本めぐる名誉毀損裁判。判決文全文掲載&荻上チキのコメント」 - 荻上チキ・Session-22

「『従軍慰安婦は性奴隷ないし性奴隷制度である』と評価することは『誤りである』、『不適当だ』又は『論理の飛躍がある』」などといったことは、証拠をもってその存在を決することが可能な事項ではないから、事実の摘示とはいえず、意見ないし論評の表明に属するというべきである。

このように、事実の適示ではなく論評の表明だから名誉棄損というほどの違法性はない、という判断だった。


性奴隷説の妥当性にふみこまないどころか、性奴隷説は証拠で決められるものではないのだという。だとすると、証拠をもって性奴隷説を否認することもできなくなるように感じる。

そもそも裁判で争われた桜内元議員の発言は、「吉見さんという方の本を引用されておりましたけれども、これは既に捏造であるということがいろんな証拠によって明らかとされております」*2というものだった。桜内元議員の認識においても、「証拠をもってその存在を決することが可能な事項」だったのではないのか。


判決文で裁判所の判断と桜内元議員の主張が衝突しているのはここだけではない。「捏造」という言葉のニュアンスもそうだ*3

口頭で述べられた短いコメントであり、これを耳にした者が「事実でないことを事実のように拵えて言うこと」という「捏造」の本来の語法どおりに理解するかは疑間がある。

上が裁判所で、下が被告側。

慰安婦がすなわち日本軍の「性奴隷」と断定することは、「事実でないことを事実のように拵えて言うこと」、すなわち「捏造」に他ならない。

その根拠となった理屈にしても、被告側は裁判所が「そぐわない」と判断した言葉づかいをしている*4

従軍慰安婦が「性奴隷であった」かどうかは、事実そのものではなくそう評価すべきかどうかという問題であるから、事実について用いられる「捏造」という言葉はそぐわない。

上が裁判所で、下が被告側。

原告の主張が悪質なのは、

「従軍慰安婦は軍による性奴隷であった。」という虚構の事実を捏造し、事実と見せかけて原告の政治的主張を世界中にまき散らしたことである。

この判決文を読むだけでは、あたかも裁判所が被告自身の主張を無視して発言を解釈したように感じられてしまう。


もちろん実際には判決文にも被告側が「全て争う」とだけ書かれて、実際の主張が省略されている部分がある。

たとえば「捏造」が本来のニュアンスで理解されない根拠として、同時通訳が「incorrect」と翻訳したという部分は、第8回口頭弁論の反対尋問で出てきていた。

YOいっション: 吉見裁判 第8回口頭弁論&報告集会 参加記

会見時の通訳が「ねつ造」を“incorrect”(不正確)と訳したことから、被告発言は名誉毀損とまで言えないのではという質問もあった。

とはいえ、この原告側レポートを読んだ時は、この質問が判決を左右するとは思わなかった。

桜内元議員も判決の理路を予想していなかったのかもしれない。判決の直前に下記のようなツイートをしていた。

こうした桜内元議員の主張と判決をくらべた疑問は、「荻上チキSession22」でもポッドキャストの9分くらいから指摘されている。さて、控訴でどうなるか。

*1http://www.tbsradio.jp/ss954/20160120.pdf

*2:判決文10頁目。引用時に読点をおぎなった。

*3:判決文12頁目、6頁目。

*4:判決文11頁目、6頁目。

上毛三山上毛三山 2016/01/23 16:43 「荻上チキSession22」で取り上げていましたが
想像通りというかなんというか、判決内容を無視して「性奴隷が捏造だったことが示された」とミスリーディングする言説を産経や桜内氏らが広めて回っているようですね。
控訴後の動きにもよりますが、おそらくネット上で吉見教授について言及しようとすると、今後は「朝生」の件(まあ、こちらは最近あまり出てこないようですが)に加えて、このことも持ち出す人が一定数でてきて、判決文に言及しなければならない機会が増えるのではと思います。

公法課公法課 2016/01/24 08:02 すいません、細かい点ですが、

>このように、事実の適示ではなく論評の表明だから名誉棄損というほどの違法性はない、という判断だった。

ではなく、精確には、事実の摘示でなく論評による名誉毀損に当たるが、公益性等の免責要件を充足する、というものかと。
(事実の摘示として構成するのも不可能ではなさそうですが、結局免責されるであろう事案のように思われます。)

