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法華狼の日記

2016-10-22 上げたのは1日後

[][]あまり「萌え」がわからぬ動物として、少し源流の記憶をたどってみる

作豚は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の売豚を除かなければならぬと決意した。

作豚には売れ線がわからぬ。作豚は、村の無職である。法螺を吹き、恐竜と遊んで暮して来た。けれどもテロ力に対しては、人一倍に敏感であった。

太宰治 走れメロス


まず、『プリキュア』シリーズの統計や記録で有名なid:kasumi19732004氏のブログで、気にかかる問いかけがなされていた。

プリキュアって「萌え絵」なの? - プリキュアの数字ブログ

おなじ同期の「魔法少女モノ」アニメ

どこまでが「萌え絵」でどこからが「萌え絵」じゃないのでしょうね?

誰か教えてくださいな。

しかし提示されているのはキービジュアルだけ。デザインが同じでも、作画担当者が違えば印象が変わる。あえて暴論をいえば、河野宏之作画*1だと萌え絵ではなく、上野ケン作画*2だと萌え絵として受容される、という観測もできる。

そもそもキャラクターの受容は、絵だけでなく話や声とも密接な関係がある。一枚絵で判断できる場面もあろうが、だからこそ細かく区別したいなら文脈を踏まえるしかない。前後してkasumi19732004氏が書いている推測を、ここでこそ適用するべきだろう。

世間において「萌え絵」かどうかは、絵だけで判断されるものではなくその背景にある「社会性」をもみられるのでしょうね。


「萌え」とは自然発生したあいまいな概念であるが、とりあえず語源として複数の説が考えられている。

その説において、具体的なキャラクターが元ネタとなった可能性が指摘されているのは大きく分けてふたつ。アニメと実写を融合させた教育アニメ『恐竜惑星』の主人公「萌」と、少女漫画原作*3TVアニメ美少女戦士セーラームーン』のサブキャラクター「土萠ほたる」だ*4

美少女戦士セーラームーンS VOL.6 [DVD]

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どちらも1990年代の子供向け作品のキャラクターである。つまり「萌え」とは制作側が提供したのではなく、視聴側が見いだしたものだった*5

『美少女戦士セーラームーン』から、『おジャ魔女どれみ』等をへてつながっている歴史を思えば、『プリキュア』シリーズも視聴者の受容で「萌え」に位置づけられることもある、と考えるべきだろう。


つまりkasumi19732004氏が紹介していたシリーズ構成の証言も、『プリキュア』シリーズが「萌え絵」であることの否定ではなく、『プリキュア』シリーズが「萌え」として受容されることを抑制する動きと解釈すべきだろう。

ドキドキ!プリキュア?博愛の理由?【16】|山口亮太|note

更に言うと、近年のプリキュアは「性」を感じさせる描写は極力避けるようにしています。彼女たちの胸はほとんどフラットですし、シャワーや水着といった肌を露出する描写も基本的にNGということになっていました。つまり、彼女たちは性を剥奪された存在なのです。

もともと水着をつけさせないという自主規制は『おジャ魔女どれみ』シリーズからあった。プールで泳ぐエピソードが作られたのは、映像ソフト販売を前提とした『おジャ魔女どれみ ナ・イ・ショ』でのこと。

おジャ魔女どれみ ナ・イ・ショ

もうすぐ夏休みの登校日。この日はクラス対抗の水泳大会が開かれます。水泳の苦手などれみはゆううつそう。あいこは今日もMAHO堂の仕事を早めに終えて、市民プールに特訓に出かけます。

『プリキュア』シリーズでも受容側が問題視された事例として、公式と誤解されかねないコラージュを無思慮に流布されることへの公式的な苦言があった。

一般論としても、表現の自由とは、批判や反論の自由でもある。

ただ反発をさけたいだけなら公開を限定するべきだろうし、議論をするなら他者へ敬意をもって誠実になされればいい。


ここから主観的な感覚を中心に、あくまでひとつの証言として当時の記憶を書いていく。

まず、アニメで性愛の対象として女性を描く作品は、すでに無数にあった。はっきり成年向けのアニメを、若年層向けの題材と絵柄で描いた『くりいむレモン』シリーズが1980年代から発売されていたほどだ。だからこそ「萌え」は、直接的な性愛とは微妙に区別され、まさに草木を愛でるようなニュアンスもふくめられていた……と記憶している。

たとえば『恐竜惑星』の主人公は、性愛の対象としては幼くデザインされていた。作品自体が放映の不規則さや映像ソフト展開のなさで、アニメファンでも一部の好事家が注目するものだった。

