法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『バリバラドラマ第3弾 アタシ・イン・ワンダーランド』

『悪夢』『禁断の実は満月に輝く』につづく、Eテレで放映中のバリアフリーバラエティ番組『バリバラ』の特集ドラマ。
NHK バリバラ | バリバラドラマ第3弾 アタシ・イン・ワンダーランド
ニューヨークで展示されたアート作品が、どのような環境で誕生したのか。そのアート作品の解説を担当している女性が、滋賀県福祉施設「やまなみ工房」で働きはじめた日々を語る。


今回は通常の30分枠におさまる短編で、前回や前々回との連続性はない。実在する施設を舞台に、実際の障碍者をドラマに登場させる。
まず映されるのは、一作ごとに十数万円でとりひきされるようなアウトサイダーアート作品。たしかに映像で見ても迫力がつたわってくるし、制作風景も多様で魅力的だ。作画オタクが好きそうな線画も多くて、半数くらいは私も良さを感じられた。
やまなみ工房
ただし、特性が生みだした造形物の魅力を社会が理解できるのは、ほんのひとにぎりの最上位にすぎないだろう、とも思った。主人公がアートへの感想をのべていく導入部分は、興味深くあったが、ドラマの語り口としては違和感がある。ついでに、祖母と会話する主人公のカメラ目線も不自然だった。


しかし、何も作らずインスタントラーメンの袋を見つめ続ける女性がピックアップされてから、すべてが自覚的だったことが明らかになっていく。
その女性のアートづくりを手伝おうと、インスタントラーメンの袋をとりあげ、画材を与える主人公。もちろん女性は拒否するし、自由を尊重するようにと施設長も主人公へ語る。
「やまなみ工房」は人間が自由であれる場所。施設長がちゃらんぽらんで、主人公の採用も即決した冒頭が、ここで活きてくる。主人公は反省して、特定のインスタントラーメンの袋に執着する女性のありようを肯定するようになる。
そしてラーメンが特定の商品だからと、ドラマのため架空のパッケージへ交換するようフレーム外からのびてきたスタッフの手を、主人公は涙混じりに拒否する。カメラに向かって、ドラマを作るために被写体の気持ちを無視していないかと、正面から糾弾する。


障碍者の一面にだけ光を当てることは思いちがいを生まないか、ドラマを制作するにおいて登場する実在の障碍者を利用だけしていないか、メタフィクショナルなドラマとして自らを問いなおす。
そう理解できればコンセプトは貫かれている。同時に、普通に主人公が障碍者と関係をはぐくむドラマとして、登場する障碍者の魅力をひきだすドキュメンタリーとして、それぞれ成立している。
主人公の祖母が認知症らしくて、福祉施設よりも会話が通じていなさそうなのに、主人公がまったく気づいていないという趣向も、ドラマ第2弾を延長したような相対化描写で興味深かった。
『バリバラ 禁断の実は満月に輝く』 - 法華狼の日記

舞台は老人ばかりのさびれた農村。民宿には認知症の老母がいたり、とおりがかりの農業者は腰をいためた老人だったり。統合失調症に悩まされている主人公だが、この村では力持ちの若者としてたよりにされる。いずれ誰もが何らかの障碍をもつし、その重さは社会が相対的に生みだす、そんな空間。


ただひとつ致命的に残念なのは、どうしても尺が短すぎること。主人公の認識が変化する過程は理解できるものの、ドラマスタッフに激怒するほどの心情の変化は不自然に感じられた。
主人公の認識が一変してからドラマスタッフとのやりとりを描くまで、もっと劇中の時間の流れを体感させてほしかった。もしくは、主人公は激怒するのではなく、自分自身に言い聞かせるような注意にとどめるべきだった。