他人の議論に対する論評であっても、人格を攻撃するようなものは名誉毀損として違法性が認められますため、念のため。

匿名希・望匿名希・望 2016/01/24 10:30 むしろ、「捏造」が人格を攻撃するものではないという方が問題ですね

公法課公法課 2016/01/24 11:22 >むしろ、「捏造」が人格を攻撃するものではないという方が問題

文脈によってそうなる場合があり得ることはもちろん否定されませんが、「捏造だ」と言えばそれだけで他の事情を問わず違法性が認定されるというのは中々恐ろしいことではないでしょうか。(^^;;
今回の件でいえば、吉見教授が「あの議員こそ性奴隷はなかったなどと歴史を捏造している」と言っても名誉毀損に問われ得ることになってしまいます。

はてブでもイデオロギーや主張の異なる人に対して些か強い表現を用いる記事はありますが、そうしたものにまで違法性がどんどん認定されかねません。

そもそも「名誉毀損」は表現の自由との緊張関係に常に配慮しながら個人の名誉を保護する制度であり、異なる見解のいずれが正しいかを決する道具ではない、という認識はもっと広がって良いように思います。

以上追記失礼しました。

hokke-ookamihokke-ookami 2016/01/24 12:17 被告が強気で主張しているところと、弱気の表現だったという法廷戦術を同時につかっているところ、裁判所が後者ばかり採用して棄却したので、ことさら奇妙な判決に思えちゃうんですよね。
それこそ最初に吉見教授から違和を唱えられた時、“口頭のやりとりだったから、言い間違った”と弱気に釈明して一貫していれば、裁判を起こされることすらなかったかも。


上毛三山さんへ
>判決内容を無視して「性奴隷が捏造だったことが示された」とミスリーディングする言説を産経や桜内氏らが広めて回っている

極端にいえば、「性奴隷説を捏造することは不可能だから、捏造という表現をつかっても違う意味を意図していたはず」という判決文ですのにね。


公法課さんへ
>すいません、細かい点ですが、

いえ、コメントありがとうございます。

>(事実の摘示として構成するのも不可能ではなさそうですが、結局免責されるであろう事案のように思われます。)

そこはどうなんでしょう。当時議員だった政治家による広く公開された記者会見において表明され、その後も撤回の機会があったのに撤回しなかったという経緯からすれば、たとえ口頭であっても免責されるべきものとは思えないのですが……


匿名希・望さんへ
ええ、そのために「本来の語法どおりに理解するかは疑間がある」というアクロバットな判決になったわけで。
たとえば同時通訳って、どれほど優秀であっても細かいニュアンスがとりこぼされるのは当然で、そちらを判断の基準にもちいることが正しいとはどうしても思えない。

通りすがり通りすがり 2016/01/26 14:14 名誉毀損の判断についてなのですが、
この判断は桜丘側の主張に対して裁判官が追記したようなものです。

というのも、名誉毀損で訴えたにも関わらず、吉見側がそれの被害について一切述べなかったからです。

裁判官は吉見側に対して「名誉毀損の被害を述べよ」と何度も通告したのですが、吉見側は一切無視。
なので、裁判官は諦めて桜丘側に「そのコメントが名誉毀損じゃないことを立証してください。」となり
桜丘側はそれを行ったというわけです。

なお、吉見側は「これ」の指す語を公判中二転三転させた上、慰安婦の強制性を述べるばかり。
裁判官も好き勝手ばかりするのでお怒り。

正直なところ慰安婦が捏造かどうかというより、そもそも訴状の名誉毀損で公判が維持出来なかっただけという代物です。
(よくもまあ付き合ったよ、裁判官・・・)
なので名誉毀損について深読みするものじゃないですね、これは。

通りすがり通りすがり 2016/01/26 14:16 あれ?2つ登録されてしまいました。
すみませんが1つ消してください。

hokke-ookamihokke-ookami 2016/01/26 14:26 二重投稿は消しましたが、全体として判決文を見てのコメントとは思えませんね。
そもそも「桜丘議員」って誰ですか……1回2回ならともかく。

>吉見側は「これ」の指す語を公判中二転三転させた

判決文を読めば、「これ」の指す語について桜内側の当初の主張を排して、書籍を指すという吉見側の主張を認めているわけですが(10〜11頁)。

上毛三山上毛三山 2016/01/26 20:31 “原告側の”という注釈はつきますが、口頭弁論の報告を見るだけでも
「二転三転」させたのは桜内氏側であると思うのですが

第3回の報告を読むと
http://www.yoisshon.net/2014/04/blog-post.html

>「訴状と請求原因が違う」「内容を変えたのか」
といったことを被告側は言っていたようなので、「通りすがり 2016/01/26 14:14 」さんは
そういった桜内氏側の話を真に受けたといったところですかね?

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