『美少女戦士セーラームーン』は初期から年長向けアニメ雑誌でも注目されていたが、「土萠ほたる」が登場したのはシリーズ3年目の『美少女戦士セーラームーンS』でのことで、重要な役割ながら主体ではなかった。作品の初期も、まず注目されたのはサブキャラクターの「水野亜美」で、主人公ではない。いずれにせよ比較的に内気であったり、はかなげな役割であった。

『美少女戦士セーラームーン』において、高身長で怪力な「木野まこと」や、最年長の「冥王せつな」、男装の麗人「天王はるか」、天王はるかのパートナー「海王みちる」は、それぞれ「萌え」の対象となる場面が少なかった。特に「海王みちる」は、レズビアニズムに近しい女性的エロティシズムが多く描写されていたが、主人公チームとは独立した強力コンビの一員として位置づけられ、あまり同時代的な「萌え」の対象にはされていなかった*6

美少女戦士セーラームーンS VOL.2 [DVD]

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だから下記エントリでid:ohnosakiko氏が指摘した分類は、その良し悪しなどはさておいて、「萌え」という概念の発生に符合しているように思える。

「エロいかどうか」より「御しやすそうに見えるかどうか」では - Ohnoblog 2

露出度では明らかに左のピーチ・ジョン(女性の下着通販会社)の広告の方が高く、ポーズもセックスアピールそのもの。それをもって「左の方がエロいのに」という意見だが、ポイントはそこではないと思う。

こうした攻めの要素は、右の『鉄道むすめ』版の「駅乃みちか萌えキャラバージョンには皆無だ。


とはいえ、「萌え」という概念は浸透と拡散をくりかえしている。需要側が勝手に見いだすだけでなく、供給側も意図して送りだすようになって久しい。厳密さが求められる議論においては、「萌え」という概念よりも別の表現が使いやすいことは多いだろう、とは考える。

ただ、だからといって全ての表現が「萌え」に内包されるわけではない。どちらかといえば「萌え」はあいまいな理想を指しており、それにそぐわぬ表現が強く反発された場面も少なくない。

「萌豚は、作画を殺します。」

「なぜ殺すのだ。」

「悪意を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪意を持っては居りませぬ。」

「たくさんの作画を殺したのか。」

「はい、はじめはうつのみや作画*7を。それから、ベルカ式*8を。それから、オサムワールド*9を。それから、少し頭冷やそうか*10。それから、とらドラ版権*11を。それから、にほちも*12を。」

 聞いて、作豚は激怒した。「呆れた萌豚だ。生かして置けぬ。」

太宰治 走れメロス


今回は、どちらの何が正しいという話をしているわけではない*13。ただ、肯定否定をふくめた反応を消化して、切磋琢磨してこそ表現は進歩していくものだという理想はある。

私たちは、黒人奴隷の苦難を描いた『アンクル・トムの小屋』や、先住民族の尊厳を描いた『ダンス・ウィズ・ウルブズ』が、それぞれ題材にしたマイノリティに批判され、それを受け止めて新たな表現が作られる時代に生きている。

*1スイートプリキュア♪ 公式サイト 東映アニメーション

*2スイートプリキュア♪ 公式サイト 東映アニメーション

*3:ただし漫画家が作品を主導していたわけではない。もともと東映女児向け作品が先行して企画されていた。そこで少女漫画誌で変身少女ヒーロー漫画を描いていた作者が原作を担当したという順序。

*4:少女漫画『太陽にスマッシュ!』の主人公名から引いたという説はWikipediaを見て初めて知った。現在はインターネットで無料公開されている。太陽にスマッシュ! 1 - あゆみ ゆい | マンガ図書館Z - 無料で漫画が全巻読み放題!

*5:実際の源流とは違っているかもしれないが、そのような説がとなえられても明確に否定されないくらいには、違和感をもたれないような受容のかたちが当時あった、とは考えられる。

*6:念のため、「天王はるか」と「海王みちる」は宝塚的な受容がされるキャラクターとしての人気は高かった。その人気が「萌え」とは違っていた、という印象の話である。そもそも『美少女戦士セーラームーン』ごろから、女性作者による女性が性愛の対象となるパロディが増えたという観測もある。作品全体としては、高年齢の女性アニメファンにとっても性的主体性応援するものだった、と考えられる。

