法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

国有地払い下げにまつわるレポートを読んで、新聞社が優遇されているかもしれないと感じたケースはないでもないが

森友学園が小学校をつくるにあたって、不当に国有地が払い下げられた疑惑が報じられた初期のこと。
批判への相殺を目的としてか、新聞社が国有地を払い下げられていたという過去をもちだす意見が散見された。


代表的なものとして、橋下徹氏のツイートと、牧太郎氏のコラム記事を紹介する。

格安国有地なら「朝日も森友も同じ!」と主張する面々 | 毎日新聞出版

朝日新聞社には、ちょっぴり「旗色が悪い」ところもある。
 むろん朝日だけではないが、大新聞は過去に「国有地の一等地」の払い下げを受けている。報道機関であるなどという理由で、格安で払い下げられた例もある。某新聞社のケースでは、3・3平方メートル当たり数百万円は下らないといわれた土地を数十万円で手に入れたとも報じられている。また、複数の新聞社が「特定の国有地」を奪い合ったこともある。国有地を手にするために各社は、時の総理や大蔵大臣をはじめ、自民党有力議員と折衝し、コトを動かしてきた。
 その「大昔」のことをほじくり返して、安倍さんの周辺には「朝日も森友も同じではないか!」と言う人もいるらしい。

しかし牧氏も説明しているように、初期に報じた朝日新聞が特に追及されていたものの、一社だけが独占的に払い下げられたわけでもなかったし、森友学園と同じような情報の隠蔽や資料の破棄といった問題が指摘されたわけでもない。
いまだに疑惑が語られるだけで、それすら下火になっているところをみると、森友学園の問題と相殺できるような疑惑は見つかっていないのだろう。


さらに払い下げにおける具体的な動きについて簡単に調べてみると、慶應義塾大学の浜ゼミで興味深いレポートがアップロードされていた。朝日新聞と読売新聞が戦後に本社移転した経緯について引用する*1
http://hamazemi624.up.seesaa.net/image/E382B5E38396E382BCE3839FE8AB96E99B86EFBC8812E69C9FE7949FE6B59CE382BCE3839FEFBC89.pdf

警視庁は朝日社屋周辺地区を土曜、日曜は歩行者天国にしたいという強い希望を持っていた。さらに、有楽町駅前の再開発計画も進んでいた。このため、このまま社屋周辺にトラックや乗用車が出入りしたり、駐車することが困難な情勢になった。また手狭な有楽町社屋では、将来の新聞製作のための技術革新が不可能であった。
 社屋建設のための敷地を探していた朝日は、東京都築地中央市場の西側に、海上保安庁水路部を改築したあとの空き地があることに着目し、1970年(昭和45年)12月に関東財務局に払い下げ申請を行った(日本航空との連名。日本航空は後に辞退)。

つまり朝日新聞にも本社が手狭になったため移転したい動機があったが、公的な政策によって不利をしいられる立場でもあった。これでは本社移転のため便宜がはかられたのだとしても、もし土地の相場に比して格安だったとしても、とうてい批判されるべきこととは思えない。
その2年前に読売新聞も、印刷能力のとぼしさを挽回するため、払い下げられた土地を買いとっていた。ここで出てくるのが産経新聞だ。

務台社長は都内の敶地を探す中で大手町の国有財務局と関東財務局の土地が民間に払い下げられるという情報を得た。しかし、90社から100社ほどの企業と競合しており、その中には産経新聞もあった。その中で、読売はすでに産経は2回も払い下げを受けていることや新聞社の公共性を国に訴え、1968年(昭和43年)9月に売買契約を受けた。

牧氏のコラム記事にあった「複数の新聞社」による奪い合いとは、おそらくこのケースのことだろう。払い下げを受けるために公平を求めた読売新聞の理屈は、理解できなくはない。
ただひとつ、レポートの簡単な説明を読んだかぎりでは、産経新聞が特別に優遇されたかのような印象をおぼえないでもない。残念ながらレポートは産経新聞については主題的に論じておらず、払い下げの妥当性を感じさせるような記述は見つからない。
いずれにせよ、新聞社が払い下げを受けた過去への追求が下火になったことも当然と思わざるをえないレポートではあった。

*1:PDFファイルのノンブル61〜62頁。引用時、注記番号を排した。