*7創聖のアクエリオン

*8アニメーターのわずかな個性も許さないアニメファンに絶望した! - ARTIFACT@ハテナ系

*9グレン団活動報告「ドリル銀河に男の魂ッ!」: 第四話「顔が多けりゃ偉いのか?」

*10J& blog http://jahy.info/: 作画崩壊って単純には表現できない感情を何とか表現しようとした果てでもあるよね

*11lunaticprophet.org - 

*12『鉄腕バーディーDECODE:02』第7話 WE WILL MEET AGAIN - 法華狼の日記

*13:「悪意」を作画にこめようとしたアニメーターは実在する。

hokke-ookamihokke-ookami 2016/10/24 12:35 「実際の源流とは違っているかもしれないが」に始まる注記を追記。

上毛野すもの上毛野すもの 2016/10/25 22:28 とりとめもなく、つらつらと

*6の内容とかぶりますが
はるかとみちるに関しては男性の「萌え」対象ではなかった一方でBLを好むような女性層、あるいは、CLAMP作品を好むような女性層から大きな支持を得ていたように記憶しています。
所謂「萌え」ではないものの、「オタク」的な需要は多かったですよね。

それから、「萌え」の中でも「萌え4コマ」というジャンルがありますが、これの始祖(?)として挙げられる『あずまんが大王』や、このジャンルに分類される『けいおん』などのアニメ化された有名作品でも絵柄に関してはあまり『萌え絵』的な印象がないものもあるような感じがします。
(『らき☆すた』あたりは微妙なところ?)
「萌え4コマ」に別称として(?)「日常系」というものもあるので、このあたりの分類も曖昧なラインがありそうですが。
まあ、今現在「萌え4コマ」を謳っている雑誌(きらら、ぱれっと)の絵柄のほとんどは「萌え絵」に分類されるタイプのものではあるとも思いますが。

「萌え絵」の源流として「アニメ絵」があることは間違いないかと思うのですが、ふと、『サルでも描けるまんが教室』のアニメ絵の解説のことを思い出し、検索してみたら竹熊氏のこういった記事がありました

【猿漫】「サルまん」の作り方・補足
http://memo.takekuma.jp/?p=651

蛸笛蛸笛 2016/10/26 01:14 >どちらかといえば「萌え」はあいまいな理想を指しており、それにそぐわぬ表現が強く反発された場面も少なくない。

私の場合「萌え」といえば女児向け作品や、そこから派生した要素を人工的にまとめ上げたような「デ・ジ・キャラット」とか、
要は「エロさを意識的に排除した結果生まれた新たな概念」という認識がありましたので
あの透けスカートに惚れ顔で「萌え絵」はないだろう、とは思うんですが、どうもその呼称が肯定サイドにおいても受容されているっぽいので
「萌え」とは今でも固定化せず変異し続けているのだろうか、それとも私が若さを失っただけなのか、と感慨深く見ていました。

上毛野すもの上毛野すもの 2016/10/26 18:13 ちょっと昨日の自身の記述で
>BLを好むような
と書きましたが、当時だとまだ「ヤオイ」の方が呼称としては多かったでしたっけ

それから、「萌え4コマ」誌発でアニメになり、あまり「萌え絵」の要素を感じない作品として『キルミーベイベー』もあるかなと、ギャグ主体だからですかね。

もうひとつ、「アニメ絵」→「萌え絵」の流れで考えると、作者が『天地無用!』や『大運動会』の販促マンガを描いていた『あずまんが大王』はやはり「萌え絵」の系列なのか?と一晩経って考えました。

蛸笛さん
>女児向け作品や、そこから派生した要素を人工的にまとめ上げたような
>「エロさを意識的に排除した結果生まれた新たな概念」

「萌え絵」には少女漫画的な要素もあるためそれが強いと蛸笛さんのおっしゃるようなものになるのに対し
現在の、いわゆる「オタク第一世代」とは若干異なる、「萌え」「コミケ」で語られるような「オタク」向けコンテンツとしてアダルトゲームや18禁同人誌が定着しているのが結構影響として大きいのではないかと私は感じます。(『げんしけん』に描かれているような「オタク」像とでもいいますか。)

R2R2 2016/10/30 16:04 萌えだろうがエロだろうが、性」を感じさせる描写をさけるプリキュアの方針は妥当でしょう。そんなもの子どものためにもならないし、親御さんだって安心しよう。

そうそう、恐竜惑星は金子隆一氏が手掛けたSF大作だった。
最近のラノベは俺最強!やハーレムものに偏重しているので、もう少し参考にしていいと思う。

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